灰色の孤島の上で#4

Y

第4話

火照る体と、相反するように胸の中に現れては消える、不安感、そして、疑問。

彼女がおおよそ起こしそうにない行動に、僕は戸惑っていたが、少ない経験の中から拾い集めた記憶の中の情報で何とか部屋に入った。

「…どうしたんですか?そんな格好で。」

「らしくない、という事よね。」

「ええ、まあ…。」

「私の何を知ってるの?」

「知りません。」

「…随分な目で見るのね。」

「…あの、あまりに、露わというか…。慣れてないのもありまして。」

「そう、初めてじゃ、無いんでしょう?」

「ええ、まあ…。」

「手短に済ませたいの。私がリードするから」

「……。」

「…?」

「お…お話、お話しませんか!?」

「話の目的は?」

「目的…ですか?」

何も考えておらず、そして緊張のあまりに場繋ぎ的に出た言葉だったものだから、僕は困ってしまった。

「……。」

「何故何も言わないの?」

 そう言われて、精一杯絞り出した言葉は、案外ストレートに口から出た。

「あ…、の……。何故、いきなり、こういった事を…?」

ふぅー、と、彼女はため息を気だるげにつくと、徐にベッドに横たわった。

「あなたに関係ある?」

そこには、いつもの真っ白な彼女は存在せず、かといって、どんな色かと問われても、答えあぐねるだろうと思った。

「……何か、有ったなら、お話を聞きますよ。」

そんな月並みな事しか言えず、要は現状、据え膳食わぬ状態だが、僕は彼女の魅力的な肉体はもちろんだけれども、いつもと全く違う様子になった原因や彼女の心の内がとてつもなく気になったのだ。

「実際がどうとか、関係無いのよ。要は、どう見えてるかって事。」

ぽろりと語った彼女の言葉に、次の言葉は自ずと決まった。

「どういう事、ですか?僕には、あなたは輝いて見えました。けれども、今、目の前のあなたを見ても、僕にはあなたが何を考えているか、あなたがどう見えていると表現すれば良いのか、分かりません。」

 ふぅ、と再びため息をつく彼女。

「つまんない事、話そうとは思わないのよ。あなたって、惨めじゃない?だから、興味を持ってたんだけど。」

いきなりの言葉に驚き、また、今までの彼女とのあまりの違いに、何故か好奇心を煽られ、自然と口をついて出た。

「惨め、です。あなたは、それを嘲笑いたくて、僕と会ってたんですか?」

これは不快な気持ちからでは無い、好奇心からの言葉という事は、僕の口調から伝わったようで、彼女はそれに答えた。

「別に。ただ、面白いなぁ、って。私、惨めな思いってしたこと無くて。どんな気持ちなの?」

全くの無垢な言葉に、僕は自然とするすると言葉が出てきた。

「生きてるのが、生まれてきたのが、辛い。そんな感じですかね。」

 少しの間を置いて、彼女は口を開いた。

「生きてるのが、つまらない、という気持ちなら分かるわ。それとは、違うのかしら。」

それを聞いた僕は、妙に納得していた。

何故なら、彼女の魅力的な外観とは相反する、絶望的な目の奥の何かの正体を見つけた気がしたからだ。

「似ては居ますね。もしつまらない、と仰る意味が、これまでも、これからも、何も変化しないだろう、という意味なら…。」

彼女は、笑い出した。

僕には、彼女自身を嘲笑っているように見えた。

「そうね、何もかもが思い通りになる、なら、これ以上何を望めばいいのかしら?とは思うわ。男になりたい?生まれ変わりたい?そんな非現実的なことなら、夢見ることが出来るのかしら?」

そんな言葉に、僕は何も答えが浮かばず、沈黙が空間を支配した。

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