第27話 深夜の襲撃

 レイたちは万理華から、事務所の一階上にある仮眠室を貸し出された。眠りについていた。仮眠室は扉から中に入ると、部屋の左右に四つずつカーテンで仕切られたベッドが置かれている。左側から出入口の扉に近い順に大神、杏、加菜が使用し、右はヤマさん、未結、レイ、甘菜が使用している。


「みんなー! 起きてー!」


 仮眠室の電気が一斉につけられ、万理華の声が響いた。みな飛び上がるようにして起き、何事かとカーテンの隙間から顔をだす。ある一組を除いて……

 

「早く起きて!」

「ふわぁ……」

 

 レイが慌ててカーテンから顔をひっこめ誰かに声をかけていた。ゆっくりとした女性のあくびが聞こえ。直後に甘菜とレイの二人がカーテンから顔をだす。


「なっなんで甘菜さんがレイさんのベッドに!?」

「えっ!? あっ!? こっこれは…… その……」


 顔を出したレイと甘菜を見た、未結が即座に尋ねる。レイは必死に言い訳を考えていた。言い訳もくそもなくただ普段通りに甘菜が、レイのベッドに潜り来んだだけなのだが……


「あのねぇ。レイ君とくっついて寝るとあったかいんだよ……」

「ねっ姉ちゃん!」


 甘菜は正直に答えレイの腕に自分の腕をからめて嬉しそうに笑う。彼女の表情はどこか勝ち誇っていた。レイは恥ずかしそうに頬を赤くし甘菜の腕を外そうする。


「ふっ不潔です!」


 二人の行動を見た未結は、眉間にシワを寄せそっぱを向くのだった。


「なんで先輩、怒ってんだ?」

「うん。どうしたんだろうねぇ?」


 なぜ未結が怒ったのかと、首をかしげるレイだった。甘菜も首をかしげてはいたが、どこか勝ち誇った様子だった。三人を見て頭を抱える大神と、ニヤリと笑う万理華と杏だった。ヤマさんは冷静で、特に気にすることもなく扉の前に立つ万理華に声をかける。


「でっ!? 何かあったんじゃないですか? 有栖川隊長」

「あぁぁぁ?! そうだった! レインデビルズの集団が町に向かって来てるんだよぉ」

「そっそんな……」


 レインデビルズの集団が町に迫っているという万理華。全員に緊張が走り杏の顔は青ざめていた。万理華は青い顔をした杏に笑顔を向け話を続ける。


「うちらが食い止めるからみんな町からツマサキ市に移動しなよ」

「そっそんな。私たちも戦うわ。ねぇ大神さん!」


 首を横に振った杏に近寄り、彼女の肩に手をかけ万理華は優しく声をかける。


「ダメだって! 杏ちゃんにはやることがあるでしょ。だから行きなさい」

「行きましょう。有栖川の言う通りです」

「えへへ。大神っち! 杏ちゃんを頼んだよ」

「任せておけ」


 大神は万理華に向かって、胸を叩いてうなうずくのだった。


「あっ! そうだ! レイちゃむとかんちゃんを貸してくれる?」

「レイと甘菜さんをか?」

「うん。ちょっと敵の数が多くてね。いいよね? 大神っち?」


 万理華に尋ねられた大神は視線をヤマさんへと向ける。ヤマさんは小さく真顔でうなずく。それをみた大神は視線を甘菜とレイに向け口を開く。

 

「わかった。いいだろう。二人とも有栖川に協力してくれ」

「オーケーまる! やったね。二人ともよろしくね!」

「「はい」」


 甘菜とレイが返事をすると、笑顔で万理華はうなくと仮眠室から出ていく。彼女に続いてレイたちも仮眠室を出てガレージへと向かう。


「じゃあ、あんた達…… 死ぬんじゃないよ」

「加菜さんも気を付けて」


 パワードスーツを着たレイに向け、加菜はトラックの窓から右腕を出し親指を立て答える。レイと甘菜を残して大神一行は、ネーブルタウンの南門へ向かいそこから町の外へ出てツマサキ市へと戻っていった。

 

「よーしじゃあこっちだよ」


 ガレージの前に立つレイと甘菜に万理華が声をかけた。二人は万理華についていく。基地の入口に巨大な車がとめられていた。天井がなく幅五メートル長さ十メートル長方形の箱型で、六つの太いタイヤが左右にある、中央に重機関銃の銃座を持つ車だった。


「二人とも乗って! 行くよ」

 

 車両の先頭に立って二人に指示する万理華だった。万理華の両脇には足元からレバーが二つ伸びており、彼女はパワードスーツを着たままそのレバーを掴んでいる。この車両はR311装甲兵士輸送車という。この輸送車はパワードスーツを着た乗降操縦できるのが特徴だ。

 レイと甘菜は万理華の指示に従い輸送車の後部から乗り込んだ。二人は乗り込むと武器を壁に置き、レイは銃座について甘菜は車両後方に立つ。万理華は二人が乗ったのを確認し、右手側のレバーを前に倒す。車両は静かに動き出すのだった。静かな町を三人が乗った車両は進む。


「静かだね…… 昼間は動物の鳴き声がしていーっぱい楽しそうだったのに……」

「動物は人間より敏感だからな……」


 町に居る昼間は人間たちと楽し気にしていたペットたちは、異常な事態を察知しているのか静かだった。静かで暗い町から壁へと近づく。コンクリートの壁に沿うように足場が組まれており、壁の上から武器を出し向こう側を狙撃できるようになっている。壁に近づくレイたちに赤いレーザー光線がうごくのが見えた。

 壁に沿うように作られた足場に、マジックフレーム2の二式に身を包み、盾とアサルトライフルを構えた、ネーブルタウンの番傘衆が数十人待機しているのだ。彼らのアサルトライフルの銃口にレーザーポインターが装備されている。ちなみにレーザーは不可視で、レイたちはマウントディスプレイを通すことでレーザーを可視化している。

 壁の前で車両が止まる、周囲に予備の弾薬や武器が積まれている。レイ、甘菜、万理華の三人は壁に築かれた足場を上り壁の上に向かった。


「まあまあな数だね……」


 壁の向こうを見て万理華がつぶやく。壁の上から見える市街地の廃墟に、無数の緑の小さな光がうごめいている。

 緑色に小さな光はゴブリンやオークの目だ。光の目は廃墟を覆いつくすようなものすごい数だった。


「すごい数……」


 廃墟を覆いつくすような数の、レインデビルズに甘菜が思わず声をあげる。


「かんちゃんビビってる?」

「だっ大丈夫です!」


 声を震わせる甘菜にレイが声をかける。


「姉ちゃん。無理しないでくれよ。実戦はまだ二回目だし…… パワードスーツは新しいんだから」

「えぇ!? 二回目って…… じゃあかんちゃんってアークデーモンと戦って生き残ったのが実戦の最初なの?」

「そうですよ」

「すごーい! やるじゃん」


 小さく何度もうなずきながら、甘菜にことを褒める万理華だった。褒められた甘菜は恥ずかしそうに頬を赤くする。


「そっそんな…… でも万理華さんだってすごいですよ。昼間も綺麗に相手を投げ飛ばしてましたし…… 私もいつか素手でレインデビルズを……」

「絶対ダメ!」


 万理華は甘菜の言葉を遮り強く否定した。あまりの強い否定に甘菜は驚き言葉を失う。黙った甘菜に万理華は話を続ける。


「素手でレインデビルズやパワードスーツと戦うなんて絶対にだめ。格闘はとっさの時に命を守るためには使えるかも知れないけどレインデビルズへの攻撃には拳は無力だよ」


 拳を握りに甘菜に見せるようにする万理華、彼女の握った拳と腕の装甲の間から小さな短剣が飛び出す。万理華は格闘術に長けているがそれでもレインデビルズと対する時は、拳だけで殴り合う馬鹿なことはしないという意思表示だろう。


「レインデビルズは魔物。武器を使うやつもいるしあいつらの爪や牙はうちらの武器よりも鋭く重い時だってある。そんなのに素手で挑むなんて命を捨てるようなもんだよ。だから武器は絶対に手放しちゃダメ! わかった?」

「わっわかりました」


 小さくうなずき返事をする甘菜、万理華は彼女の返事に満足したのか笑顔になる。レインデビルズから見たら人間は脆弱な存在だ。人間はパワードスーツとエーテルコーティングの武器によりようやく彼らに対抗できるのだ。非常時でもない限りパワードスーツを着て、武器を捨て相手に殴りかかるのは愚か者のやることなのだ。


「隊長! 動き出しました!」

「わかった。いつもの通りやりなよ」


 万理華の指示で壁の上にいる番傘衆がアサルトライフルを構える。レイたちがたつ壁は、昼間に渡って来た橋の上に位置し真下に門がある。赤いレーザーが橋の向こうに集中し固定される。真っ暗な闇の中からゴブリンやオークが姿を現し橋へ近づくのが見えた。


「撃て!!」


 銃声が鳴り響く。壁に並んだパワードスーツが持つ、アサルトライフルが火を噴き次々にゴブリンやオークの貫いていく。しかし、倒れた仲間を踏み越えてゴブリンやオーク達は橋へと殺到する。


「橋を壊しちゃえば川を渡れないと思うんだけど……」


 ゴブリンやオークが我先にと、橋に押し寄せる光景に甘菜が首をかしげていた。レイは首を横に振って甘菜に答える。


「姉ちゃん。万理華さんたちは橋を利用しているんだ」

「利用してる?」

「さすがレイちゃむだね。かんちゃんの言う通り橋を壊せば敵は渡れない。でも、同時にどこから川を渡ってくるかもわからなくもなるからね」

「あっ! そういうことか!」


 目を開いて納得したようにうなずく甘菜だった。万理華は橋をあえて残し、鉄の門をレインデビルズに見せることで誘導して集中砲火を浴びせているのだ。


「まぁ、世の中にはへそ曲がりはどこにでもいるんだよねぇ」


 にやけながら万理華は壁の先をジッと見つめていた。


「ここは任せたよ。うちは巡回してくる」

「わかりました」

「なんかあったらすぐうちを呼んでね」


 部下に指示をだすと、万理華は壁の先を指した。


「レイちゃむ。かんちゃん。ついて来て」

「はーい」

「わかった」


 三人は銃撃をするパワードスーツの後ろを通り、壁伝いに歩き暗闇へと消えていくのだった。

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