第10話 『ソルジャーなのにアサシンムーブ』

 キングが召喚するゴブリンはおよそ十秒間に二体。


 盗賊六人は孤立分断されており、一人がゴブリンおよそ六体を同時に相手をしている。 部屋の広さは思ったより広く、最大でゴブリン百体以上は入れそうなのだが、現在目視で数えた限り五十体いかないくらいの数がうごめいている。


 「キングの護衛にジェネラル四体、雑魚が十体」


 「召喚できる数に限りがあるんすかね?」


 「聞いた話だと、キングが召喚できる数は保有魔力に依存するらしいな」

 

 『ここのキングは確かゴブ五十体とジェネ四体』

 『ちなみにジェネはゴブ十体分の魔力』

 『討伐に時間かけすぎるとゴブ全員生贄にして、追加でジェネ五体召喚してくるぞ!』

 

 なるほどよくできている。 部屋の大きさからしてもっと多くのゴブリンを召喚していた方が有利に立ち回れるだろうと思っていたが、そうしないのはキングの魔力保有量に限界があるかららしい。 となると短期決戦が望ましい。


 「いくぞナイル、できるだけあいつらの目につかないよう混乱に乗じて裏を取る」


 「壁寄りに大回りしますか?」


 「灯りが届いてない暗がりを慎重に抜けるにゃ!」


 俺たちはランタンの明かりを消して暗闇に目を慣らしながら最終確認をしていた。 サラーマさんを先頭に部屋の壁沿いを慎重に進む。


 大部屋とは言っても松明の灯りがついていたのはキングの周辺と、腰にランタンをつけた盗賊たちの周辺のみ。 部屋の端までは灯りが届いてないため暗闇だ、潜伏するのにはちょうどいい。


 俺たちは見つかることなくキングの背後に回り込むことに成功した。


 「ナイルは背後を固めてるジェネラル二体を頼めるか? キングには俺が奇襲する」


 「りょーかいっす!」


 「見つかった瞬間サナは眷属召喚を頼むぜ!」


 「任せておくにゃ!」


 小声で確認を済ませ、サラーマさんが飛び出すのに合わせて俺も同時に動く。


 キングの背後を守ってるジェネラルを先に倒すために敏捷を活かしてサラーマさんを追い抜き、左側のジェネラルに突進する。


 足音に気がついたジェネラルが振り返った瞬間、すぐさま剣を振り回してジェネラルの首をね飛ばした。 おかげで叫ばれてもいないからもう一体にはまだ気づかれていない。


 盗賊と違ってモンスターが相手なら討伐するのにさほど抵抗はない。 まあ、さっきはゴブリンを普通に切れてたから今頃考えても、ってかんじだが。


 盗賊退治の時に改めて視聴者さんたちのコメントを見てから、ちょっと余計なことを考えてしまっただけだ。


 首を刎ねたジェネラルが倒れ伏す前に、流れるようにもう一体の喉を裂き、機動力を削ぐためにそのまま足を切る。

 

 『ソルジャーなのにアサシンムーブ』

 『あ、気づかれたんじゃね?』

 『最初に首を刎ねたジェネがぶっ倒れた時の音か』

 

 なるほど盲点だった、余計なこと考えていたせいでそこまで頭が回らなかった。 背後を通り過ぎてったサラーマさんに、すれ違いざまにごめんと頭を下げたが、


 「ナイスだぜ」


 俺にだけ聞こえるような音量でそう声をかけてくれる。 なんだこのイケメンなワニ。


 次の瞬間大きく振りかぶった大斧で、背後を振り向こうとしていたキングの背中を袈裟懸けに切り裂いた。 切り付けられた背中から真っ青な血飛沫が飛び散り、俺の体にもシャワーのように降りかかった。 ばっちい。


 ほぼ同時に先ほどサナさんが召喚していたサーベルキャットが現れ、俺が先ほど仕留め損ねたジェネラルの首を噛みちぎる。 同時に俺は、キングの前方を固めてた二体を近づけさせないよう立ち位置を変える。


 流石にキングは一撃で仕留めるのは難しかったらしく、首斬り刀のような形をした巨大な剣でサラーマさんに反撃を試みていた。 大斧でキングの一撃を受け止めたサラーマさんは大きく後ろに飛ばされてしまう。


 しかし背後からサナさんの狙撃が右目を潰した。 おかげでキングは唸り声を上げる。


 キング周辺を固めてたゴブリン十体が即座にサラーマさんに突進していくが、サナさんが移動中に仕掛けた罠やサーベルキャットが対応してくれている。


 前方を守備していたジェネラル二体の方は、俺が素早く足を切り裂いて機動力を削いだ。


 足を切り裂いたジェネラル二体の首を流れ作業感覚で刎ね飛ばしていると、体勢を整えたサラーマさんが再びキングに飛びかかったのが視界の端に映った。 サポートするために俺はキングの死角に潜り込んで、武器を持ってた右肩を突き刺す。 これでガードできないだろう。


 「お前、最高だぜナイル!」


 なんだか息ぴったりに連携できてる気がする。 戦っていて気持ちがいい!

 

 『ナイルくんさすがw』

 『鮮やかな連携だ!』

 『ナイル氏はゲーム慣れしてるからなw』

 

 視聴者の方々からもお褒めの言葉をいただき、清々しい気持ちでサラーマさんへ向けて親指を立てる。


 サラーマさんはニヤリと笑いながら、振り上げた大斧をキングの脳天に突き立てた。

 

 

 

 △

 キングの脳天を潰して討伐完了させると、統率を失ったゴブリンたちは盗賊たちに仕留めさせた。 そして疲れ果てた盗賊たちを奇襲して捕獲。


 やってる事はなんだか悪人臭かったが、効率は良かったのでよしとする。


 その後は拘束されて動けなくなった盗賊たちの罵詈雑言を背中に浴びながら奥の部屋へ進む。


 道中サラーマさんやサナさんからベタ褒めされたので俺の足取りは軽い。 視聴者の方々からは調子に乗るなと釘を打たれたが……


 少し歩くと小さな部屋にたどり着いた。 三人で入っただけでもなんとなく窮屈きゅうくつに感じるような広さ。


 部屋の中央には何やらただならぬ雰囲気を纏った祭壇があり、その祭壇には小振りな石箱が置いてあった。 箱にはピラミッドとかでよく目にする壁画のような? よくわからない模様が書いてあり、雰囲気は不気味に感じる。


 「これがシリス様の体の一部か?」


 「今度はちゃんと中身あるんすかね?」


 「部屋に誰か入った痕跡ないし、今回は問題なさそうだにゃ」


 三人で視線を交わしてゆっくり頷くと、恐る恐る石箱の蓋を開けた。


 「うげっ」


 「グロいな」


 「ふにゃあぁぁぁ! なんなのにゃ!」


 石箱の中身を視認した瞬間、三人同時に顔を青ざめさせた。


 なんせ中には手が入っていたのだ。 血まみれとかではなくて、綺麗な状態の手。


 生々しくて逆に気色きしょくわるい。


 「これがハレンドスさんが言ってたシリスの体っすか?」


 「おまえ、人前の時はちゃんと様をつけろよ? 俺たちの前では別にいいけど」


 「ナイルくんは本当に怖いもの知らずだにゃあ」


 サラーマさんたちが呆れたように肩をすくめてきたため、おれは口を窄めながら石箱に蓋をした。

 

 『テッテレー♪ シリスの右手を手に入れた』

 『ダンジョンクリアおめでとー!』

 『他のパーツ揃えると封印されしなんとやらが召喚できんの?』

 

 コメント欄も好き勝手騒いでいるが、初めてのダンジョン攻略に今までにはない達成感を感じた。


 それはサナさんやサラーマさんも同様だったようで、


 「じゃー戻ったら盗賊の回収を依頼して飯食いに行くか!」


 「今回の功労者はナイルくんだから、その箱はナイルくんが持つにゃ!」


 「え? 嫌ですけど? だってなんかきしょいし、持ったら呪われそう!」


 せっかく手に入れたシリスの右手だったが、中身を見てしまったため誰も持ちたがらない。 箱の模様も不気味だからマジで呪われそうだ。


 「お前きしょいとかいうなよ! シリス様に失礼だぞ!」


 「だったらサラーマさんが持って下さいよ!」


 「いや、それはその……遠慮しとく」


 サラーマさん、ワニのように強靭な尻尾をくねくねさせながらモジモジしてしまう。 悔しいがなんか可愛らしい反応だった。

 

 『なんだこのワニ、かわいい』

 『こんな可愛いのに百日後に死ぬんだぜ? ワニだけに』

 『縁起でもねーこと言うなw』

 

 結局俺が箱を持たされるハメになってしまった。 視聴者の方々からは呪われないから安心しろと言ってもらえたが、念の為布で包んでつまむように持ち上げ、初期装備のウエストポーチの中に慎重に入れた。


 その後はサラーマさんたちとファイヤームの街に戻り、アジトで待機していた仲間たちに盗賊を捕らえたことを報告して拾いにいってもらう。


 盗賊たちが魔物に食われずに生きていれば近々懸賞金がもらえるらしい。


 手続きを済ませた俺たちはそのまま宿に直行し、日付が変わるまで初ダンジョン攻略祝いの打ち上げをすることになった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る