成り上がる者たち

ヘロスの演説が終わると、酒場にいた傍聴者から拍手喝采が飛び交った。皆ヘロスの演説に賛同したのである。私は、ヘロスの言った通りになったことで、ますますヘロスという男に興味が湧いた 。そんなことを思っていると、ヘロスが突然言った。

「これより、我々は秘密結社として活動を開始したいと思うのだが、まず、組織の命名案を集いたいと思う。候補があるものは、遠慮なく発言してくれ」

様々な案が飛び交った。ある者は、プヤン(酔っ払い)、ある者は、ラボット(労働者)、ある者は、スプラデヴィー(公平)などと案が飛び交った。その時、私の脳裏にとある言葉が浮かび上がった。

ヴェスコチカ(成り上がる者)

我々は人に非ず。我々は人に成り上がらなければならない者達だと。私の中に発芽したスローガンが、魂の如く、肺壁を押し破りそうな勢いで、気道を通り、口から勢いよく放出された。

「ヴェスコチカ。我々は人に非ず。であるからして、我々は成り上がる者達」

私がそう言い切ると、酒場内が一斉に押し黙った。言葉の反響は、壁やジョッキを行き来し、私へと返ってくる。魂の全てを出し切った私に帰ってきた反響は、私を清涼な快感で満たした。すると、ぽつりぽつりと口々に繰り返される私の命名案。 

ヴェルコチカ…

ヴェルコチカ…

ヴェルコチカ…

それが感極まった歓声に変わるまで、そう時間はかからなかった。

「我々はこれより、ヴェルコチカ非人結社として活動。我々の目的は、下級市民に財が行き渡る豊かな暮らしを営むため、革命を起こし、この社会秩序を根底から覆し作り変える事である。そのために、我々は苦難の道を歩む事となるだろうが、それは覚悟の上であると私は信じている」

組織名は、ヴェルコチカに決まった。ここに、ヴェルコチカ非人結社が誕生した。


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神は死んだ。我々が殺したのだ。 平澤唯 @hirazawa_yui

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