後日談(おまけ)

 晴れて恋人になれた私達。

 チラリとしろちゃんを見ると目が合った。いつもは読書に集中していて、目が合うことなんてなかったのに。これは私のことを意識してくれてるってことで、つい舞い上がってしまう。

 さらに彼女は私に微笑みかけてくれた。

 私は顔を覆う。私の"彼女"が可愛すぎる。

 一人で身悶えていると葉月が声をかけてきた。

「ゆず、おめでとう」

「まだ私なにも報告してないよね!?」

 エスパーかよ。元々察しのいい葉月だけど、ここまでくると疑いたくなる。

「だって分かりやすいし」

「そんなに顔に出てた?」

「うん、ニヤニヤして気持ち悪い顔してた」

「気持ち悪いとはなんだ」

 酷い言われようだ。しかし口元が緩んでいるという自覚はあった。

 さすがにしろちゃんの前でそんなマヌケ面はしたくない。キリッとした表情を意識する。

「ははっ、変な顔」

 ……今日の葉月辛辣すぎない?






「ねぇしろちゃん、名前で呼んでいい?」

『しろちゃん』ってあだ名も可愛いから気に入ってる。でもやっぱりたまには名前で呼びたい気持ちはある。……例えばキスする時とか。

「駄目」

「そっか……」

 名前を呼ぶ許可は得られなかったので、しぶしぶ諦める。

「そんなしょんぼりしないでよ。『白夜びゃくや』って変でしょう? 名前、あまり好きじゃないの」

「えーそうかな?『白夜』って名前かっこいいよ! それに『白夜』って夜だけど明るいでしょ? 夜みたいに落ち着いてるけど、暗闇で見えなくならない優しい光が照らしてくれる……ね?しろちゃんピッタリだと思う!」

「……前から思ってたけれど、あなた恥ずかしい言い回しを平気でするわよね。『お姫様』とか」

「そうかな?」

「そうよ……でもありがとう。自分の名前を少しだけ好きになれそうよ」

「良い名前だよ、白夜」

「っ……!」

「私は好きだよ、白夜」

「……あなたわざと言ってるでしょう?」

「バレた?」

 いたずらっぽく笑うと、しろちゃんはムッとした顔をする。怒った顔も可愛い。

「やっぱり名前呼びはしばらく禁止」

 うっ……これは本当に怒らせてしまったかもしれない。恋人になって調子乗ってた。嫌なことするのは駄目だね……反省。

「ごめん……やっぱり嫌だったよね」

「そうじゃなくて……名前で呼ばれるの恥ずかしいの。だから心の準備出来るまでもう少し待って」

 しろちゃんはぷいっと顔を逸らす。耳まで真っ赤だった。

「だからそんな不安そうな顔しないで、柚音」

 そしてしろちゃんはさっきの仕返しとばかりに、強調するように私の名前を呼ぶ。

 名前を呼ばれることに慣れてきたと思ってたけど、こうして意識させられるとやはり照れる。

「ちょ」

「すぐ照れるところも好きよ、柚音」

「わざとだよね!?」

「ふふっ、どう? 私の気持ちがわかったでしょう? 柚音」

「……分かりました」

 なにこれめっちゃ照れる。

 私は手で顔を覆って真っ赤になった顔を隠す。隠しててもしろちゃんにはバレバレだとは思うけど。







 そんなやり取りを眺めてるのは葉月と海夏だ。海夏は呆れ顔でいちゃくつカップルに視線を向けている。

「ねぇ、なにあれ? 教室でいちゃついてんだけど」

「あははっ、ゆず達はあれで付き合ってるのバレてないと思ってるよ」

「いやいや、バレてないって思ってるの本人達だけでしょ」

「だよねー。ゆずは私のことエスパーだと思ってるけど、あれで隠してるのは無理あるよね」

 二人は顔を見合わせ呆れ顔で笑うのだった。

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