31.瞳の説得

 辺り一面が焼け野原となり、黒龍以外の全ての物が消え、この機を絶対に逃さないと思った瞳は黒龍に向かって走っていた。黒い雨が降り注ぐ大地の中を全力で走り、息が絶え絶えになる程焦っていた。

 「黒龍ーーーーー!!」

 遠くにいる黒龍に対し叫ぶ瞳。しかし黒龍の反応がない。それは完全に人間を辞めていた。もう瞳の声さえ届かない。そして一分後。

 「黒龍、目を覚まして!!」

 黒龍の真後ろに着いた瞳は息を絶え絶えにしながら、黒龍に訴える。すると、黒龍が瞳の方向へ体を向けた。

 「オマエハ・・・ニンゲンカ・・・?」

 その姿はとても痛々しいものだった。黒い炎によって右側の体が爛れており、手は骨がむき出しになっている。それに加え、全身の血が無くなったのか体は青ざめ、生気を感じない。まるで喋るゾンビのようだった。

 「黒龍・・・。そんなになるまで・・・。私の名前は瞳!聞いた事あるでしょ!そんなちっぽけな刀に精神を奪われないでよ!」

 瞳は黒龍に向かって叫ぶ。しかし黒龍はその言葉を理解出来なかった。

 「ヒトミ・・・ダレダ・・・?」

 「っ・・・!貴方は私達にとって一番大切な仲間!!和人と私を導いてくれたじゃない!覚えてないの?今私が持っているこの小刀だって、貴方が戦術を教えてくれたから扱える!全て貴方のお陰!!」

 しかし瞳の言葉は届かないばかりか、黒龍を攻撃態勢にさせた。

 「そんな・・・。貴方は誰も救えなかったと言っていた。でも今此処にいる魂達は貴方の行く末を見守っている!!勿論あの扉を開けて、魂が人型に具現化しても誰も貴方を責める人はいない!!もしいても私が庇う!!だから・・・だから正気に戻ってよ!!」

 瞳は胸を押さえながらうずくまり、懇願した。それはもう弱弱しい一人の乙女として。すると、黒龍が何か話そうとしだしたのだ。

 「ヒトミ・・・カズト・・・。ナカ、マ・・・。コノ・・・セカイ・・・ヲ・・・。」

 全身をカクカク動かしながら、片言で言葉を発する黒龍。その言葉を聞いた瞳は黒龍の記憶が完全に消えていない事に気がついた。

 「そうだよ!私は貴方と十二年過ごしてきた仲間!思い出して!!あの頃の苦労を!!貴方は人を救いたかった、それは今も同じ筈!!」

 すると突然刀が銀色から、真っ黒になった。刀の中にいる黒龍の精神が呪いを弾き返そうとしていたのだ。そして何故か刀の先を自身の胸の辺りに持っていった。

 「えっ・・・!ちょっと待って黒龍!」

 瞳がその動きを見て止めようとした瞬間、黒龍は自らの心臓を持っていた刀を使って貫いた。そして血の一滴も零さずに瞳の前で倒れた。

・・・

 「なんで、なんで自分の心臓を刺したの!!」

 瞳は予想外の展開に心が痛み、へたり込む。すると刀から声が聞こえてきた。

 『ひ、瞳・・・。俺だ。俺の精神は今刀の中にいて、今まで呪いに必死に抗っていた。しかし現状は依然として変わらなかった。抗うだけでこの近辺を吹き飛ばす人間兵器と化していた。だが瞳の説得が殆ど廃人と化していた体に響いたのだろう・・・。お陰で俺が俺でなくなってしまう前に動きを封じる事が出来た。ありがとう、そして俺が体の再生を止めているからすぐに斬って消滅させてくれ。そうじゃないとまた爆発してしまう。だから・・・頼む。』

 黒龍は刀の中で言葉を発した。しかしそれはもう力尽きる手前の人間の声で、か弱かった。

 「黒龍の・・・馬鹿。」

 瞳は暗い顔をしながら倒れている黒龍の首を斬り落とした。

 『ありがとう・・・。』

 黒龍の体は消滅し、黒焔斬刀はただの木の棒と化した。

 その言葉を聞いた瞳は振り返る事もせず、木の棒を背に歩いて幽界への扉へと続く階段を上っていった。

 そして阿修羅との最後の戦いが繰り広げられる事となる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る