Chapter.2 9歳~王都へ行こう~

02.01 :昼に駆ける@王都への道

 名前 :グアノ

 体長 :160cm

 重量 :67.5kg

 スキル:防臭、異次元収納



「ふむ、欲しいのはスキルなんだよなぁ」


 随分と大きくなったウンゴーレム、グアノを見上げながら俺はそう呟いた。この能力を授かって約1年半、グアノの背丈は俺よりも大きくなっていた。

 ぶっちゃけ、此処まで大きくなるだけでももっと年月がかかると思っていた。だが、計算してみると納得は出来た。ウ★コの重さは大人だと平均して150~200gくらいである。俺は子供なので150g弱。快食快便ヒャッホゥな俺なので、そこそこの頻度で便は出る。そんな約150gのウ☆コを450日出してしまえば、それだけで0.15kg×450日=67.5kgとなる。意外と人間は大量の排泄を日々しているらしい。と、閑話休題。

 ユリン嬢からの手紙にも、辺境伯両での魔獣退治について書かれていた。領主夫妻が最前線に出ることはありえないが、未来を考えたならば戦える力はあるに越したことはない。その為にはスキルだな、と話は最初に戻った。

 俺は自身の能力であるウンゴーレム自身を再確認した。



 ウンゴーレム Lv.4:錬成&合体、防臭、異次元収納



 俺のウンゴーレム錬成&合体というウンゴーレム作成そのもの以外のスキルがあるので、俺がスキルを得ればそれを反映出来る?

 それは後日検証するとして、今は動きの方も再確認してみよう。


「モーモー体操第一!」


 もーもーも、ももももっ、もーもーも、ももももっ……♪

 おうっし、にー、さんしー、もーもー、さんしー……

 おうっし、にー、さんしー、もーもー、さんしー……

 グアノは俺の動きを倣ってしっかりとラジオ体操した。そこは出来て当然。では、次。俺は頭の中でグアノに父から習った体術の型をやるよう命じた。

 そうすると、俺の動きが目の前に無くてもグアノは命令通りの型をしっかりとやり遂げた。


「よしっ!」


 俺はガッツポーズをした。これで少しは戦える気がした。俺が脳内できちんとマルチタスクが出来ていれば、一対一戦いを一対二であるかのように行えるだろう。そう、マルチタスクが出来ていれば。……大切なことなので、二度言ったが。

 じゃあ次は……と考えたところで、俺の部屋のドアがノックされた。トン、トントン、トントコ♪


「イ、ン、ド」


 き◆しのズンドコ節のリズムだった。何でやねん。俺が去年、ユリン・ドアをノックした際に使ったからか? 母がおもしろおかしくその時の話をしたからか?

 まあ、何か兄の琴線に触れたのだろう。俺はドアを空けて、ノックの主を部屋に招き入れた。

 その主はモチのロンで、兄だった。


「インド、何やってんの? そろそろ王都に行く時間だよ」

「おや、もうそんな時間ですかい」

「そうだよ。って、それはグアノかい? ちょっと見ない間に随分と大きくなったじゃないか」

「でしょ?」


 俺は生みの親として、その言葉にちょっと嬉しくなった。そして、色々なポーズを披露してやった。サイドチェスト! ダブルバイセップス・バック! モスト・マスキュラー!

 ゲッツ! アァンド、ターン! お久しブリーフ! そして、退場ポーズも彼の真似して……

 グアノには異次元収納へ帰っていってもらった。異次元収納、それは異次元空間へウンゴーレムを収納出来るスキル。ウンゴーレムがLv.3になった時に得たスキルなのだが、大きくなってきたグアノを運ぶのに箱が要らなくなって、とても便利だった。

 兄はグアノの動きを見ながら、驚いた顔を見せた。


「インドの能力、段々と凄くなってきたじゃないか。って、それよりもう出発する時間なんだよ!」

「おおっ、そうでしたな。じゃ、行きますか」


 俺は既に用意してあった荷物を持ち、兄と共に部屋を出て、馬車の待つ場所へと向かった。そうして、俺達は出発となった。

 行先は勿論、王都だ。ゲッツ! ……ああ、主な目的は兄の王侯貴族高等学園入学の為だから、それはちょっと違うな。修正しよう。ゲリッツ!






 カラカラカラカラ……

 馬車は軽快な音を立てながら、王都への道を駆けていた。外からは馬が駆ける蹄の音も聞こえた。俺達は曲がりなりにも伯爵家、貴族である。馬車を引く馬だけでなく、護衛となる兵士達の乗る馬が10頭とかなりの大人数となっていた。だが、人が多いと父に言うと、父自身が戦えるということでそれでもかなり少なめらしい。マジで?

 と、そんな状況説明は置いておいて、カラカラカラカラ……その車輪音を聞きながら、俺はその音が前世で聞いた福引のガラガラって回す抽選機に似ている気がしていた。カラカラカラカラ、コロッ。金色の玉、特等ハワイ旅行です。おめでとうございまーーーーす!!


「インド」


 肩を揺すられ、俺は現実に戻された。戻したのは兄だ。妄想の中で、俺はふくよかな体型のハワイアン・ダンサーズとフラを踊るところだったんだがな。踊れないけど。踊り、知らんけど。

 まあ、現実に戻されたんじゃ仕方ない。何か用でもあったのかと兄に訊くと、兄は質問を投げてきた。


「さっきインドの部屋でグアノを見せてもらったじゃない? グアノの丸い頭の上にあった2つの小さい丸は何だったんかと思ってさ。アレは何なんだい?」


 何だ、そんなことか。俺はサクッと答えた。


「耳ですね」

「じゃあ、グアノはインドの声を認識する力があったりするのかい?」

「そんな機能はない筈ですが、それが何か?」


 グアノはゴーレムである。言ってしまえば、人形である。感覚以前に意思を持たない。

 それって、当たり前田のアツコですよ?


「じゃあ、前面に付いていた小さい2つの丸と大きい1つの丸は?」

「目と鼻ですね」

「でも、見たり臭いを嗅いだりといった機能は……」

「モチのロンでそんな機能はないですが、それがどうかしました?」


 再度、グアノはゴーレムである。言ってしまえば人形である。

 それって、当たり前田のダイゼンで(以下略)。


「いや、それじゃ特に付いている意味はないんじゃないかなって」

「クリちゃんは分かっていないわねぇ。飾ることは大切よ? 殺風景なものでは誰もついてきませんからね?」

「それとこれとは別問d……、いえ分かりました」


 それとこれとは別問題じゃね? って反論したかったであろう兄は、言いかけたところで諦めた。うむ、それが正解である。我等がマザーは残念ながら人の話を聞けるタイプではない。

 その御意見無用なマザーは、今度は俺の方を向いて訊いてきた。


「ところでインちゃん、貴方はそのグアノ、何を模して目・鼻・耳を飾ったのかしら?」

「ああ、熊ですね」


 本当はピンク色の、血反吐出しつつ暴れるアンチクショウですが。まあ、通じないのでね。ただ、熊だというのは決して間違いではない。

 と思考したところで、母の目がキラキラと星よりも輝いているのに気付いた。母は思い切り俺を抱き締め、激しい勢いで俺の頭を撫で回した。って、摩擦がっ! 摩擦がっ! 摩擦がーーーーっ!


「ああああっ、偉いわ。偉いわ! 偉いわーーーーっ! さっすが、私のインちゃん♪」

「母上、ハゲる! ハゲる!ハゲるーーーーっ!」


 グリグリ回す母の手を俺は無理矢理引き剥がし、母のホールドからも力ずくで逃れた。インドール・S・バウルムーブメント9歳、鍛錬もしてますからな。

 そんな俺に逃げられた母は、笑いながら残念と言って舌を出した。テヘペロかい!

 と、そんなやり取りを見ていた兄は、驚いた顔をして訊いてきた。


「グアノの姿を熊に似せたものにした。母はそれだけで何でインドを褒めちぎったのです?」

「ああ、ユリン嬢の好きな動物が熊で、色々な熊のヌイグルミを集めているからじゃないですか?」


 俺は母が答える前にそう答えた。理由としてもそれしかなかったからだ。

 母は目をキラキラさせながら祈るようなポーズをして、そうよそうよと首を縦に振った。


「婚約者であるユリンちゃんが好きな熊のヌイグルミを模したゴーレムを傍に置く。共にいる。それはラァブラブラブ、ラブじゃないの〜。素敵だわ♪」


 まあ、ユリン嬢の部屋にあったぬいぐるみは多種多様で、黒のアイツっぽいのやセオドアっぽいやつなど色々あったのだが、ピンク色のいたずらな奴はなかった。じゃあ、それにしようかってだけだったんだが……それは言わぬが花か。

 母は兄の方にも目を向けた。そして、当然のことのように質問した。


「クリちゃんはジルちゃんの好きなもの、ちゃんと知っているかしらぁ? 知っているわよねぇ?」


 ぶっちゃけ脅迫である。母は笑顔だが、脅迫である。目が笑ってねぇ。

 とは言え、それは兄にとって恐れるようなものではなかったようで、兄はスラスラと答えた。


「ええ、知っていますよ。花だとヒマワリのような大きなものよりタンポポのような小振りな花が好き。スイーツではフルーツゼリーが好き。ビターなものはちょっと苦手。あと、末っ子なので姉という存在に強い憧れがある。まあ、ざっとこんな感じでしょうか。まだまだ、ありますけどね」

「いいわ、いいわ。クリちゃん、お見事よ♪ 私の息子達はどちらも婚約者の女の子をちゃ~んと大切にする子で良かったわー♪」


 母はまた満面の笑みになり、今度は兄の頭を引き寄せて、激しく撫で回し始めた。ちょっと待って、激しい、恥ずかしい、やめてください……といったことを兄は叫んでいたが、止めませんよ? 母からは俺が絡まれることが多いので、たまには兄も構われるが良い。まあ、それくらいならハゲたりもしないだろ。

 と、馬車の中では平和的に過ごしていたのだが、その馬車が森の中を通ってしばらく経ってのことだった。馬車は急に止められ。


「ま、魔物だ! 魔物が出たぞーーーー!」


 外が騒がしくなり、その平和は破られた。

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