第21話 明かされた正体に、ひれ伏す

「なんということでしょう。義姉様と家族でいられなくなるなんて」

「エミーリア、罪人を庇う必要はありません。私たちはもう関係ないのですから」

「そうね、罪を犯した罰は受けていただかないと」


どこか笑っているように見えたマリッサと、エミーリアに私の瞳は色を失う。

家族ではないと言われたことは、とても嬉しかった。この二人と離れられる。そう思っただけで心が軽くなったけど、罪が消えることはない。


(どうして、どうしてこんなことに)


本当に盗んでなんかないのに、この場でそれを証明できる証拠なんかない。

私はどうすることもできないまま、呆然と立ち尽くす。世界が止まる、周りの声なんか何も聞こえてこない。

ヒソヒソと「恐ろしい女だ」「女神の涙を盗むなんて、信じられないわ」「エミーリア様が可哀想」「他にも盗まれているかもしれない」城内に広がる悪が私を責める。


(私は、……盗んでなんかない)


誰か信じて!

届かない声は喉に詰まり、悲痛な叫びはどこにも届かない。この場に私を信じてくれる人なんて一人もいない。


「罪人、フォリア=アルバーノを牢獄へ連れていけ」


王様の命令が下り、二人の兵士が私の腕を掴む。


「待って、待ってください! 本当に私じゃありませんッ」

「ええいっ、見苦しい! 早くそやつを連れていけ!」


取り押さえられながら叫ぶ私に、王様が苛立ちと怒声を浴びせる。そして、悲しみに暮れるようにエミーリアは、エリオット王子に抱きつく。


「義姉様は、私が羨ましくてこんなことを……」

「エミーリア、あのような罪人のことは忘れろ」

「ええ、もうあの人は義姉でも家族でもありませんから」


そう口にしたエミーリアは、優しく抱きしめてくれるエリオットに寄り添いながら、薄く笑って私を見る。まるで魔女。

届かない、何もかも。


(なんで誰も助けてくれないの?! 私は無罪なのに)


声にならない声は、涙とともにただ流れ落ちるだけ。

このまま牢獄へ連行されれば、きっと首を跳ねられる。死ぬのだと恐怖が全身を襲う。

最後に、たった一瞬でもいい、ルーに会いたかった。『好き』だと伝えたかったと、私は唇を噛み締めたまま、溢れ出す涙を止めることなんかできなくて、大粒の涙を流しながら連行されていく。

どんなに叫んでも誰も私の声を聞いてくれない。盗んでなんかないのに、冷たい視線だけが突き刺さる。


(ルー、セシル、ごめんね。お別れもできないなんて……)


悔しくて、悲しくて、私は最後にマリッサとエミーリアを睨んだ。これがあなたたちの望んだことなのかと。



―― バンッ  ――



謁見の間から引きずられるように連行される途中、突如大きな音を立てて扉が開かれた。

何事かと、誰もが入り口に視線を向ければ、高貴な衣装に身を包んだ黒髪の男性が入室してきた。

それはラーハルド王子の友人として城に滞在していた、ルー=アレフだった。

私はその人物を知っていると、思わず息を呑む。どうしてこんな場所にと。


「罪なきものを裁くとは、この国は節穴揃いだな」


王様を侮辱するような発言をしたルーは、当然王様から怒りを買う。


「貴殿はラーハルドの友人。いかにご友人と言えど、発言には気をつけていただきたい」

「この姿でも、まだわからぬか」

「例えラーハルドのご友人であろうと、私に意見をする立場ではない」


王様は、身をわきまえよと忠告するが、ルーはイルデを呼び、何かを提示させる。

それは一枚の紙と、紋章の描かれたバッチ。


「このお方は正真正銘、ルーカス=アルフレート=ヴォル=オクタヴィア様である」


紋章は確かにオクタヴィア王都のものであり、巻物にはオクタヴィア国王陛下のサインがあり、ルーカスが誠の第一王子であると証明していた。

それに、身に纏う衣装をよく見れば、王家の紋章が刺繍されており、オクタヴィアの正装とも捉えられる。

まさかっ!

誰もが目を見開き、一瞬時が止まったように思えたが、それが事実であると気づいた王様とエリオット王子は、慌てて膝をつく。


「皆、頭を下げよ!」


王様が命を下せば、謁見の間にいた者がみな頭を下げる。



オクタヴィア王都。世界の頂点に君臨する王国で、現在オクタヴィア王都が世界を手にしていると言っても過言ではない。各国にある小さな国には、それぞれ王が存在してはいるが、その全ての頂点にあるのがオクタヴィア王都である。

そして次期国王陛下は長男のルーカス。幼き頃に一度だけ父に連れられ、オーフィリア国を尋ねたことがあり、そこでラーハルドと友人となり、今までずっと手紙で交流を続け、時々お忍びでオーフィリア国に出かけてくることもあったが、王様やエリオットに素性を明かすことはなく、変装して友人として訪れるか、内緒で遊びに来ていた。だから、ラーハルド以外は誰もルー=アレフがルーカスであると知り得なかった。

幼き頃に会っただけのルーカスを、城の者も覚えているはずもなく、護衛もつけずにほぼ単身で隣国にくるなど誰も予想などできず、結局ラーハルドから友人だと言われれば、それを信じたまでだった。


「ルーカス王子と見抜けず、数々の無礼を……」

「陳謝はよい、身分を隠していたのは俺の方だ」


それに関して謝罪は求めないと言い放ったルーカスは、ゆっくりと歩き出し、マリッサとエミーリアの正面に立つ。

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