第4話 転機

 「しっかし、頑丈だよねぇ。あの人らの銃を豆鉄砲って言っちゃった私の顔が丸つぶれだよぉ。」

 両手に持っているマシンガンを見せびらかすようにこちらに見せ、おどける彼女。

 言っていることとは真逆の余裕たっぷりなその様子に身はより引き締まる。

 「別に効いていないわけじゃない。当たれば十分痛いさ。」

 「おっと?そうなんだ。でも、その様子だと決定打にはならなそうだねぇ。と、なれば今ある装備で効きそうなのはこれかな?」

 女性はそういうとマシンガンを投げ捨て、再び腰に両手をまわし何かを取り出す素振りを見せる。

 「今度のはかなりきついよぉ?」

 その言葉と共に両手に持っていた何かをこちらに放り投げてくる。

 それは黒く丸みを帯びたシルエットの物体。

 こぶし大ほどの大きさであるは放物線を描きながらこちらに飛んでくるとその正体はすぐにわかった。

 「なんてものを日本で使ってるんだ!!こいつ!!」

 すぐさまから距離を取ると、その直後爆発が二回起きる。

 耳元で花火が撃ちあがったかのように強烈な破裂音を響かせ、あたり一面に粉塵が巻き起こる。

 そう、彼女が放り投げたのは手榴弾だ。

 確かに銃弾はさほど効かないことは分かったが手榴弾あれは話が違う。

 明らかにまともに食らえば死ぬことが分かるものをあの女は平気で投げてくる。

 改めて考えればあの銃撃だって普通の人であれば確実に死んでいる。

 そう思うとあの女は命を奪うことに関して何も思わないのか?

 背筋に氷のような冷たいものが伝っていくような悪寒が走る。

 「くそ…やばすぎるだろあの女…。どこ行きやがった?」

 土煙ととりあえず手榴弾から逃げるために回避したためか今の場所が分からない状態となる。

 せめて土煙が収まるまでじっとしておきたいところだが…。

 「はい、チェックメイト。」

 喉元に何か冷たいものが当てられる。

 見たわけではないがすぐに何を当てられているか理解できた俺は、生存本能からかすぐさま両手を上にし、降伏する。

 いつの間にか女は背後にへと回っており、音も気配も出さずに接近していた。

 「良い能力だったけど残念、私のほうがちょっとだけ強かったね。」

 「ちょ、ちょっと待ってくれ!?」

 俺は大声を張り上げる。

 「な、なんで俺はこんな目に合わなくちゃいけないんだ!?」

 こんな平気で人を殺しにかかる女に同情を期待しているわけではないが、せめて何か意見でもしなければ俺の気が済まなかった。

 「なんでって、あんたさっきの人襲ってたじゃん。知らないの?ミュータントが犯罪をすればその後どうなるか。」

 「知ってる。知ってるさ、でも俺が何したっていうんだ!?まだあいつには何もしてない!!」

 「…え、まじ?殴ったりとかしたんじゃないの?」

 俺は女の問いに首を赤べこのようにぶんぶんと横に振る。

 「んーと、あ!それなら今から無線で確認しちゃうよ~?いいの~?」

 今度は首を縦に何度も振ると女は困ったように一回考えると

 「やっば、どうしよう…。だ、だってあの人倒れてたじゃん。あんたがやったんじゃないの!?」

 「そ、それに関しては俺もしらない。ここに着いたときは俺も慣れない体で派手に転んだし、起き上がってたらあいつ、事故ってたし…。」

 「うそ…。だとしたらヤバイ…本当にヤバイ…。ど、どうしよう。」

 女は何か焦った様子で俺から離れるとその場にしゃがみこんでしまう。

 俺に背中を見せてしまっている状態だが、さっきのでこの女にかなうわけがないと知ってしまったため同行しようという気はもはやない。

 「えーと、大丈夫です…か?」

 とはいってもこいつをこのまま放置っていうのもなんだか気が引ける。

 少しばかりか俺の責任もあると思うしなぁ。

 「多分大丈夫じゃないかも…。犯罪行為をしてないミュータントに発砲はダメなんだけど、特に手榴弾を投げちゃったのは本当にまずいかも…。」

 そういう決まりがあるのか…。

 まぁ、確認をきちんととっていなかったのは彼女の落ち度としてもあの現場を見ればそう思ってしまうのは無理もない。

 「キミぃ…さっきあんなことしたのに優しいんだね…。」

 先ほどまでの彼女の面影はそこにはなく、にこっとした笑顔を見せてくれる可愛らしい表情だ。

 ギャップというものか思わずこの笑顔のためなら何でもしてやるという気持ちになる。

 「やれることがあるなら何でもやるからさ。」

 「ありがとうね、でも君にできることは…いや?ちょっと待って?」

 彼女はそう言うと何か考えるように顎に手を置くと先ほどまでの笑みとはまた違う悪い笑みを浮かべると

 「さっき…なんでもするっていったよね?」

 「え…あ、はい。言った…けど…。」

 なぜだろう、すごく嫌な予感がする。 

 安易な発言をしてしまったついさっきの自分を殴ってでも止めたくなるほどに。

 そんなことを考えている間にも彼女は何かを企んでいるようにぶつぶつとつぶやいていると

 「…よし、いける…。これなら何とかなるかもしれない…。ねぇ、君!名前、なんていうの?」

 「な、名前?江守新だけど…。何かいい案でも思いついたのか?」

 「おっけ~、新ね。私の名前はグリード。ちょっと訳ありで本名じゃないけど許してね?それじゃ、行こうか!!」

 「え?ちょ、ちょっと待ってくれよ!!今からどこに行こうっていうんだよ。」

 終電もなくなっていそうなこんな時間にいったいどこへ行こうというのか。

 グリードの考えていることが分からない俺は彼女の手を取り、引き留める。

 「決まってるでしょ、うちの事務所だよ。ほらほら、善は急げっていうし早速いこ~!」

 いったいどういうことか全くわからない。

 そんな困惑している俺をグリードは引き留めていた手を引っ張り、どこかにへと連れていく。

 

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THE・MUTANT @Kida001

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