第21話 アーガイン王城

ガッシャンガッシャンガッシャン。

アーガイン王城の廊下をスペクトと魔王ダーナ・ウェルは歩いていた。

無論、魔王様の格好はいつもの悪の魔術師のローブスカーレットローブではなく、普通のローブである。


ガッシャンガッシャンガッシャン。

アーガインの狂王と、ダーナ・ウェルの迷宮の魔王は敵対関係にある。

それは間違いない。

だが、世間で思われているような血で血を洗う関係ではない。

例えるなら、ゲーム盤を挟んで差し向いに対局する関係に近い。


ガッシャンガッシャンガッシャン。

それでも公に狂王と魔王が会見するわけにはいかない。

今の私たちの身分は、隣国の密使ということになっている。


ガッシャンガッシャンガッシャン。

「あのスペクト君、この格好……」

「ああ、悪の魔術師のローブスカーレットローブは目立ちますからね。申し訳ないですがローブで我慢してください」

「いや、あたしの格好じゃなくてスペクト君の格好……」


ガッシャン。

足を止めて、自分の身なりにおかしいところがないか見直す。

真新しい甲冑フルプレート鉄仮面アーメット

うむ、問題ない。

「何も問題ありませんよ、王への謁見は全身甲冑スーツが基本です」

「そうなの?」

きょとんと首をかしげる魔王様。

「そうです」

何らおかしいことはない、結果的に顔が隠れる装備となったとしても。

もちろん、会合相手は狂王陛下であって、彼女ではない。

彼女ではないからして、顔を合わせる可能性はないのだが、念のための用心である。

いやいや、用心とかではない。

これは狂王陛下にお会いするための正装である。

決して、顔を隠しているわけではない。


ガッシャンガッシャンガッシャン。

気を取り直して再び歩き出す。

向かう先は、謁見の間ではない。

王城の中庭。


景色が良く、静かで、穏やかに茶会を行うのに最適な場所。

そして見通しが良く、盗み聞き対策がされており、公にできない密会を行うのに最適な場所。


そこに密会相手の狂王陛下が待たれている。


……はずだった。


「ロベルタ・リル・ナイム・アーガインである。本日は父の名代を務めさせてもらう」

待っていたのは、彼女だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る