第3話 特赦って知ってる?

 その間も、説明は続いていた。


特赦とくしゃとは、『有罪となった者に対し、特別にその効力を失わせること』です。つまり皆さんの罪を、罰することなく許すということですね」


 頭が働かず、耳を素通りしていく。そして宝塚は更に、「条件がある」とつけたした。


「そのために、ホヤホヤの皆さんには、過去の罪を正してもらいます。その手助けをするのが、後ろにいる亡者くんたちです」


「亡者……?」


 日常では聞かない言葉に、思わず背後を見る。神園と三田島の他には、スーツとロングコートの男がいた。


「左から、神園秀幸くん、佐渡谷さどや京くん、悦巳えつみトウゴくん、三田島悟くんです。彼らはすでに、地獄に落ちている亡者です。今回はみなさんを助け、善行を積むために来てもらいました」


 他者の助けとなることで、地獄から抜けられる――、それが亡者への特典だと宝塚は言った。横から柳も出てくる。


「地獄での刑期が縮まるというのが、従来の特赦とくしゃ制度なんだが……。しかし昨今、その程度では誰も感謝も改心もせず、現在地獄は亡者のあがないが進んでいないんだ」


「だから今回初めて、課題をクリアした少人数を、きっぱり救うという試みが出されたんです。そのため第一回は、矯正しやすいであろう、若い魂が選ばれています」


 これを定着させ、更生を促したいと二人は言った。


「まだ亡者くんたちへの案内途中でしたが、今日は幸い罪を持った若者が三人も亡くなったので、急きょ決行となりました。タキくんを加えると、四人ですね」


 宝塚はあくまでにこやかだ。”幸い”の使い方、おかしくないか? 


「ちなみにタキくんから隣が、密井ユウジくん、里居さといまんくん、品川郁夫くんです」

 

 紹介されても、お近づきにはなりたくない。俺と同じ境遇で、ニヤニヤしてるなんて不気味すぎる。


 そんなことより。


「過去の罪なんて、どうやって正すんだ?」


 そこが気になった。

 こんな怪しい話を鵜呑みにするわけではないが、もしそんなことができるとしたら――。


(俺にはある、どうしても正したい過去が)


「ふふ、それは……」


 宝塚の指が、また音を立てる。途端に響くジングルベルの曲と、光。


「見てください、あのランニングマシン! 私が考案したんですよ!」


 示されたのは、はじめに見たランニングマシンだ。改めて見ると、二台一組という感じで並んでおり、傾斜がすごい。


「あれを走れば、過去に戻れるんです」

「過去に?」


 またも、ホヤホヤだけがざわついた。


「まず、過去に犯した罪を100%分、設定してもらいます。それをすべて正せたら、天国から蜘蛛くもの糸が降りてくるんですよ」


「それだけが、ホヤホヤを現世へ、亡者を天国へと引き上げる手立てとなる」


(ほ、本当なのか……?)


 罪を正せば、生き返ることができる。いやそもそも、罪を正せる。過去に戻って。

 ゴクリと喉が鳴った。


「罪は、100%に達する重さで入力すると考えてください。人生で罪を犯したのがたった一回でも、それが大した罪でなかった場合、100%にはなりません。まぁ、そんな人はいないでしょうが」


 それだと、重い罪がたくさんあるほど100%にしやすいことになる。罪深い方が有利だなんて、なんとも言えないシステムだ。


「クリアできなかったら?」


「あなたは死に、神園くんは地獄へ逆戻りです」


 そこは思った通りの返答だった。クリアできなくても、参加を辞退しても、死ぬということか。


「罪へのアプローチ方法は問いませんが、そこで新たな罪を犯さないよう注意してください。主審が天使くんなので、あんまり曲がったことは通用しませんよ」


 そこで宝塚が柳を見ると、前に出てくる迷彩服。


「期限はクリスマスになるまでの三日間だ。この一番忙しい時に……、マジで本当に、意味がわからんっ」


 最後の方はぼやきのようだが、クリスマス中の天使はたしかに忙しそうだ。隣では宝塚も肩をすくめている。


「この時期は自殺者が増えて、地獄界だって忙しいんですよ? なので、ルールの説明はこの辺にしましょうか」


「え、もう?」


「ある程度は亡者たちに伝えてあるから、とりあえず組みになれ」


 自分でもくわしく聞きたかったが、俺以外はゾロゾロと動き始めた。

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