第2話副官は銀髪美人!

 佐々木は掃除をしていた。

 今は着任して一日目の午後だ。

 午前中にかなり広い鎮守府を一周した。

 感想としてはここを一人で整備するのは無理だった。

 木材は腐り石材は朽ち果て壁は穴が開き、床は抜け、窓は割れ、屋根は落ちている。

 鎮守府の内部は埃まみれ、外は雑草が生い茂り、文字通りの廃墟だった。

 其のうえで鎮守府放棄の時にきちんと後片付けをしなかったのか古い資料や廃棄物がそのままになっていた。

 廃棄物は鎮守内の物資倉庫に多く、鎮守府の内部にも古い資料や廃棄物が山積みだった。

「数年で戻れると思っていたのだがな」

 提督はそう思いながら鎮守府の廊下を掃除する。

 鎮守府の設備はすべて壊れておりトイレはつまりそもそも電機がつかない。

 WIFIどころかコンセントすらない設備状況は劣悪だった。

 こう言っては何だがそもそもここは人材の墓場である。

「そなえつけの設備と物資を使えと言われたが」

 全ての設備は壊れ調度品は朽ちかけており物資は消費期限切れ。

 とてもではないがこの鎮守府で仕事はできない。

 計画ではこの鎮守府を改装し新たなる司令部を創設するらしい。

 だがこの朽ち果て具合と予算不足の帝国海軍司令部の懐を考えると到底無理な話だった。

 佐々木がそう思いながら掃除を続けていると背後で気配がした。

 こんなところに人はいないはずだが霊を信じるような人物でもない提督は無造作に振り返った。

 そこには銀髪の髪を揺らす北欧系の美人が立っていた。

「あの提督さんですか?」

 佐々木は頷く。

「私、この鎮守府に副官として着任した者です。鹿島です。よろしくお願いします」

 佐々木は頷いた。

 そして心のどこかで安心した。

 なぜならば増員を一名得られたからだ。

 一人で途方に暮れていたがいざとなったら連名でこの鎮守府の悪環境を訴えて計画の放棄を提案しよう。

 責任逃れはできないが一人よりも二人のほうが処分もされにくいはずだ。

 そう考えるとさっそく口を開く。

「着任お疲れ様です。副官さん、現在、鎮守府は全く整備されていません。このままでは新司令部立ち上げは難しいでしょう。手分けしてこの鎮守府の整理、補修、改修を行いますので手伝ってください」

「わかりました。提督さん、それでどこから手を付けましょうか」

「個々の掃除は私がしますのですみませんが復旧作業のための増員と補修及び改修のための予算の確保、鎮守府の施設の状況報告のための書類づくりをお願いします。この鎮守府の敷地からほど近いカフェが書類づくりに使えるWIFI環境があります。ノートパソコンかタブレットPCはありますか?」

「すみません。持ってません」

「鍵を渡すので駐車場の私の車で行ってきてすぐに作業を頼みます。ノートパソコンとタブレット端末は車に乗せてあります」

「わかりました。あと、あの」

「?」

「実は玄関の扉が開けようとしたら」

「!」

 玄関まで行くと扉が朽ちて外れていた。

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