第2話 ハルの戸惑い

母さんが堰を切ったように涙を流す。晴、分かって隠していたことは本当にごめんなさい。でもあなたが選ばれたわけなんてそんなこと、とまで言ってから二階の寝室へ駆け込んだ。どうやら僕は母さんを泣かせたらしい。傷つけたかったわけではない。父さんはじっと黙ってこちらを見ているだけ。母さんを追いかけるわけでもなく、僕に弁明するわけでもない。父さんは肝心なところでいつも頼りない。よく言えば慎重な性格だというべきなのだろう。まぁ僕には関係ないか。


「どうして僕が選ばれたの」


この一言であれほど泣かれるとは思わなかった。単純な疑問に過ぎなかった。ただ知りたくなった。


「どうして僕が選ばれたのか」


あと一つ、なぜ僕は捨てられたのか。


今日はもう散々な日だ。夏の暑さを感じるようになり僕のパーカは暑すぎる。半袖のパーカのはずなのに話を聞いている間に汗で色が変わってしまった。話も話で本当の子じゃないなんて言われて。ずっとこの2人の子どもだと信じて生きてきたのに。というか考えたこともなかったのに。なぜ今日なんだ。今日は僕が一年で一番楽しみにしている日だったのに。とぼとぼと部屋へ向かう。急に目の前が真っ暗になって何も見えない。でも足だけは不思議と部屋へ向かう。ドアを開けると真っ赤なリボンでくくられた最新のゲーム機があった。そう今日は僕の誕生日だったのに。今頃笑顔で食卓を囲んでショートケーキのろうそくの火を消していたのだろう。いつも母さんが手作りしてくれる最高においしいケーキを食べていたのだろう。でもそんな今日はもう戻ってこない。あれだけ欲しかったゲーム機も霞んで見える。ベッドに寝転がって天井を見る。天井のシミがやけに怖く感じて、すぐに目を閉じた。眠るつもりもないのに、ただただ時間が過ぎていくことを祈っていた。


明日からどうしよう、どんな顔をして父さんと母さんと話せばいいのだろう。

もしかしてもう話すこともないのかも。隣の寝室から母さんのすすり泣きがまだ聞こえてくる。それを聞くのが嫌になったまたリビングへ戻った。父さんは風呂に入ったのか、電気が消えていた。今なら誰にも気づかれない。僕はどうしたらいいのか分からなくなってうちを出た。現実から目を背けるために、ただただ無我夢中で夜の闇へと走り出た。



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