その18の1「カードゲームとランキング」



「失礼しまーす」



 カイムは頭を下げると、丸テーブルの空いている席に腰かけた。



 すると癖毛の男子が、穏やかな口調でこう言った。



「そうかしこまらないでよ。


 ぼくはヨハン=アムスベルク。


 アルとは同じパーティなんだ。よろしくね」



 次にヨハンの隣に座る男子が口を開いた。



「俺はマックス=ロイターだ。よろしくな」



 マックスと名乗った少年は、固そうな黒髪をつんつんと尖らせていた。



 学校指定の制服を、荒っぽく着崩している。



 温厚そうなヨハンとは真逆のタイプに見えた。



 カイムが気弱な後輩であれば、マックスに気圧されてもおかしくはない。



 だが実際のカイムは、荒事専門のエージェントだ。



 いまさら学生相手に気後れしたりはしない。 



「どうも。


 カイム=ストレンジ。ハースト人です。


 それで、こっちは俺の飼い猫のカゲトラです」



 カイムは優雅ささえ感じられる口調で名乗った。



 そして自己紹介のついでに、ねこ紹介もやっておいた。



 カイムのねこ紹介を聞いて、ヨハンの視線がカゲトラに向けられた。



「綺麗な猫だね」



「うんみゃあ」



「『当たり前のことを言うな』と言っているようです」



 カイムがそう言うと、次にマックスがこう言った。



「なまいきな猫だな」



「はい。まったく」



 カイムがマックスに同意すると、ヨハンがカードの山札を手に取った。



「それじゃ配るけど、


 セブンカードは分かるかな?」



「はい」



 カイムは保護者のジムから、様々な遊びを教わっている。



 ジムの言い分によれば、スパイに必要な教養だそうだ。



 それを抜きにしても、セブンカードは国際的に有名な人気ルールだ。



 カイムも当然に、それくらいは把握していた。



 ローカルルールを確認した後、カイムは三人に混じった。



 カードゲームに興じつつ、アルベルトの友人たちと会話を進めていった。



「ストレンジくんはアルとどこで仲良くなったの?」



 ヨハンがそう尋ねてきた。



「仲良くなってはいないが……」



「俺がジュリエットに決闘で運勝ちしたんで


 その流れですね」



「ジュリエットちゃんに勝ったんだ?」



「ラッキーで」



「普通の2年生が


 ラッキーで勝てるような相手では無いと思うけど。


 あの子は」



「並大抵では無いラッキーだったんです」



「アル。そうなの?」



 ヨハンがアルベルトに視線を向けると、カイムもアルベルトを見た。



 そして黙ってアルベルトの言葉を待った。



「……そうだな」



 カイムの正体をばらすようなことはしない。



 決闘での誓いを、彼は律儀に守るつもりのようだった。



 しかしアルベルトは、虚言を弄するのが好きではないようだ。



 カイムの言葉を肯定した時、彼はじつに渋い顔をしていた。



 ……妹が負けたのが、おもしろくないのかもしれない。



 アルベルトの表情を、ヨハンはそう解釈したのだろうか。



 特に何かを怪しむ様子は見せなかった。



「ふうん? それはとんでもないラッキーだったね。


 ジュリエットちゃんにとっては初デートになるのかな。


 おめでとう」



「まあデートって言っても、


 一緒にお昼を食べるだけですけどね」



「あんまり嬉しく無さそうだね?」



「いえ。とっても光栄です」



 カイムが社交辞令を口にすると、次にマックスが口を開いた。



「そりゃ嬉しくねえよなぁ?


 運勝ちじゃあなあ。


 男ならやっぱ、惚れた相手は


 自分の実力でモノにしたいって思うさ。


 そうだよな?」



(惚れて無いけど)



 カイムはジュリエットのことを、家の飼い猫ほどにも想ってはいない。



 なのでそんなふうに同意を求められても困るのだが。



 わざわざ反発するほどのことでも無かったので、カイムはマックスに頷いた。



「そうですね」



「がんばれよ。


 まあ先は長いだろうが。


 チンタラしてたらあっという間に卒業だぜ。


 それでおまえ、


 今ランキングはどれくらいなんだ?」



「ランキング……?」



 何のことやらわからずに、カイムは疑問符を浮かべた。



 するとマックスは怪訝そうな表情を見せた。



「マジで言ってんのか?


 ドゥエルランキングのことに決まってんだろうが」



 そんなふうに言われても、やはりカイムには心当たりは無かった。



「…………?」



 黙って疑問符を漂わせ続けていると、アルベルトが口を挟んできた。



「ストレンジは転校生なんだ」



 アルベルトの言葉を受けて、マックスは納得した様子を見せた。



「ああ。そうなのか。


 そりゃ知らなくても仕方ねーな」


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