30.狙撃手

 「あれは・・・阿修羅様?」

 畜生が座っていると爆発した方向から阿修羅が飛んできた。なにやら焦っている。

 「畜生!黒龍を今すぐ殺せ!!能力を酷使してでも!!」

 阿修羅の声が遠くから聞こえてくる。すると遠くから順に爆発が五回起き、いつの間にか刀を持った白髪の男が畜生の前に立っていた。

 「オマエハ・・・ダレダ?」

 刀を持った白髪の男は喋るのもやっとの状態だったが、能力が格段に上がっていた。畜生は汗を流す。

 『こんなの聞いてない!誰なんだこいつは!!』

 「畜生!奴の時を止めろ!今すぐにだ!!」

 阿修羅の声がする。それと同時に刀が黒く歪み、爆発しようとしていた。

 『止まれ!』

 畜生が右目を開眼させ、すぐに能力を使った事でその男の動きは止まり、爆発をギリギリで回避出来た。しかし畜生の敵の動きを止める能力は体力と連動している。一瞬でも気を抜いたら爆発してしまう。こうなっては手先にするどころではない。

 「阿修羅様どうしますか!?」

 汗を掻きながら阿修羅に助けを求める畜生。すると阿修羅は畜生の横に降り立ち、ただ破壊せよと命じてきた。

 「分かりました!」

 畜生は包丁を取り出し、黒龍の体をズタズタに引き裂こうとする。しかし、黒龍の体は斬れなかった。

 「なんで、なんで!!」

 畜生は焦っていた。白髪の男は固まったまま突っ立ってこちらを見ているが、その男の強烈な殺気が彼を襲う。

・・・

 「爆発が何回か起きたお陰で、道が開かれて遠くにいる奴を見つける事が出来た・・・!」

 瞳は約二キロメートル先に見える阿修羅ともう一人の誰か、そして黒龍の姿を捉えていた。しかし黒龍の変わり果てた姿に驚く。

 「あんな真っ白な状態で・・・!!待っててね、今その刀を矢で撃ち抜くから・・・!」

 瞳は黒龍を苦痛から解放しようとその場で弓を引く。瞳にとって二キロメートル先にある的を狙うのは初めてだった。しかしこれ以上近づくと爆発をもろに受けてしまう。その為瞳はその場で極限の集中力を引き出し、的を刀に絞った。ところが瞳はある事に気づいてしまう。

 「・・・あいつ!私を殺した犯人!!」

 瞳は重要な場面で畜生の姿を捉えてしまった。その瞬間体が震えだし、汗が止まらなくなる。集中力が切れ、気づかない内に腰から小刀を抜き出していた。

 「殺す・・・。殺す!」

 震える足をゆっくりと前に出しながら、敵に近づいていく。阿修羅と畜生はその存在に気づいていない。狩るなら今がチャンスだ。瞳は走る体勢へと入る。

 「私の両親の為にも!!」

 そして瞳は一歩踏み出した。しかし後ろから誰かに肩を掴まれる感覚を引き起こす。それに驚いた瞳は後ろを見るが誰もいない。ただ静かな空間が広がっていただけだった。すると脳内に直接声が響いてきた。

 『感情に流されてはいけない。その場で憎い奴の右目を狙うんだ!』と。

その声は瞳の中に眠る和人の声だった。その瞬間、瞳は冷静さを取り戻す。

 「・・・ありがとう、和人。私の悪い癖が出てしまった。もう大丈夫。ありがとう。」

 瞳は呟き、元の位置に戻りまた弓を射る体勢へと入る。極限の集中力を引き出した瞳は、もう覚悟が出来ていた。自身が吹き飛ばされてもいいと。そして畜生の右目に向かって矢を放った。その速さは消醜石と和人の力も乗っかり音速をも超える程に。

・・・

 「何故、何故なんだ・・・!」

 畜生は白髪の男を斬りまくっていたが、傷一つ与える事が出来なかった。その理由は生物以外の物を止める事が出来なかったからだ。白髪の男の周りを覆っている黒い炎が斬撃を全てはじき、攻撃を無効化していた。すると突然右目に激痛が走る。と同時に畜生の動きを止める能力が消えた。

 「あいつは・・・!瞳ちゃん!」

 そう言葉を発した瞬間、刀の閃光が辺りを包み込み、呪いが込められた爆発が起こった。近くにいた阿修羅は爆発をもろに受けた事で化け物になる能力を失い、畜生は一瞬にして塵と化した。

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