第5話 知らずに犯した罪も、罪です

 途端読み上げられた”己の罪”に、俺は目を見開いた。


「あなたは学生時代、ローン会社にアルバイトとして入社。今年4月に社員登用となり、それからは高額の契約をこなすようになりましたね」


「内一人を一家離散、内二人を会社到着、内一人を自殺未遂に追い込んでいる」


 まるで事情を知るかのように、宝塚と柳が俺の経歴を暴露する。

 しかも、取引者の行く末――。そんなもの、俺は何も知らなかった。


「な、なんだよそれ。でも俺はただの取りつけ役で……っ」


 反論すると、鬼と天使が俺を見た。


「だから自分に罪はないと? 天はそう思わなかったようですが」


「この世には、知って犯した罪と、知らずに犯した罪がある。どちらも等しく、罪と捉えられる」


 二人とも、咎めるような声ではない。しかしそう言われると、俺は黙るしかなかった。


 けれど本当に知らなかったのだ。入社した経緯がグレーだったため、クリーンな会社でないことは承知していたが――。


「とりあえず、これで数値が算出されますよ」


 今度はダラララランという音が聞こえてきた。画面では分数のようなものが現れており、分母がぐるぐる回っている。

 そして確定された数字は、18。


『18%です』


「うーん、意外にしょぼいですね」


 そっこーでけなされた。適正数値がわからないものの、自分でも低い気がする。


「分母は、修正する罪の重さや個数で変わる数値。分子はそれを正した達成率で、糸の強度を表します」


『修正案を入力しますか』


 説明の後には、端末くんの声。次は修正案を入力するようだ。


「えぇと、その二人ならたしか……」


 ポケットを探るといつもの手帳があったため、それを開く。


「二人とも7月15日に借金を取りつけた人たちだ。両方が今月の返済日に返済できなかったのか……」


『必要事項を伝えてください』


 続けて指示が出たため、慌てて口を近づける。


「7月15日14時、山本健太に借金させない。同じく14時30分、 田山武志に借金させない」


 こんな感じでいいのだろうか。言った通りに自動で打ち込まれていく。


 そしてチカチカしているエンターボタンを押すと、エントリーされたようだった。


「誰かが100%分の罪を正した時点で、蜘蛛の糸が出てきますからね」


 同時に、糸に続く階段も現れるという。そこを駆け上がり、糸をつかんだペアが出たら、プロジェクトは終了ということだ。


「たまたま一緒に他のペアがいて、先につかまれちゃうとかはないの?」


 再び万が手を上げる。予想外の質問だったのか、宝塚がきょんとした。


「まぁなきにしもあらずですが、糸の強度は修正度数に準じますので。強度が低いままだと揺れたら切れちゃうでしょうし……、でも50%もあれば、つかめたりして」


 最後は半笑いと共に、頼りない答えが返る。

 次に、複数ペア同時のクリアという質問が出ると、宝塚はうなり始めた。


「糸は一本なので……、ポイント総数の高いペアのところに糸が出て、もう一組はそこに引き寄せられる感じかもです」


 何故「かも」なのか。視線が集まる。


「急に言われて、三日で仕上げたんですよ!? むしろほめてください!」


「まぁヅカだからな。よそのペアの進捗状況も、ポイントを使えば見られるから上手に使え」


 開き直る宝塚と、あきらめムードの柳。誰もそれ以上は突っ込まず、質問タイムは終了した。


 それにしても、糸は横取りもできそうじゃないか。しかもまたポイントだ。

 俺以外はうなずいているため、それについてはもう説明済みなのかと思えた。

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