【GL】天使の羽は白とは限らない

祐里(猫部)

淡くてきれいなブルーグレー


絵里えりちゃん、天使の化石見せて」


 目の前の高校二年生の少女は、三歳年下の私の教え子だ。ふっくらした頬にかかる癖っ毛を邪魔そうにどけながら、無茶なことを言う。


「そんなんじゃないって。ただの蒙古斑もうこはんよ。あと、先生って呼んで」


「だって、天使の羽が肌に埋め込まれてるみたいなんだもん」


「……お母さん帰ってくるまでに世界史のテスト範囲終わらせないと、怒られちゃうわよ」


 そう言って私が机の上で世界史の教科書を広げると、彼女は「んもう」と頬を膨れさせた。


「ちょっとでいいから」


 顔の前で手を合わせて必死に「お願い、苦手なのもがんばるから」なんて言う姿を見せられる。私はもう成人なのに、簡単に絆されそうになるなんて。


「……少しだけよ。写真は撮ったらだめだからね」


「撮らないよ。静止画なんて意味ないもん」


「動画もダメよ」


「動画だって同じだよ。その時の価値は、その時だけのものなんだから。……絵里ちゃん、スカートめくっていい?」


 そろそろと椅子を立った私の返答を待たずに彼女はさっと立ち上がり、私のスカートを腰まで上げた。


「まだいいって言ってないじゃない」


「いいでしょう? 次のテストで絶対成績上げるから。ねっ?」


「……天使の羽は白とは限らないなんて、教えなければよかった」


「十五世紀から十六世紀にかけての、受胎告知などの天使を描いた絵画は、白ではない羽の天使が描かれているものが多い」


「よくできました。……ふぅ、仕方ないわね。じゃあ遥香はるかさんにやってもらうのは恥ずかしいから……」


 仕方ないだなんて、本当は喜んでいるくせにと、自分を客観的に見つめる。私はこの少女に体を見せることを喜んでいるのだ。口では大人ぶりながら。


「呼び捨てにしてくれないの?」


「……遥香、自分でやるから」


「やっ。私がやる」


 子供特有の小さなわがままだ。口元がへらへらとゆるんでいるのが憎らしい。遥香は私のショーツを下ろして尻を露わにした。守るものがなくなった皮膚に、ひんやりとした空気が走る。


「天使の化石……きれい」


「だから、ただの蒙古斑だってば。色だってそんなにきれいじゃないでしょう?」


「ううん。淡くてきれいなブルーグレーだよ。絵里ちゃんの肌色に合ってる」


 見えなくても、遥香が私の尻をうっとりと眺めている様が手に取るようにわかる。この瞬間がたまらない。嫌がった風を装いながら彼女に尻を見せるのは、もう三回目だ。


「大人になってもこんなに鮮やかに残ってるなんて、絵里ちゃん本当に天使なんじゃない?」


「そんなわけないでしょう。ほら、世界史……って、ちょっと!」


 私の言葉なんか聞きもせず、遥香は尻をなで始めた。手荒れなどなさそうな華奢な指が、滑らかに私の尻を這いずっている。触られるのは今回が初めてだ。


「触るの気持ちい……」


「だめ、勉強の時間よ」


「そう言われると、よけい触りたくなる。絵里ちゃんのお尻」


 絵里ちゃんのお尻、という言葉が、私の中に軽い疼きをもたらす。遥香に、触るのが気持ちいい尻と認識されているのだ。私も触られるのは気持ちいい。いや、そんな言葉では表せないくらいの悦びや快感を覚えている。二人の思いは噛み合っている。でも――


「勉強しないと」


「だって、絵里ちゃん逃げないじゃない」


 どきりと心臓が大きく脈打ち、鼓動を速める。


「本当は絵里ちゃんもこういうの好きなんでしょ?」


「そういうわけじゃな……」


 するりと背中側から伸びるしなやかな手が、私の腹に回った。もう片方の手はスカートの布地を被されながら、尻をなで続けている。どくん、どくんと、胸の鼓動は私を無視してうるさく鳴っている。


「絵里ちゃんの心臓、速くない?」


 いたずらっぽく笑っているであろう、背後の手がアンダーバストのあたりを触りながら言う。服の上からでよかったという気持ちと、ブラウスのボタンを外してほしいという気持ちが混在していて鬱陶しい。


「絵里ちゃんも期待してるんだよね? 私の触り方、上手なんだよね?」


 遥香の挑発的な言葉に、少しだけ緊張の声色が乗っている。やはりまだ高校生なのだと、そこで私は我に返った。


「そういうんじゃなくて、びっくりしただけ。ほら、勉強」


 なるべく低い声で言い放ち、私は遥香の抱擁から逃げてショーツを元に戻した。


「えー、せっかくママがいないのに」


「そんなことしてる暇あったら、世界史の教科書開いて。成績上げるってさっき言ったよね」


 あどけなさを残す顔を不満そうに歪める遥香を、私は叱る。時々こうして厳しいことを言わないと、彼女はどんどん増長してしまいそうだから。


「成績上がったら、何かご褒美くれる?」


「……そうね」


「期待してるね」


「はいはい」


 期待しているのは、私の方だ。嫌がるふりも、自分がより一層大きな快感を得たいから。遥香には悪いけど……


「ご褒美で天使を犯すって考えたら、がんばれそう」


 笑顔で楽しそうに言う遥香。


「何よそれ」


 気付かないふりをする私。


「絵里ちゃん演技下手なんだもん」

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【GL】天使の羽は白とは限らない 祐里(猫部) @yukie_miumiu

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