第44話 夜這い抱き


「私を殺してください。小太刀も落としてしまい自死すらままならないのです。どうか……里の掟に従わせてください」


 やめなよ君が死にたがれば死にたがるほど罠を仕掛けてしまった俺たちの罪の意識が倍々になっていくでしょ。見てごらん、すましていたベルですら滝のような脂汗を浮かべてみたことないぐらい動揺しているもの。


「里の掟ってそんな……。猫人は怪我をしたら死ななきゃいけないような掟があるんですか?」

「ひとの……自分と同年代か、もっと下の子供たちが仕掛けた罠にかかるなど猫人として恥ずべき……死すべき失態」


 どんなに恥ずかしくても生きていた方がいいと俺は思うよ。失敗したぐらいで死ぬべきなんてことはない。何回も死んでいる俺が言うんだから本当さ。とくに君のようなおっぱいが大きい女の子は死んじゃだめだ。言うまでもなく胸が小さいなら死んでもいいということもない。大は小を兼ねるが小に勝ることもないのだから。


「恥をそそぐこともできぬ惨めな身なれば……おめおめ里に戻るなどお天道様が許してくださってもご先祖様はお許しくれませぬ。これ以上の生き恥をさらすわけには……何卒、何卒お情けを」


 情けで美少女を殺す男だと思わないでほしい。情けで活かし、情けでイかせる男になりたい。


「そ、そこまで思いつめるものではないだろ。誰にでも失敗はある。お、俺ももう少し目立つような場所に合図を仕掛けるべきだったと反省している」

「……狼人にはわかるまい。こうして姿をさらしている間にも矜持が失われていく猫人の無念が」


 それは俺にもわからないかな。


「とりあえず里まで肩を貸しますよ。そこでまた話を聞かせてください」


 里まで行けば考えを改める――というのは考えが甘い。これだけ掟を重んじて掟に殉じようというなら恐らく里の者たちも同様の考えで、ネネネに死を要求するのだろう。そのときはそのときだ。そのときになったら考えよう。


「それはなりません!! 失礼しました……その、部外者を里に入れるなどできませんので……」

「馬鹿を言うな。ユノ様はハミコ様の伝承にある魔法使い様だぞ。部外者などではなく森の支配者だ」

「支配者は言いすぎだね」


 伝承云々も眉唾だし森を支配するつもりもない。

 こんなだだっ広い森を支配してどうすんだよ。初夜権でも主張して獣人たちの初物はすべて俺に献上する法律でも作れとでも…………それ悪くないね。いっちょ森を支配してみるか。


「里に案内はできないと言いますが、こちらもあなたを殺すつもりも介錯するつもりもない。話し合いを続けても水掛け論になり延々と同じ問答が続くだけですよ。こうしていても日が暮れてしまうでしょうし。ですので――失礼」

「な、なにを――」


 屈みこんで脇の下から腕を通して肩を抱く。俺も以前より背が伸びたので少しぐらい年上の女性ならば問題なく肩をかせるし、そもネネネは俺よりも背が低かった。

 ノースリーブから露出した腋に腋毛の感触はない。ジョリっているパターンも期待していただけに残念である。


にゃ!」


 いにゃ!


「ごめんなさい、乱暴でしたね」

「……この程度の痛みならば慣れています」

「慣れられるような痛みには見えないですけどね」

「くっ……」


 腫れた足首が痛々しい。明らかに足に力が入っていないし震えてしまっている。ここまで逃げてこれたのは大熊に遭遇した際にアドレナリンが大量に分泌して痛みを忘れさせていたからか。痛みがないと錯覚し無理をしてしまい怪我を悪化させてしまったのだろう。俺たちの仕掛けた罠のせいでな。

 罪悪感がじわりと胸に広がる。ベルなどついには背を向けてしまった。主がいない間に家具などを破壊し、帰宅時に叱られると察して怯えている犬みたいな反応である。その隙だらけの尻に岩の棒でも挿して躾けてやろうか。


「情けない……。父上、母上……申し訳ありません。ご先祖様、私はこんなところで……」


 犯さられる前の懺悔みたいなのもやめてくれないか。俺は同意の上でのレイプにしか興味がないんだ。無許可で襲うような真似はしない。それぐらいマナーの範疇だろ。

 自力で立とうとするが上手く力が入らないらしく震える自分の足を見つめて心底悔しそうに下唇を噛むネネネ。そんな弱々しい姿に興奮した愛棒が「じゃあ俺が立ちかたをレクチャーしてやる」とばかりに立ち上がろうとしてしまう。おいおい松葉づえにでもなって握ってもらうつもりか? お前天才かよ。


「どちらにせよ里に迎え入れることはできません……どうか私など捨ておいてください」


 頑なに拒むネネネ。小汚くて小生意気なおっさんなら「はいそうですか」と見捨てたかもしれないが、綺麗なおっぱいの猫耳娘を見捨てられるはずもない。仮にネネネが小汚くて小生意気であっても素材がいいので愛棒にくるから見捨てはしないが。


「そうですか困りましたね。ですがこちらにも意地があります。あなたを死なせぬためなら何日だってこうしていますよ」


 チェリーの体力が回復すれば治癒もできる。それだって何日もかかるまい。

 心配なのはチェリーが俺以外の治癒を引き受けてくれるかどうかだ。


「そ、そんにゃ……」

 

 にゃ。


 ベル、お前のせいでもあるんだからな。おい、いつまでそうやってそっぽ向いているつもりなんだ。尻尾撫でまわしてアヘらせるぞ。

 過去に一度だけベルの尻尾を触るとどうなるか試したことがある。森の中、前を歩くベルの尻尾をギュッと掴んでみた。ベルは電源の切れたロボットの様に膝から崩れおちて、片膝立ちでなんとかバランスを取りながら胸に手を当て「なっ、なにを……」と、振り向きながらかっこいい表情とポーズで返された。尻尾を触って情けない姿を見てやろうとしていたのに結局かっこよくて悔しい思いをさせられたのをよく覚えている。

 レイの尻尾を撫でた時のようにアヘりながら抱きつかれるのは嫌だが、顔面格差社会を突きつけられるのも相当に辛かった。イケメンは何をしてもかっこいい。尻尾で感じちゃってもかっこいい。仮に俺の尻に尻尾が付いていたとして、それを唐突に握られたならきっとアヘ顔ダブルピースで鼻フック状態になるんだろうな。尻尾ではなく愛棒を握られたってそうなる自信がありますし。


「平行線ですね。では実力行使といきましょう」

 体全体に魔力をまんべんなく行き渡らせて身体能力を疑似的に強化すると、肩を貸していたネネネの重みなど鳥の羽ほどの重さも感じなくなる。これでは顔面騎乗をされても圧迫感と重量を味わえず興奮も半減するだろうな。してもらうときはナチュラルな俺で挑もう。


 ネネネを背負ってあわよくば尻を触ろうとも考えたのだが、怪我人相手に性的な悪戯をするのは俺の趣味ではなく童貞の矜持が許さないので自重する。でもどうにかして尻を触りたい。偶然でもいい。尻を触っても不自然にならない方法はないのか。怪我の具合を確かめるついでに肛門の締まり具合も確かめるとか……いやいや、俺はさっきから何を考えているのだ。数年前までの俺ならこうも尻にとらわれることなどなかったはずだ。

 まるで尻に囚われてしまう心の病を患っているかのよう。原因は判明している。この病は人の姿をした黄金竜――アロワナによって発症したものだ。アロワナの尻に釘付けになって以来、俺は尻に対して並々ならぬ興味がわくようになってしまったのだ。

 もう一度、尻(アロワナ)に会いたい。尻一神教の主神、尻神様(アロワナ)に会って、あのイカれたエロさの尻に誓いと服従のキスがしたい。バンなんとかという黒い竜人は顔も名前もほとんど覚えていないが、アロワナの尻のラインとエルナトの唇は今も鮮明に思い出せるんだ。

 会ったのはほんの一日だけだ。アロワナもエルナトも、俺のことなどもう忘れてしまっているだろう。尻神様(アロワナ)からしたら俺なんて千年生きた中のたった一日だけ会った人族の子供だ。実際は半日にも満たない時間しか話していないんだ、覚えている方が異常だと言える。こうしていつまでも執着していたことを知られれば、ストーカー気質を気色悪がられて軽蔑されてしまうだろう。でも、あの鋭い目つきでゴミをみるような軽蔑の視線をおくられ唾を吐きかけられるのはちょっと憧れるかもしれない。唾を吐きかけられたら絶対に飲んでやろう。


「痛むようなら遠慮せずに言ってくださいね」


 気持ちいいところがあっても教えてください。


「な、なにをするつもりですか!? えっ!? あれっ!? あ、温か――」

 

 ネネネの背中を腕で支えながら膝の下へ反対の腕を通して体を持ち上げる。

 ネネネの体はやはり軽い。これなら何時間でも抱いていられそうだ。何発でも抱いてヤれそうだ。


「安全のためにも僕の首に手をまわしておいてください。落とすつもりはありませんが念のため」

「は、はい……」


 ネネネが恐る恐るといった様子で首に腕を回す。口では抵抗していたのに抱き上げた途端急に従順になった。押しに弱いタイプなのだろうか。酸素が足りないから口移しで補給してくれと言ったらしてくれるだろうか。

 ネネネの腕に力が入ると年齢詐欺な胸が密着して気持ちがいい。


「ちょっと位置を調整しますね。痛むようならまた調整しなおしますので気軽にお申し付けください……っと」

「にゃふ……」


 ネネネの鳴き声は艶めかしく、鼓膜を飛び越え睾丸に直接響きわたる。精子たちが「孕ませソラシド」と合唱セックスコンクールの練習をはじめている。選択曲は処女まくをあけよう――か。

 加藤君から放たれる意図的な「にゃ」は桜の木の下に埋めたくなる程イラついたが、ネネネの自然な「にゃ」は股間にジャストミートしてくる。もっと鳴いてくれ。煩悩がおさまらん。股間のアジャスト肉棒ミートでネネネの子宮にある除夜の鐘を108回叩いて姫はじめをしないと発散できそうにない。


「さあ、ネネネさんの里まで案内してください。怪我の責任は全面的にこちらにありますので里の人たちにも僕から説明させていただきます。責任をとらせてください」

「夜這い抱き……」


 男心をそわそわさせる淫らなフレーズに流れを持っていかれた。夜這い抱きとは何かを詳しく聞かせてくれ。察するに猫人族は夜這いの文化があるようだが、このお姫様抱っこがそうなのだろうか。


「責任をとる……だから私に夜這い抱きを……」


 ネネネがこちらをジッと見ている気がする。

 何か言いたいことがあるらしく小さな口を小さく動かしている。こちらもネネネを見つめ返そうと努力はしているのだがどうしても視線が胸にいってしまう。年齢詐称のおっぱいが俺の体に押しつけられて形を変える。この状況で勃起しない男がいるとしたら、ラッキースケベに遭遇しても顔を赤らめるだけで勃起一つしないED系ラブコメ主人公ぐらいなもの。やつらには俺の愛棒をみならってほしいものだ。みてみろ、谷間のうねりを目で追っただけで一瞬で成人誌規格に変化したぞ。音がきこえてきそうなお手本のような勃起である。


「な……なにか……?」

「……にゃぁ」


 猫と目があったらゆっくり目を閉じたり開いたりすると良い――前世の記憶を掘り起こして猫との友好的な関係を築くためのコツを実践する。こうすることで猫は相手に敵意がないと判断し安心するとジャクソン銀河さんもいっていた。野良ネコで何度か試してみても一度として成功したことはないが、言葉の通じるネネネならばもしかしたらもしかするかもしれない。掘り出した記憶が正しかったら次はネネネの尻を掘りだしてさらに絆を深めたいところだ。


「あの、見つめられると力が入らなくなります……でも落ち着きます……。なぜでしょう?」


 もしかしたらもしかするかもと期待していたが本当にもしかしてしまった。

 作戦は成功だ。残すは性交だ。もしかしたんだから、もしかスるしかねぇだろ。

 

「な、何故でしょうね。僕はその答えを持ちあわせていません」


 いつだってへたれて及び腰になる性格だからこれまで童貞を守り抜けたのだ。できそうな雰囲気になったぐらいでできるなら童貞などやっていない。


「いい匂いがします……。これは魔力の匂いでしょうか。体臭も……ハァ、にゃんとも心地よき……」


 俺の魔力には媚薬効果かマタタビの成分でも配合されているのかと疑ってしまう。

 すべての女性がこうなるわけではないので当然媚薬効果など含まれていない。もしそんな効果が発揮されているなら今頃スズ村は俺の一大繁殖場となっている。男が少なくて困っているというのにレイ以外には誰も見向きしないのだから、媚薬効果などあるはずがないと断定できる。ではなぜネネネは俺の魔力を気に入ってくれているのだろう。


「匂いですか。自分ではわからないものですね。恥ずかしいのであまり嗅がないでくださいね。臭かったら一旦おろして汗を拭きますから」


 できれば拭いてほしい。舌を使ってね。

 君のも拭いてあげるよ。舌を使ってね。

 最後は噴かせてあげる。下を使ってね。


「くさいだなんてっ。この香りはとても……そう、とても好きです。香にして焚きたいぐらいに」

「そ、それは相当ですね。そこまでいってもらえると……えと、光栄です?」


 とろけた顔で目を細めるネネネ。いかつい顔で根を太める愛棒。

 押し付けられる胸のせいもあって色香の圧力が凄まじい威勢で襲ってくる。

 前世の感覚で言えばネネネなどまだま子供である。オカズで使うにしても躊躇われる年齢で、仮にヌイてしまったらしばらくは後悔し虚無感に苛まれ深くて不快な賢者タイプに突入するタイプだ。それがどうしてか愛棒がギンギンに反応してしまっている。肉体年齢に精神が引っ張られているのは前々からわかってはいたが、ここまで性欲がみなぎるのは初めてである。

 今の体が前世のものよりも性欲の強いつくりをしていて、さらに思春期を迎えたことにより一層顕著になってしまっているのかもしれない。


 このまま見つめ合っていたら無意識に唾液交換会を開催してしまいそうなので視線を外して森の奥のずっと先をみて意識を散らす。落ち着いたところで視線は変えずに問う。


「さて、ネネネさんを送るにはどちらの方角へ向かえばいいでしょうか」


 里へ着く前にホテルで休憩してもいいんだぜ。

 岩で囲った簡易コテージを作るからそこでしっぽりニャンニャンしようや。ベルは適当な動物に尻を向けてここ掘れワンワンでもしてな。


「里は……ここから西にあります。あちらです……」


 頑なに教えようとせず死すら望んでいたのが今はどうだろう。抱っこをしてやるだけであっさりと氷解してしまった。細く滑らかな陶器のような指で方角をさし示すと、一度俺の胸の上で文字でも書くように指を回す。悪戯に飽いたのか腕を首に回すとさっきよりも力をこめて体を密着させてくる。


「…………スンスン」


 レイもそうだったが、この森の若い子は初対面のひとの体をクンクンするのが普通なのだろうか。ならば俺がクンクンしても何もおかしくはない。一旦降ろすから股を開け。クンクンしたあとにお兄さんになってクンニいになってやる。


「ベル、念のため後ろからついてきてくれるかい」


 ついてこいだぞ。突いてくるなよ。「隙あり!」などと俺の尻に突きこんでみろ。兄妹揃って愛棒の地獄突きをお見舞いするからな。レイは完全にとばっちりだが連帯責任で連結無責任中出しだ。


「はい。後々必要になるかと思い、熊の解体と血抜きを途中までしておきました」


 気まずくて後ろを向いているのかと思ったが解体処理をしていたのか。できる男は仕事が早い。このイケメンは本当に隙が無いな。


「流石はベル。僕の唯一の友達だ」


 ノリで悲しいことを言ってしまった。

 この世界にきてから友達が一人もいなかったんだ。アリーシャは妻候補であって友達じゃない。レイは愛玩性が強すぎるし妹のような感覚に近い。


「フッ」


 なに今の笑い。お前がそう思うならそう思っておけ的なやつか?

 ハッキリしてくれベル、俺たち友達だよな。俺はちゃんと言葉にして言ってくれないと不安になる重いタイプなんだよ。ついでにレイに下の毛が生えたかも教えてくれ。言葉にして言ってくれないと不安なんだ。いや、やっぱり言わなくていい。生えてるかどうかは自分で確かめたいから。

 クリスマスプレゼントの中身を最初から教えてもらっていたら箱を開けるときのワクワクが半減してしまうもの。レイの股を開けるそのときまでワクワクさせていてくれ。レイに愛棒クリスマスツリーをぶち込んでメリークリトリスキーをして乱れさせるその日まで――


 おっと、また勃起してしまっていた。まったく休まる暇がないな。

 ベルもまさかこの状況で自分の妹で妄想を展開し勃起している男がすぐそばにいるとは思うまい。それがお前の友人であり、妹がやたらと懐いている男だ。どうだ、怖いか。


「いい匂いが強くなっていく……どうして、あぁ」

「提案なのですが、仕留めた熊は猫人の里に持っていくのがいいかもしれません」

「え、そうなの? そういうものならベルに従うけど」


 スズ村にもって帰らないの?

 今日はホクホクの熊鍋食べれないの?


「こいつの死体があれば状況の証拠になるかと。彼女が怪我をしているのは俺たちのせいではないと証明できますし」


 いや全面的に俺らのせいだろ。

 むしろクマモノは一切攻撃をしていないのだから無罪だぞ。


「あー、はーん、なるほどね」


 何にもなるほどってないけれど、ここは分かった振りをしておこう。

 これが俺の処世術だ。無駄な質問はせずに物事を円滑に進める特殊能力である。察しのいい上司、観察眼に優れた人には一瞬で見破られて評価を下げるので多用は禁物だ。


「では」と、首のない熊をお姫様抱っこしようとするベル。さすがに無理だろ――そう思ったが良いところまではいっている。力があるとは思っていたがまさかここまでとはと驚かされた。

 今後肩パンだけは絶対挑まないでおこう。中学生ぐらいになるとやたら肩パンがはやるから、そろそろベルもやりたいと言い出しそうだ。挑まれたら反撃を許さず先制確殺の岩の拳で決着をつけてやる。


「さすがに重い……というよりも大きすぎて持てもませんね」


 ベルの体が隠れているので熊の死体が喋っているみたいで怖い。

 というかそれ、前見ないで歩けるのか?



 ☆



 結局、俺の腰にもクマモノを紐で縛り付けてベルと二人で運ぶこととなった。

 歩くこと二時間。腰でクマモノを引っ張り、両腕にはクタクタになっているネネネを抱いて猫人の里に到着する。

 ここまでの道中、腰に巻かれたクソッタレ重いクマモノの死体も苦にならなかったのはひとえにネネネのお陰である。ネネネは怪我が痛むのか道中ずっと甘い声でハァハァと荒い吐息を嗅がせてくれていた。そのおかげで酸素ボンベいらずとなり無限の力と性欲が湧きあがってくるという寸法だ。あと数時間は君の息を吸いながらうるんだ瞳や汗ばんで露の垂れる谷間をみていたかったのに到着してしまったのが残念だよ。


 心なしかネネネの下半身――ぼんたんズボンの股間辺りがジワっと濡れている気がする。お漏(も)らしかと疑ったが、どうやらそれはお濡(ぬ)らしであると気づき、荒い吐息の謎も一気に氷解する。

 うるんだ瞳は痛みで泣いているのかと思っていた。荒い吐息も痛みに耐えかねてだと。妙に汗をかいて紅潮しているのも同じ理由だ。でも違った。ネネネは興奮していたのだ。理由は判然とはしないが、おそらく俺の持つなんらかの力、魔力の匂いが作用してのことだ。


 点と点が繋がり線となった時、愛棒が本来四段階ある進化を一足飛びに越えるワープ進化を果たす。一瞬で最終段階へと変貌した愛棒を何とか鎮めるため、昨日の夕飯の事を考えて抑えこもうと試みる。だが今回は手ごわかった。きかん棒は暴れん棒の風来棒のままで今すぐここからだせと、いきり立って言うことを聞かない。


 この手は使いたくはなかったが、やるしかあるまい……。以前も疲れたときに思い出してしまった加藤君とプールに忍び込んだ時の記憶を思い出すのだ。


 平泳ぎは股を開いて閉じてを繰り返す泳法だ。ゆえに加藤君が前に進むために股を開けば股間のバベルの塔と深淵の穴が見えてしまう。開いてはこんにちは、閉じてはさようなら。俺はこの現象を『サブリミナルちんこうもん』と名付けている。

 この記憶は鮮明に覚えてしまっているため、普段は思い出さぬよう記憶の奥底に沈めていた。嫌な記憶ほど何度も思い出してしまい記憶に焼きつくものなのだ。

 だが今回ばかりはこれほど頼もしい記憶もない。悪夢とも言える凄惨な記憶の活躍と加藤君の括約によりなんとか荒ぶる愛棒を封印することに成功する。


「ここが猫人の隠れ里のようですが。様子がおかしいですね」

「うん、誰もいないね。こんなに広いのに人っ子一人見かけないなんて妙だ」

「ハァハァハァ……あぅッ……」


 ――ストン


 ネネネの喘ぎの間隙を突くようにナイフが足元の地面に突き刺さる。

 突然のことにネネネを抱きながら軽く跳ねてしまう。

 びっくりした拍子にネネネに挿入してしまったらどうするつもりだったのだろう。抱き方が駅弁だったら完全に入っていたし驚いた拍子に発射していてもおかしくはなかった。


「ゆぅ、ゆ、ユノ……しゃま。我が里の者は暗殺を得意とします……」 


 それがどうしたのだろう。


「これは苦無と呼ばれる猫人族特有の投擲武器ですね……我々の爪や拳よりはるかに鋭く硬いです」


 ベルまでどうしたのだ。


「お気をつけください……里の者が怒っています」


 ああそうか。そういうことか。把握した。





 つまり俺は今、暗殺者に狙われているんだな?

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