第2話  ホヤホヤと亡者

「ハラ決めたんなら早く座ってよ。説明会が始まらないじゃ~ん」


 そこに今度は、別の声がした。

 目の前の光景は変わっていないのに、またも唐突に、幾人もの男が現れる。


 いや、現れたというのは不自然だ。彼らはずっとそこにいたかのように、床に座っていたのだから。


(どうなってんだ? こんな人数見落とさんだろ)


 座っているのが三人、後方に立っているのが三人。まだ若く、服装はバラバラだ。

 そして六人の方を向き、立っている男が一人。


(め、迷彩服……?)


 こいつが説明する側の人間だろうか。こんな状況、詐欺の勧誘かヤクの売買しか思いつかない。


「これで俺も参戦だ。三田島ァ! よもや地獄から抜けられると思うなよ!」


「こっちのセリフだ」


 移動の途中、神園が誰かに声を荒げた。それにも驚いたが、むしろ相手を見てギョッとする。


 理由は、真紅の衣装だ。三田島と呼ばれた男はロング丈のトップスをまとっており、一瞬向けられた背には、”くれない”のひと文字。他にも様々な刺繍がほどこされている。


(あれって特攻服……?)


 テレビでしか知らないが、暴走族のユニフォームではないのだろうか。実際に目にすると、存在感が半端ない。


 しかも見ていると、二人からなにやら黒煙のようなものが上がり始めた。

 それどころか口の端が裂け、目もつり上がり――。


「ストップストーップ!」


 しかし、蝶ネクタイと迷彩服がそれを引きはがす。


「この二人は、生前の確執があるみたいなんです。目が合うだけでも本能が暴走してしまうので、近づけないでくださいね」


「お、俺に言うなよ……」


 蝶ネクタイに目配せされたものの、まったく意味がわからない。


 結局俺は着席チームに入れられたが、座る気にはなれなかった。神園は後方に移動している。


「さてみなさん。まずはひとつ申し上げます」


 次には、蝶ネクタイが迷彩服の隣に立った。


「ここにいる方々は、全員罪人、全員死人です!」


「!?」


 間髪入れず上げられた声に、目を見開く。しかしざわついているのは、着席チームだけのようだ。


「そしてここは、地獄の一丁目です。私はその番人という名の鬼で、みなさんのお世話役、宝塚と申します」


「俺は主審の天使で、柳だ」


(待て待て、情報量)


 さも当然のように自己紹介され、嫌な汗がにじむ。


 それから蝶ネクタイの男、宝塚は明らかに着席側を見てきた。


「手前にいるみなさんは、若く、罪を犯し、今日死にたてホヤホヤの魂です。そして幸運にも、生き返るチャンスを得ています。ちなみに今から説明するチャレンジに失敗したら、本当に死にます!」


「ちょっと待て! 俺は帰るぞ!」


 空気に呑まれ、声が裏返る。静まり返る場内で、宝塚の靴音が近づいてきた。


「生き返りたいですか?」

「死んでねぇし!」


 即答すると、無言の微笑み。


「これから行うのは、天国界と地獄界コラボとなる、”特赦とくしゃプロジェクト”です。特赦とくしゃってわかりますか?」


 言い分はスルーされ、尋ねられた内容はわからない。自分だけかと不安になり、周囲をうかがう。


 すぐ足元に座る男と目が合ったが、にこりと――、いや。にやりと笑われた。


(なんで笑顔……?)


 眼鏡の奥の目が楽しそうで、汗が吹き出す。その上、更に隣の男にまで笑みを向けられた。


(こ、こいつらなに……? 正気なんだよな……?)


 不安を共有できる雰囲気ではとうていなく、乾いた喉が不快に上下した。

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