33.最終決戦

 瞳は一瞬にして阿修羅の間合いへ入り込み、腹を引き裂こうとする。しかし阿修羅は能力が飛躍的に向上した瞳の攻撃を簡単に避けた。

 「どうした?弓は使わないのか?」

 「うるさい!あの弓は戦う為にある訳じゃない!あれはかけがえのない宝物だ!」

 瞳と阿修羅は高速の斬り合いをし始めた。どちらも深い傷が入り、地面に血がつく。二人の実力は互角だった。

 すると瞳が足技を仕掛ける。以前和人がやっていたローキックだ。それにより阿修羅の体勢が少し崩れた。

 「くっ、なかなかやるな。だがこの程度でやられる訳なかろう。」

 阿修羅は小刀の嵐を振り切り、瞳の顔面を殴り飛ばした。吹き飛ばされた瞳はなんとか受け身を取るが、拳の一撃が物凄く重かったせいで脳震盪を引き起こす。まともに立てない状態だった。

 「いくら能力を向上させたところで、肉体は人間のままだ。きついだろう?」

 「くそっ・・・。動け、足!」

 しかし眩暈で視界がぼやけ、足は動かなかった。すると今度は重い蹴りが瞳の腹に入る。

 「ガハッ・・・!」

 瞳は口から血を吹き出した。

 「どうしたどうしたぁ!こんなに弱かったら話にならないぞ!広場にあった銃でも持ってくれば良かったのではないか?」

 阿修羅は瞳を煽る。しかし重症を負っても尚瞳の目は明るく輝いており、覚悟を決めていた。

 「なんだその表情は・・・。」

 その瞬間阿修羅は腸が煮えくり返る感覚に襲われていた。何故なら今まで殺してきた全ての人間は絶望で許しを乞いながら泣き叫んでいたのに対し、瞳はその表情すら見せなかったからだ。それを見た阿修羅は予想外の展開に怒り、ある行動にでる。それはこの世界にある全ての魂を吸い込み、自身の力を超人的に増幅させるというものだった。

 「瞳よ。貴様を絶望のどん底に陥れてやる。さぁ獄天隠滅書よ、我の心臓にこの世界のあらゆる魂を集め、強大な力を!!!」

 魂達が可視化されどんどん阿修羅に吸収されていく。瞳は後ろを振り返り絶望した。今いる場所以外は真っ黒になっていたのだ。

 「可哀想だから一発で終わらせてやる。見ていろ。魂が我の体に吸収されていくさまをな!!!」

 「そ、そんな・・・。」

 全ての魂が吸収されていくという事は助けられなかった人や化け物、植物や動物などあらゆる物が目に見えなくなってしまうという事。瞳は立てずただ見ている事しか出来なかった。

 「黒龍も・・・皆も・・・皆消えちゃう・・・。」

 絶望する瞳。しかし阿修羅の様子がおかしかった。なんと魂を吸収している心臓から血が飛び、藻掻き苦しんでいたのだ。それもその筈。この世界を恨む強い意志を持った魂も吸い込んでいる訳だから、拒絶反応を起こすのも必然。それを知らずに吸収しようとしていた阿修羅に罰が下ったのだ。

 「今が・・・チャンス・・・。でも体が・・・動かない。」

 瞳は目の前のチャンスを見逃したくなかった。しかし、体中は傷だらけで出血が酷く、意識を失いかけていたのだ。それと同時だろうか。走馬灯なのか魂達から励ましてくる声が聞こえてきた。

 『瞳さん!負けないで!今此処で阿修羅を倒して下さい!!』

 『そうそう!貴方は凄い人だ。全人類の誇りだ!だから負けるな!』

 魂達の必死な叫びが聞こえてくる。中には以前倒した達郎も声を掛けていた。

 「う、ごけ・・・!」

 瞳は筋肉に全力を込め、フラフラの状態になりながら気力で立ち上がる。しかしもう目の前に阿修羅がいるというのに、あと一歩を踏み出す事が出来なかった。

 『なんで、なんで私はいつも大事なところで動けないの!こんな時二人がいれば・・・。』

 瞳は自身の未熟さに涙を流す。もう心が限界だった。しかし次の瞬間体が動いていたのだ。

 『瞳お姉ちゃん。僕の最後の力を使って!』

 和人の声が聞こえてくる。和人が瞳の心を後押ししてくれたのだ。

 「あ、りがとう・・・!」

 瞳は力を振り絞り、阿修羅の前に来た。そして最後の言葉を阿修羅に対し叫ぶ。

 「お前は無限地獄行きだ!!」と。

 そう叫びながら阿修羅の心臓を一突きし、横に斬り裂いた。

 「く、くそがぁ・・・!こんな奴に・・・」

 阿修羅は大量の血を吹き出す。そして倒れる直前に持っていた刀を瞳の左腹に突き刺し消滅した。

・・・

 「ガハッ・・・。」

 瞳は這いずりながら、落ちている獄天隠滅書と正三角形の石に手を伸ばそうとした。しかし体は冷え、まともに動けない。もう虫の息だった。

 『こんなところで終わるの・・・?全人類を救う鍵が目の前に落ちているというのに・・・。あぁ、体が・・・消えていく・・・。』

 どんどん体が消えていく瞳。もう体力も気力も残っておらず、声を出す事もままならなかった。

 『こんな終わり方ってないじゃない・・・。もう・・・。』

 そして意識が途切れると同時だったか。まさに奇跡だった。強風が吹き瞳の手元に獄天隠滅書が渡った。自然が味方をしてくれたのだ。

 「・・・!あり・・・がとう。獄天・・・隠滅書・・・よ、私の・・・体を元・・・通りにして・・・下さい。」

 獄天隠滅書が光り、瞳の体を包み込む。そして徐々に体が回復していった。

 「・・・危なかった。ありがとう風さん。」

 弓を持ちながら起き上がり、瞳は獄天隠滅書に次の命令をした。

 「善人の魂を人型に具現化せよ。」と。

 すると魂達が一斉に光り、人型に具現化した大勢の人が瞳の前に現れた。

 「ありがとう瞳さん!これでやっとこの世界ともお別れ出来る!!」

 「こら!瞳さんだけじゃないでしょ!黒龍さんも和人さんもそうよ!」

 人々が苦しみから解放され喜び、瞳はそれに対し微笑んでいた。すると聞き覚えのある男の声が後ろから聞こえてきた。その声の主は黒龍だった。

 「ごめん、ごめんなさい、瞳!全てを任せてしまって!」

 涙をぬぐいながら言う黒龍。これがこの世界で初めて人に見せた涙となった。

「わぁ!びっくりした・・・。こちらこそごめん、あの時仲間じゃないなんて言って。でもありがとう。此処まで来れたのも黒龍と和人のお陰!」

 瞳は黒龍の腕を引っ張り抱きしめた。その様子を見ていた人達は称賛の拍手を二人に浴びせる。しかし瞳はある事に気づきおどおどしていた。何故ならいつまで経っても和人の姿が見えないからだ。

 

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