BLを熱く(厚く)語らないで!

さいとう みさき

BLとは何なんだ?

 世の中には知らない事の方が幸せと言う事がある。

 しかし、そう言った余計な知識は知りたくなくても勝手にやってくるものだ。



「こんにちは~おじさん!」


「こんにちは~!!」


「はいはい、こんにちは」


 親戚の瑠璃るり(仮名)ちゃんと瑠美るみ(仮名)ちゃんの姪っ子姉妹が遊びに来た。


 わんわん♪


「久しぶりぃ~タル(実名)~♪」


「いいな犬ぅ~」


 二人は夏の祭典に行ってみたいという事で、前日にうちに集合していた。

 夏の祭典とは、東京のとある場所で年に二回ほど行われるイベントのことで、同人誌即売会と言うイベントだ。

 私も学生時代からいろいろとお世話になっている催しである。



「いらっしゃ~い!」


「ああ。みさきSさん、お世話になります!」


「ねぇねぇ、みさきSさんってコスプレした事あるんでしょ!?」


 今回はみさきSもこのイベントに遊びに行くわけだが、私の行く場所は女性向けで無いので引率者はみさきSに任せようと思う。

 思うのだが、やって来た瑠璃ちゃんと瑠美ちゃんはいきなりカミングアウトする。



「私、今回ハイ〇ューのBL本が欲しい!」


「あ、あたしはやっぱブ〇ーロックのBLがいいなぁ」


「うんうん、最近の若い子は目の付け所が良いわね? しかし今一番熱いのは呪〇廻戦よ!!」



「ちょっとまてぇ―ぃいぃっ!!」



 思わずみさきSの首根っこ掴んでこっちに来させる。


「おいこら貴様、なに人の姪っ子に人の道踏み外させようとしてんだよ!?」


「あら、だって瑠璃ちゃんも瑠美ちゃんもタイガーの穴での通販は大変だから直に新作は欲しいって言うんだもん」


「いやだからと言って、彼女らはまだ中学生だぞ!!」


「大丈夫、大人のじゃなくR15のまでにしてるから!」


「二人ともアンダーR15だ!!」


 確かに私やみさきSはR18のモノも欲しがるが、いくら何でも女子中学生に人の道を踏み外させるわけにはいかない。

 深呼吸してみさきSに言う。



「いいか、私たちはすでに手遅れだが、明るい未来のある姪っ子たちを魔界に引きずり込むのはやめよーな!」



 そんな私の杞憂に気付かずに、この二人の姉妹は明るくあっけらかんとみさきSを呼ぶ。


「おじさん、どうしたの? みさきSさん、早くサークルの説明してよ!」


「楽しみぃ~♪」


「ちょっと良いかな、瑠璃ちゃん、瑠美ちゃん。おじさんもオタクだから偉そうなこと言うつもりはないけどね。こいつみさきSに合わせる必要はないんだからね?」


 いくら何でも彼女らの将来が心配になって来る。


「あ、大丈夫ですよ~。ちゃんとR18は大人になるまで我慢してますから♪」


「そうそう、市販の小説とか漫画の方がエッチですけどね~」


「アウトォーっ! 健全な少女たちに市販品何やってんのよぉっ!?」


「あれ、みさきR知らないの? 今の女の子たちって私らの時代よりすごいんだよ、ほら」


 そう言って見せられた少女漫画は、あっはーん♡な描写がすごかった。


「いやちょっと待てぇっ、これマジで少女漫画かよ!?」


「うん、普通に小学生でも買えるよ?」


「マジかっ!?」


 カルチャーショック。

 いや、ヤックデ〇ルチャーだった。

 いやいや、描写的に大事な所は隠れてるけど、脱いでますよ?

 思わず数ページをぺらぺらめくって愕然とする。


「小説だってこんなの普通だよ?」


 そう言われ表紙を見ると、流し目のイケメン男性が二人上半身裸で寄り添って……いや、抱き着いているような。



「あ~、さすがみさきSさん! これ学校の友達でも人気だよ~」


「お姉ちゃん、私これまだ読んでない。みさきSさん貸してもらって良いですか?」



「瑠璃ちゃん、瑠美ちゃん!?」


 姪っ子が目の前で男性同士がイヤーンな表紙の小説嬉々として見てるぅっ!?


「おじさん騒ぎすぎ。親バレするのはまずいけど、おじさんたちなら別に大丈夫だからね~」


「ね~♪」


「そうそう、こう言うの私の所にはまだまだあるわよ! あ、でもR18はもうちょっと後でね。18歳になったらみさきSお姉さんの秘蔵の書も見せてあげる♪」


「おおぉ~、楽しみ!」


「早く高校生になりたい!」



「いや、高校生になっても見ちゃダメ! 成人するまでダメなの!!」



 思わず姪っ子二人に突っこみを入れるも、にっこり顔で「分かってるよぉ~、おじさん~」とか瞳に光が無い状態で怪しい返事が返って来る。

 本当に大丈夫なのか?



「大体にして、その、そう言うのに興味があるのは仕方ないにしても、何故に我が家でそこまではっちゃける?」


「だってねぇ~」


「ここならねぇ~」


 姪っ子二人して可愛らしくそう言うも、その視線はみさきSに注がれている。

 お前かぁっ!


「はぁ~、分かった、分かった。おじさんもオタクだから気持ちはわかるけど、節度は持ってくれよなぁ~」


「「分かってるって♡」」


 そう言う姪っ子たちは声を合わせて言うのだった。



 * * * * *



「ごめん、私が悪かった。お願いだからいい加減にしてくれ!!」



 テレビには推しのアニメが流れ、床にはR15の薄い本が散乱する。

 食事も終え、お風呂も入って後は寝るだけなのにみんなラフな格好でリビングでだべっている。

 そしてここでは書けないような内容が飛び交っている。



「だから、ここっ! この鎖骨が良いの!!」


「なるほど、でもこっちの筋肉も!」


「いやいや、この汗! 流れる汗が!!」


「「「いいよねぇ~♡」」」



 お分かりだろうか?

 腐っている女子のトークに付き合わされる男子の心情が。


 もうね、お酒飲んでないのに、好きな話になるとみんなハイテンション。

 漫画的にはお目々ぐるぐる状態で興奮してマシンガントークしている。

 時折同意を求められて話しかけられるが、基本こっちの反応や話なんぞ聞いていない。

 そして知らなくていい知識がどんどんと蓄積されてゆく。


 「分からない」とか否定的な事言おうものなら、女三人にとことんその良さと言うモノを叩き込まれる。


 あな恐ろしや、BL。

 そしていらない知識を永遠と語り、ほとんど徹夜で駅まで行く羽目になるのだった。







 BL怖い……

     

   


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