Scene 2

 苛烈なる砲撃の雨は止み、

「アケディア、ドラゴンブレスは撃てるか?」

《主砲“終焉の執行ルシファーズ・ハンマー”は、熱量不足により射出不能》

 AIの共有意識に聴こゆるは、戦闘補助OS“アケディア”の

《交戦継続は可能、とは言ったけど……さすがに分が悪いわね》

「……」

 製造経過年数、十六年。

 白皙の肌と、穢れを知らぬ処女のような清麗さも兼ねそろえた竜人ドラゴニュート

「破壊された左腕を復元」

 なれど、その美貌かおが生み出す表情は皆無。

 AIがナニカを失ってしまった時は、いつも「ああ、壊れた」と認識するだけ。


 そう、彼女は人形……。

    心が壊れた、冷たい生体兵器マシーン――。


《諒解、修復プロセスへと移行》

 AIを中心に風が巻き起こり、周囲の塵や鉱石を分解。

 採集された物質は再構築され、失われたはずの左腕を復元し、

《AI、あなたの直感でマスターの――コアの位置は特定できる?》

「リヴァイアサンから鼓動を感じることはできない。あの鎧の中身は、がらんどうだ」

 即答したAIは、緑玉色エメラルドの瞳で彼方の闇を見据える。

《心臓であるマスターが存在しないのに、悪魔の鎧デモナイズド・メイルが動いているなんて……》

 大国ロシアを単機で滅ぼし、東日本を焦土に変えた鋼鉄の巨獣。

《俄かには信じ難いけど……現状、無限の復元能力を持つ相手に勝てる見込みはない。AI、この戦域からの離脱を――》

 そう判断したアケディアは撤退を命じるが、

《な――》

 研ぎ澄まされた直感によって危機を察した竜は、横方向へと跳躍。

 刹那、飛来した砲弾によって背後にあったビルは粉砕され、大地に飲み込まれるかのように沈み、

電磁投射砲レールガン!》

 二極のレールを軸に電磁誘導ローレンツ力により加速され、重戦車の複合装甲すら貫く閃鋼せんこう

 衝撃波音が響き渡るさなか、AIは灼けた銃身を急速冷却する異形の姿を、鋼鉄のワイヤー線のような長髪をじゃらりと鳴らした人影を捉え、

解析完了アナライズド。……敵生体を“死徒ドゥーム・スレイヤー”と認識》

 別名“地獄の騎士ルシファー・ナイト”とも呼ばれる、尋常ならざる怪物。

《どうやら、簡単には見逃してくれないようね》

 漆黒のガスと外殻甲冑よろいを装甲した難敵の出現に、アケディアは歯噛みし、

「……敵生体を駆逐し、戦闘区域から離脱する」

 炎と闇がゆらめき、相克する化物ケモノは火花を散らした。

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