第2話 勇者は聖女と本編開始前に出会ってしまう
「失礼、お恥ずかしいところをお見せしました。私はフィアナ騎士団魔法隊所属のナターシャ・フリルと言います。本日は学園に入学するフェイ君とアリサさんのお出迎えに参りました。よろしくお願いします」
何とかアルフォンスから女騎士を引き剥がし宥めること数分。
ようやく落ち着きを取り戻した女騎士はキリッとした顔つきでフェイ達に自己紹介を行った。
「そ、そっすか。よろしくお願いします」
「よ、よろしくお願いします」
それを受け、フェイはあの馬鹿力で後衛の魔法使いなのかと戦慄し、幼馴染のアリサは先程までの醜態が無かったかのように振る舞う切り替えの早さに脱帽。
幼馴染二人組は別の意味で世の中には凄い人がいるのだと二人は知った。
「まぁ、こんな感じでナターシャは根は真面目な奴だから、アリサちゃん達のことはちゃんと送り届けてくれるはずから安心しろ」
「はい、この身に代えてもフェイ君とアリサさんを絶対送り届けてみせます。といっても、転移石を使うだけなので護衛が必要かどうかは疑問ですが。予定通り三時間後には出発しますので、準備や親しい人との挨拶を済ませて来てください。先輩はその間にあそこの宿屋で」
「するわけねぇだろ!まぁ、後輩のよしみだ宿の酒場で愚痴くらい聞いてやるよ」
「マジですか!?」
「マジだマジ。てわけで、フェイ俺はこの馬鹿の相手してるからお前は一人で帰ってくれ。後、遅刻はするなよ」
「分かった」
「わかりました」
それから一旦解散となり、ファイとアリサは各々の家へと戻った。
二時間後。
「忘れ物はない? ハンカチは持った? お弁当は入ってる? いざという時のためのポーションは持ってる?」
「母さん、大丈夫だって。昨日一緒に確認しただろ?忘れ物なんてねぇから」
「でもでも、万が一ということはあるでしょう? もう一度確認しない?」
フェイは家を出ようとしたところで、母親の白髪美女 エリンに引き留められていた。
どうやら一人息子が心配で仕方がないらしい。
ただ、母親に付き合っていると幼馴染との約束どころか集合時間にも遅れてしまう。
「無理。ただでさえ、無理矢理風呂に入れられて時間がないってのに、そんなことしてたらアリサにお返しを買う時間無くなっちまうよ。アイツ約束破ったらめっちゃ怖いんだからな。じゃあ、行ってくる。約束通り長期休暇には帰ってくるようにするから」
「あっ、ちょっとフェイ!」
強引に話を終わらせると、荷物を持ってフェイはエリンの横をスルリと通り抜け家を後にした。
走ること数分。
フェイは村唯一の雑貨屋が見えてきた。
すると、そこには既にアリサが居て。
「おーい!」とフェイは手を振りながら幼馴染と合流した。
「あれ、おさげ解いたのか?」
合流してすぐ幼馴染の格好に違和感を持ったフェイがそのことを指摘する。
「えぇ、せっかくならフェイが今から買ってくれる新品のリボンを付けようと思って」
すると、アリサは新しい物が付けたいから外して来たと語った。
「そうか。ていうか、久々にリボンを付けてない姿見たわ。なんていうか、ガキの頃を思い出すな。ガキん頃はめっちゃ俺にツンツンしてたよなお前。『私、アナタとだけは仲良くなるつもりないから』とか言って俺のこと無視したり、『これ以上関わってくるなら魔法打つわよ』とか言って本当に魔法を打ってきたよな。あれは流石に肝を冷やしたぜ」
「……あの頃は色々と拗らせていたのよ。忘れて」
アリサの懐かしい姿を見たフェイが出会って間もない頃の話をすると、幼馴染の少女は恥ずかしそうに頬染めうつむいた。
「とりあえず、入りましょう。私買いたい物があるの」
「分かった。ばあちゃん、おはよう!」
昔話もそこそこに、二人は雑貨屋でリボンと雑貨品などを買った。
そして、それでも集合時間まで時間があったのでフェイがアリサのおさげを編むことになったのだが、不器用なフェイは上手く出来るはずもなく。
「ふふっ、下手くそね」と幼馴染から笑われてしまった。
「よくそんな面倒臭い髪型に出来るよな」
それによって、拗ねたフェイは毎朝こんなこと良く出来るなと呆れの声を上げる。
「別にこれくらい普通よ。それに、せっかくフェイがくれたものなんですもの。無くさないようにしっかりしておきたいの」
アリサはそれに対して慈しむようにリボンを撫でながら、これくらいは当たり前だと返した。
安物のリボンを無くさないためにそこまでするのかとフェイは思ったが、自分が渡したものを大切にしてもらっているというのは気分が良い。
野暮なことは言わず「そうか」と短く返事をした。
「きちんと集合時間に来ているようですね。フェイ君は先輩と違ってこの辺はしっかりしてるみたいで安心しました」
「一言余計だ、馬鹿。あれは先輩達が飲みにつき合わせてきたからであって、何もなけれりゃ遅れねぇよ」
「あだっ、か弱いレディに手を挙げるなんて最悪です先輩。傷物にされてしまったので責任を持って私をお嫁にもらってください」
「拒否する。はぁ、何度も何度も俺にはエリンがいるって言ってんだろ」
そうこうしていると、時間となりナターシャとアルフォンスが集合場所にやって来た。
三時間もの間話し込んでいたからか二人の距離感は少しだけ気安いものになっていた。
といっても、ナターシャの求婚癖は相変わらずのままだが。
そんなナターシャにフェイとアリサは苦笑いを浮かべていると、「この馬鹿な後輩は置いておいて」とアルフォンスが話を区切り、二人の方を見た。
「フェイにアリサ、貴族ばかりで大変だろうがお前ら二人なら何とかなるだろ。ぶちかましてこい、アリサちゃん」
「そこは俺も入ってるんじゃねぇのかよ!?」
途中まで息子達を快く送り出す良い父親だと思っていたら、突然自分だけはぶられたフェイがツッコミを入れる。
すると、アルフォンスはケラケラと笑い出し「お前はまだまだ半人前だからな。死ぬ気で頑張れよ」と言ってフェイの頭をこづいてきた。
これが息子を送り出す親の態度かとフェイは思ったが、事実は事実なので何も言い返すことは出来ず額を押さえながら不満の籠った目で睨みつけることしか出来なかった。
「じゃあ、ナターシャ後は頼むわ」
「はい、ではお二人はこちらの転移石を」
一頻りアルフォンスが笑い合えたところで後ろへ下がり、前に出てきたナターシャから二人は拳大の透明な石を受け取る。
「こちらの転移石は名前の通り、砕くことで近くにいる人間を一人だけ指定の場所に転移させるというものです。今回は砕くことで学園に転移するようになっているのですが、王都には転移を乱す魔法結界があるので多少位置がズレるかもしれません。なので、もし別々の場所に転移した場合はお手数ですが正門に集まってください」
「「分かりました」」
「良い返事です。では、地面に叩きつけてください」
使い方や注意事項などの説明が終わったところで、ナターシャの号令と共に二人は地面に向かって転移石を叩きつけた。
パリンッ。
パリンッ。
ガラスの割れたような音が聞こえたのを最後に、フェイの視界は光に包まれる。
初めての王都。
一体どんな景色が広がっているのかとワクワクしながら、光が収まったところで目を開けると
「え!?」
「へ?」
そこには一糸纏まとわぬ姿の金髪巨乳な美少女が居た。
彼女はフェイ同様に驚愕の表情を浮かべていたが、一度視線を自分の方に向けたところでカァーッと顔が真っ赤に染まる。
「きゃぁぁぁぁぁぁーーーー!!」
「ぶふっおーー!?」
そして、気がついた時にはフェイの頬に物凄い衝撃が走ったかと思うと、視界が反転し次の瞬間には意識を手放した。
あとがき
やっぱ、ヒロインとの出会いはこれだよね
面白い、続きが気になる、ヒロイン可愛いなどと思っていただけたならフォローやレビュー、コメントなどをしてくれると嬉しいです。
幼馴染の天才魔法使い曰く俺は勇者らしい。〜現地主人公が無自覚に転生者達へ格の違いを見せつけていく話〜 3pu (旧名 睡眠が足りない人) @mainstume
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