その9の2



(上品な食べ方だな)



 カイムがそう思っていると、ルイーズが困り顔を見せた。



「あの、あまり見つめられると食べにくいのですが……」



「え? ああ、悪い」



 カイムはルイーズから視線を外し、他の席を見た。



 おおぜい居た生徒たちの半数以上は、すでに食堂を後にしていた。



 やがてルイーズがスパゲティを食べ終わった。



 その数秒後に、5時限目のチャイムが鳴った。



「すいません……」



 ルイーズは申し訳なさそうにそう言った。



「良いって」



「……はい」



 二人は足早に教室に戻った。



 教室内には既に教師の姿が有った。



 授業が始まっているようだった。



「すいません。遅れました」



 カイムが教師に謝罪をした。



 ジュリエットがカイムをちらりと見た。



「早く座りなさい」



 教師がそう言ったので、カイムはすぐに自分の席に座った。



(あんまり怒られないんだな。ゆるい校風なのか?)



 それからは普通に授業を受けることになった。



 午後の授業が終わり、放課後になった。



 教室の椅子に腰かけたまま、カイムは考えた。



(さて、どうするかな……。


 本来ならクラスメイトを遊びにでも誘って


 友情を深めなきゃならんところだが……)



「ストレンジくん」



 カイムが思考を終える前に、ジュリエットが話しかけてきた。



 その後ろにはターシャの姿も有った。



「ん? ああ。また明日な」



「うん、また明日……って違うよ!?


 帰りの挨拶がしたかったワケじゃないから!?」



「そうか。それじゃあ何だ?」



 カイムが尋ねると、ジュリエットは表情を正してこう言った。



「午後の授業に遅刻して来たね?


 さっそくレオハルトさんから


 悪い影響を受けてるじゃないか」



「レオハルト?」



「彼女の名字だよ。


 彼女はあの『十年帝』、


 コルシカ=レオハルトのひ孫なんだ」



 ジュリエットが口にしたのは、クリューズ帝国の2代前の皇帝の名前だった。



(ルイーズ=レオハルト。


 クリューズ帝国皇帝、シャルル=レオハルトの娘か。


 お隣の国の皇女さまだったとは。


 道理で物腰に気品が有るわけだ。


 冒険者学校に居たとはな。


 というか長官……。


 学校に居る重要人物の情報くらいは


 教えておいてくださいよ……。


 まったく期待されてないのか? 俺。


 二つ星だから……)



「まさかそんな事も知らずに


 彼女と仲良くなろうとしてたのかい?」



 それはスパイ相手としては痛恨の一言だった。



 あまりにも物を知らなすぎる。



 心臓に針を突きたてられたような気分になりつつ、カイムは言葉を返した。



「……これから知るところだったんだ」



 それは反論と呼べるほどの言葉ではなく、語勢も弱かった。



「明確に悪影響が出てしまった以上、


 キミと彼女の関係を


 見過ごすわけにはいかない。


 考え直して欲しいな。


 レオハルトさんと付き合うのは」



「たしかに俺は物を知らないし、


 遅刻もまあ、


 良い事じゃ無いんだろうさ。


 けど俺は、おまえが知らないことを一つ知ってるぜ」



「……何かな? それは」



「ルイーズは本当に、食べるのが遅い」



「ふざけてるのかな?」



「いいや。


 けどさ、おまえさっきルイーズのことを、


 十年帝のひ孫だって言ったよな?


 現皇帝、シャルル=レオハルトの娘じゃなくて、


 コルシカ=レオハルトのひ孫だって言ったな?」



「言ったけど……。


 それが何だっていうのさ?」



「この学校は、ルイーズにとってアウェーだってことだよ」



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