第3話 日常
キーンコーンカー・・・
「があああああああああああ!!」
学校のチャイムを遮る馬鹿デカい声。しかしそれを注意をする者は居ない。なんならその声の発生源に目をやる者さえ居ない。
「おっしゃオラぁ!夏休みじゃあボケい!」
背の低いそいつは椅子の上で仁王立ちしてそう叫ぶ。しかし教室にいる30名弱の生徒はこの事態に対してもスルーをかます。これほどまでにスルースキルに長けた集団は他にそうない。インターネットトラブルとは無縁の集団である。
「休みだぞぉ!?2ヶ月!!に、か、ゲッツ!」
そいつはそう言いながら両手でピストルのジェスチャーを作ると、その銃口を俺へと向けてきた。どうやら殺されるのも時間の問題らしい。
俺は面倒くさがりながらも、やかましい親友である
「なんだお前、俺とサバゲーしようって?」
「フッ、覚悟はできているようだなBOY。木っ端微塵にしてくれるわぁ!!」
そうして始まった第100次くらいの手銃想像戦争は熾烈を極めた。二人は一気に教室の端と端とに分かれ距離を取る。しゃがんで椅子や机を遮蔽にして徐々に距離を詰める。その最中にちょくちょく頭を出して威嚇射撃を、あわよくば仕留めるために銃を打つ。
もう俺らには椅子や机は岩にしか見えないし手には本物の銃を握っている感覚すらある。
末期である。非常に重篤な病を抱えているというのに本人たちにはその自覚がない。それがタチの悪いところであり、クラスのみんながスルーできる理由でもある。これが日常となって早3ヶ月。もう誰も注意しないし、なんなら見せ物として楽しんでいる人の方が多い。よくラノベやアニメに出てくる厚かましい風紀委員のような存在が居ないので無法地帯である・・・はずだった。
ついに互いを妨げるのは岩(机)1つとなった。その岩を背に力己はこう言い放つ。
「よぉ、腕ぇ上げたようだなボウズ」
「なんで上からなんだよ・・・オッサン」
「そりゃよ、お前をここまでの使い手にしたのは誰だと思ってる」
「いいか、俺はあんたを超えた!いつまでも下に見るなよ!ここで思い知らせてやるさ。俺があんたより優れていると!!」
「フっ、悪い子にはお仕置きが必要だと思うだろ?なあ?相棒」
お互いに手に握っている銃(手)を相棒としてきた。銃との対話は己の腕を上げるためには必要不可欠である。
次の一発で全てが決まる。
緊張が走る。これを見せ物として楽しんでいたクラスメイト達も同じく固唾を飲む。
だが、クラスメイト達が固唾を飲んだのは違う理由からだった。
「おい・・・」
「「ん?」」
俺たちの背中から聞こえてきたその声は明らかに怒気を、いや、なんなら殺意すら匂わせるようなものだった。
岩だと思って背中を預けていたそれは一つの机であることに気づく。そして机があるなら同時にその机を利用している席の者が居るわけで・・・
「あんたら、どうやら死ぬのが惜しくないようね」
「「ヒェ・・・」」
「覚悟はいいかしら?まあできてなくても、コロス♡」
「「いやああああああああああああぁぁぁぁぁ!!!」」
昨日の敵は今日の友。俺と力己は肩を並べて大急ぎで廊下へ飛び出し逃げ出す。それを追う鬼、じゃなかった。俺たちの幼馴染である
「「ごべんなざいーーー!!!」」
「キャハハハハハ!」
「おーいおまえらー、廊下を走るなよぉ・・・はぁ、またか」
バカ2匹と鬼1体と教師1人のこの構図は最早この学校の名物となっていたのだった。
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