その10の2



 向こうが畏まらなくて良いと言うのなら、お言葉に甘えさせてもらおう。



 そう考えたカイムは、今までどおりの態度でジュリエットにこう尋ねた。



「それで王族とやらの責務として


 食事をご一緒してもらえるのかな?」



「……それは困るな」



 先ほどと同様に、ジュリエットはカイムの誘いに対して気乗りしない様子を見せた。



「それはルイーズがコルシカ帝の子孫だから?」



「そうじゃないよ。


 ただ、キミは男子だろう?


 キミと昼食を一緒にするということは、


 つまりデートじゃないか。


 私は第一王女として


 軽々しくデートをするつもりは無いんだ」



「言うほどデートか?」



 二人きりで食事というわけではない。



 ルイーズが一緒だし、おそらくはターシャも同行することになるのだろう。



 それをデートだなどと、大げさではないか。



 カイムはそう思ったが、ジュリエットはこう言い切った。



「デートだよ」



 そうですか。



 ジュリエットの堂々たる物言いに、カイムは反論する気も無くしてしまった。



 とりあえずデートということにしておいて、話を進めることに決めた。



「つまり、助けてはもらえないってことか?」



「心苦しいけどね。


 私がキミたちと食事をする必要性がよくわからないし。


 ……ただし、キミが私に勝つことができたら


 その限りでも無いよ」



「勝つって、何の勝負だ?」



「戦士としての決闘だよ」



「ずいぶんと大げさだな」



 カイムは秘密情報部の戦闘員だ。



 その若さからは想像できないほどの荒事を、幾度となく経験している。



 とはいえ、大立ち回りをする時には、いつもそれなりの理由が有ったものだ。



 たかが昼食のために決闘をもちかけられるのは今回が初めてだった。



「私はね、こう見えてモテるんだよ。


 いちいちデートをお断りしてたらキリが無い。


 そう思ったから、


 高いハードルを設けてみることにしたのさ」



「そのハードルが決闘?


 最近のお姫さまはずいぶんとマッチョなんだな」



「ここは冒険者学校だからね。冒険者らしくってことさ」



「はあ。下心は無いんだがな。俺には。


 なんとかハードルを下げてもらえないもんか」



「む……。私に対して


 まったく魅力を感じないっていうのかい? 王女なのに」



「身分とかは……」



 どうでも良いと言いかけて、カイムは途中で言葉を止めた。



(っと、こういう時は相手を褒めるのが


 人間関係を円滑に行かせるコツだったな)



「いや。ジュリエットは美人だよ。


 凄まじくな。


 ジュリエットみたいな素敵な女子と恋人になれたら、


 何よりも幸せだと思うぜ」



 カイムの言葉を受け、固くなっていたジュリエットの表情がふにゃりと弛んだ。



「っ……そう思う?」



「ああ。だけどさ、人には分相応ってモノが有るからな。


 俺なんかじゃ、


 ジュリエットみたいな最高の女には釣り合わない。


 だからさ、最初から恋の相手としては


 意識しないようにしてるのさ」



(カイムさん、誰にでもそういう事を言うんですね……)



 遠巻きに事態を見ていたルイーズが、拗ねたような表情を浮かべた。



 一方でジュリエットは、ルイーズとは対極的な笑みを浮かべていた。



「ふ……ふふふ。そう思う?


 そうかそうか。高嶺の花か。


 キミは王女である私のことを、そんなふうに見ていたんだね。


 キミはとても綺麗だし、


 そんなに自分を卑下しなくても良いと思うけどね。


 けど、なるほどね。


 道理で私への態度がちょっとそっけないワケだよ」



「誤解させて悪かったな」



「良いよ。だけどね、ストレンジくん。


 悲観しなくても良いんだよ。


 私と決闘して勝てば良い。


 たったそれだけでキミは


 学校でのひとときの思い出を手に入れることが出来るんだから」



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