34.幽界への扉よ、今開かん

 「和人がいない!」

 瞳が叫び、人々も和人の事を探すが、和人は見つからなかった。すると黒龍がその本を使えばいいのでは?と提案してきた。

 「そうだった。獄天隠滅書よ、和人の魂を私の体から解放し人型に具現化せよ!」

 すると瞳の体の中に入っていた和人の魂が抜け、目の前に現れた。

 「ごめん、実を言うと出てきたくなかったんだ。寂しくて。」

 和人は急に謝りだす。どういう事?と思っていた黒龍と瞳だったが、顔を赤く染めていた和人をすぐに抱きしめ、お互いを称え合った。

 「これで俺達の旅も終わりだな。瞳、和人、改めてありがとう!」

 「私こそ二人のお陰で此処まで来れたから・・・その、ありがとう!」

 「僕も!ただちょっぴり寂しいかな・・・。」

 瞳は黒龍に四つの正三角形の石を渡し、黒龍は扉の目の前にある石板に近寄る。

 「これをこうしてっと・・・。」

 四つの石をはめた事で扉が開き始め、間から光が差し込む。

 「き、綺麗だね。」

 「これが本当の幽界か・・・。」

 「そうだね・・・。(あ、獄天隠滅書は僕が持っておこう)」

 大勢の人達がその扉の先に見える景色に感動していた。そして三人に手を振りながら次々とその空間に入っていき、それを見送る三人だった。

 「そういえば黒龍ってなんで黒龍って名前なの?」

 「あ、あれだ・・・。厨二病ってやつだ。」

 「なるほど・・・だから黒いふ・・・」

 「ワーワー!!聞こえない!!」

 黒龍と和人のやり取りを笑って見ていた瞳。すると倒した筈の阿修羅の魂が人型に具現化された。

 「我は・・・神。我は・・・。」

 どうやら気力で実体化したらしい。しかしその姿はやせ細っており、まともに戦える状態ではなかった。

 「和人、やっちゃって!!」

 「うん!獄天隠滅書よ、化け物達の魂は各々地獄で選定し、阿修羅及び餓鬼、人間、畜生は無限地獄行きにせよ!」

 「な、ばかなぁ・・・。」

 阿修羅含めた四人は和人の命令により無限地獄行きとなった。

 「悪い者は地獄行き、当たり前だな。」

 「そうね!あれ、私達も結構倒しちゃったからもしかして・・・。」

 「・・・それは後で考える事にしよう。取り敢えず然るべきところで選定を受けるか。」

 「・・・。」

 そんな何気ないやり取りをしていた黒龍と瞳だったが、和人は何故か寂しそうな顔をしていた。

・・・

 「さてと、皆も行ったし、俺達も行くか。」

 「そうね!やっぱり緊張するわ。」

 「うん・・・。」

 黒龍、瞳の順に扉を通り抜け、最後にその世界に残ったのは和人ただ一人となった。

 「あれ、どうしたの和人。早くこっちに来てよ!」

 「そうだ。和人も早く!」

 しかし和人が急に頭を下げた。それに戸惑う二人。

 「ごめんなさい。そちらの世界には行けません。自殺した者は幽界に行けない事を最初から知っていたんだ。ほら、扉をくぐる事が出来ないでしょ?」

 和人は扉を通り抜けようとしたが扉に拒絶され、通り抜ける事が出来なかった。

 「そ、そんな・・・。どうにも出来ないの・・・?」

 「・・・うん。これは現世で語り継がれている理。それはどうやっても絶対に覆せない。つまり僕は ”幽界へ招かれざる者” なんだ。」

 そう。自殺した者は天国、地獄にも行けず、永遠に暗闇を彷徨い続ける。それを知らなかった黒龍と瞳は絶句した。

 「ごめん。話したら二人がそっちの世界に行けなくなると思って。二人は来世があるから絶対に幸せになって欲しかったんだ。」

 「待ってよ!こんな別れ方嫌だ!」

 瞳は和人のいる世界に入ろうとしたが、扉に跳ね返された。それを見た黒龍は理解した。偽りの世界がもう崩れてしまうという事に。

 「・・・和人よ。俺はもう刀を持っていない上に、そっちの世界に入る事も叶わない。最後になにか欲しい物はあるか?」

 「いいや。いらない。だって二人が僕にとっての宝物だからさ!」

 それを聞いた黒龍は静かに涙を流し、瞳も下を向いて泣いていた。すると、和人のいる世界が崩れ始める。

 「ごめん、もうお別れだね。二人に逢えて本当に良かった。今までありがとうございました!」

 和人は二人に手を振る。すると瞳がなにかを考えたのか立ち上がり、弓を差し出してきた。

 「和人。もしその本を使って現世に行く事が出来たら、この弓を両親に渡して欲しい。それが私の願い。」

 「そんな!それは命の次に大事な物って・・・。」

 「いいの!これがあればもしあの世界に行けなくても、私の事を思い出せるでしょう?だから!」

 「・・・わかった。瞳お姉ちゃんありがとう。黒龍も此処まで旅が出来て良かった。本当に感謝しています。ありがとうございました!」

 「あぁ、こちらこそお世話になった!ありがとう!」

 「私も!絶対に和人の事忘れないから!」

 三人は扉越しに拳を合わせる。そして和人は獄天隠滅書と弓を持ち、崩れゆく世界と共に消滅した。

  

  『さようなら。また逢う日まで。』

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