その11の1「決闘の指輪と金欠」



「ひとときって……。


 一回勝ったら一回デートできるって事か?


 昼飯に関しては


 一回だけじゃあ無くて


 できるだけ毎日付き合って欲しいんだが」



「欲張りだね。キミは」



「ダメか?」



「構わないよ」



「お? 気前が良いな」



「どうせ私が勝つと思うしね。


 ううん。


 キミが弱いって言ってるんじゃないよ。


 ただ私は、決闘で一度も負けたことが無いから」



「そんなに強いのか。


 三年生にも負けないのか?


 この学校で一番強いのはジュリエットってことか?」



「ううん。


 さすがに三年の強い人には敵わないよ。


 私としても


 ハイレベルな三年生に何度も戦いを挑まれたら


 体がもたないよ。


 だから、先輩たちには別の条件を設けさせてもらってるんだ」



「……条件? まあ、今は良いか」



(ジュリエットの実力はどんなもんかな。


 学生レベルを突き抜けて


 ぶっちぎりで最強ってんじゃ無いみたいだから、


 なんとかなるとは思うが。


 こっちはトップエージェントなんだからな。


 アマチュアには負けられねえわ)



「それよりも、


 俺たちの決闘のルールの方を教えてくれよ。


 組み手くらいならしたことは有るけどさ、


 ちゃんとした決闘ってのは初めてなんだ」



「初めて?


 前の学校だとこういう事は無かったのかな?」



「おしとやかな所だったんでな」



「ふぅん?


 冒険者学校じゃない普通の学校から来たのかな?


 それでこの学校に編入できるってことは、


 それなりに冒険者としての実績が有るってことかな?


 ハーストのダンジョンでは実力者で通っていたのかもしれないけど、


 最初の決闘の相手が私だなんて


 ついてないね。


 それでね。


 学生同士の決闘には、


 この指輪を使うんだよ」



 そう言ったジュリエットの手中には、いつの間にか指輪が出現していた。



 指輪には白銀のイシがはめられていた。



 どうやら魔石のようだ。



「魔導器?」



 カイムは短く尋ねた。



「うん。決闘の指輪って言って、


 決闘のためのフィールドを作ってくれる魔導器だよ。


 それと、身につけた人が受けたダメージを


 肩代わりしてくれるんだ。


 ダメージを受けすぎると、イシが砕けてしまう。


 お互いに指輪を装着して、


 先に指輪のイシが砕けた方が負け。


 単純だろう?」



「他に小難しいルールとかは無いのか?」



「お互いの合意で


 ルールを追加することもできるよ。


 何か提案が有れば聞くけど」



「いや。何でも有りで行こう」



 カイムは裏の世界で修羅場を潜り抜けてきている。



 何でも有りのダーティな戦いは、むしろ望むところだった。



 とはいえ、学生であるジュリエットをそこまでやりこめるつもりは無い。



 今回は小技程度のものしか使うつもりは無かった。



 そんなカイムの心中など知らず、ジュリエットはカイムに同意を見せた。



「うん。良いよ」



「それじゃあその指輪を貸してくれるか」



 編入初日のカイムは、学校の風習にくわしくない。



 当然に、決闘の指輪など持っていなかった。



 それでジュリエットに頼んだのだが……。



「それはダメだよ」



 ジュリエットはつれなくカイムの頼みを断ってしまった。



「えっ?」



 気前の良さそうな王族の拒絶に、カイムは疑問の声を漏らした。



「この指輪は消耗品だから、


 決闘を挑む側が


 二人ぶん用意するのが決まりだよ。


 今回はキミの意思で決闘をするわけだから、


 キミが指輪を用意しないとね」



「なるほど。そういう決まりか。


 どこで手に入るんだ?


 その指輪は」



「学校の売店で普通に売ってるよ。


 ノートや筆記用具と比べると


 ちょっと値が張るけどね」



「値が張るって……いくらするんだ?」



「一つ80000メルクかな」



「つまり……二つで160000か……」



「そういうことになるね」



「……………………」



 カイムは無言でポケットに手を入れた。



 そこから革の財布を取り出すと、中身を確認した。



 財布には1万メルク紙幣が4枚と、硬貨がいくつか入っているのが見えた。



 それは学生が何日か過ごすには十分な金額だった。



 だが、今回のような予想外の出費に耐えられるほどの金額でも無かった。



「手持ちが無いです……」



 申し訳なさそうにカイムが言った。



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