箱④。~ そんなあいつは爆弾野郎 ~

崔 梨遙(再)

1話完結:約1000字

 小学3年生の時。そいつは突然やって来た。鶴太郎君。転校生だった。


 彼は、土曜日(当時、土曜は半ドン)になると、級友の家のたこ焼き屋に現れる。そして、わざわざ、


「お昼ご飯のたこ焼き100円!」


と言う。そうすれば、6個100円なのだが、おばちゃんは10個にしてくれる。



 お昼ご飯代、本当に100円しか持っていなかったのだろうか? 謎だ。彼の家は商店街で喫茶店を始めていた。お母さんは美人だった。お父さんはいないようだった。お母さんは常識人に見えた。


 鶴太郎君は外で遊ぶのが嫌いだ。だが、自分の家には級友を入らせない。級友の家で遊ぶのを好む。


 やがて、遂に僕の番になった。土曜日だ。


「なあ、崔君、今日遊ぼうや~♪」

「う……うん」


 公園で待ち合わせたのに、スグに鶴太郎君は言う。


「崔君の家で遊ぼうや」

「う……うん」


 僕の住んでいたマンションに鶴太郎君を入れてしまった。何故か、鶴太郎君はリュックを背負っていた。


 家に誰もいなかった。誰もいないとわかると、鶴太郎君の態度が変わった。


「お腹空いた、お腹空いた、お腹空いた-!」


 うるさくて仕方が無い。こたつの上にバナナ一房(8本くらい)と蜜柑があったので、それを食べるようにすすめた。あっという間に、全てのバナナを食べきった。


「お腹空いた!お腹空いた!お腹空いた-!」


 うるさくて仕方が無い。カップ麺を見つけて、それを食べさせたら、ようやく鶴太郎君はおとなしくなってくれた。ホッとした僕はトイレに行った。大だった。ゆっくりと用を足してトイレから出た。


 鶴太郎君は、奥の部屋にいた。


「そこ、親の部屋やねん」

「あ、戻って来たん?」

「親の部屋に勝手に入らんといてくれや」

「ごめん、ごめん、俺、帰るわ」

「もう、帰るんか?」

「うん、用事を思い出したから」



 鶴太郎君が帰ってしばらくして、母が帰ってきた。


「ちょっと、こっちにおいで!」


母に大声で呼ばれた。


「どないしたん?」

「財布の中身が5千円、足りへんのやけど」

「ああ、ほな、鶴太郎君やわ。今日、遊びに来てたから」

「噂の鶴太郎君?」

「うん、噂の鶴太郎君」

「鶴太郎君は、2度と家に入れたらアカンで」

「わかった」



 僕は学習机の椅子に座った。椅子に座った時、違和感を感じた。何か足りない。


「あー!貯金箱が無い-!」


 気付いた時には遅かった。鶴太郞君は、とんでもない爆弾野郎だった。







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