第22話 今年もよい年に
沖縄から帰って、あっという間にお正月が来た。
沖縄から帰ってからは、夫はほとんど家に帰ることなく、ミチコと過ごしていた。妊活でもしているんだろうな。と思いながらも、私は、夫がいなくなったら、という想定でいくつかシミュレーションを重ねていた。
やはり、私は冷たいのだろうか。
いや、現実的だと言ってほしい。私は年末年始の大掃除を理由に、長く整理できなかった自分のものをずいぶんと処分した。ついでに、夫のものも、処分を始めた。夫にはもちろん、年末はきちんと掃除したいから、古い服とか、明らかに使っていないものとかは処分する旨、きちんと伝えておいたのだ。
夫は、そうだな、もう長らくきちんとした断捨離してないから、頼むよ、とだけ言った。
年始には毎年かかさず、夫と私の両親への挨拶をしていた。最も最近は、ビデオで会話するだけだ。お互いわざわざ実家にお正月に帰るなんて、面倒だ、というのが私たちが出した結論だ。どうせ顔だけ出せばいいなら、ビデオだって変わりないだろう。
あけましておめでとうございます。今年もよい年になりますように。
この一言から始まり、去年はどうだった、今年はこんなことがありそう、とたわいもない話をした後、今年は早いタイミングで会えるといいね、と会話が終わる。いつものパターンだ。
しかし私は今年、特に不安だった。ずっと和やかに、話ができるだろうか。夫は病気のことや、私の気持ちなどお構いなしのようだった。
いやぁ去年はほんと忙しかったんでね、今年ことゆっくりバイク乗ったりできるといいなって思ってるんですよ。
夫が私の両親に明るく話している横で、私は、そんなことできないかもしれないのに、と暗い気持ちになっていた。
あんた、正月なのにずいぶん暗い顔してるけど、二日酔い?飲みすぎはよくないよ。今日は飲まないでさっさと寝たほうがいいよ。
私の両親は、私のいつもと違う様子を二日酔いと解釈してくれたらしい。
よかった。変に詮索されないで済む。
次に夫の両親。夫は、先ほどと同じことを繰り返す。夫の両親は、バイクなんて言ってないで、子供はどうするのよ。今年こそ、孫の顔でも見たいわ、と、これも毎年同じように繰り返される言葉を放っていた。
いつもの年だったら、夫は、いや、うちは子供いらないから、と冷たくあしらっていたはずだ。それが今年は、そうだよね。僕らもいつまでも若くないんだから考えなきゃいけないよね、と答えたのだ。
そうだよね。ミチコとの間に子供が欲しいんだったよね。
私は夫と夫の両親の会話をこれ以上聞いていられず、ちょっと用事があるので、と画面から外れた。お正月なのに、涙が一筋、私のほほを伝って流れていった。
お正月から泣いちゃったな。今年はどれだけ泣くことになるんだろう。
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