第41話 たーまやー!!

 大会本部のテント前につくと

狩野と美琴さんが待っていた。

美琴さんはなぜかニヤニヤと俺とビオラを見てきて

狩野は狩野でこちらをじとーっと睨んでくる。


「遅かったじゃん。二人でどこへ行ってたんだよ。

牛串が冷めちゃったじゃないか」


不貞腐れている声で

ぼやく狩野に


「ごめんごめん、人混みのせいで迷っちゃってさ」


俺は誤魔化しの意味を込めて謝罪をした。


「ちょっ、紫音くん、ちょっとこっち来て」


そんなやり取りの最中、

突然、美琴さんが俺の腕を引き、顔を近付けてくる。


ダ、ダメですよ!美琴さん!

狩野も見てるのに……

それに俺にはビオラという人が……!!!


謎に焦る俺。

美琴さんは、そんなこと気にも留めずに耳元に顔を寄せ、囁いてきた。


「頬っぺたにキスマーク付いてるよ。

あのバカが気付く前に、これでさっさと拭き取りなね」


一瞬思考が止まる。


美琴さんにバレたぁーーー!

ついでに何考えてたんだ俺―ーー!!

二重で恥ずいわ!!!


美琴さんのハンカチを貸してもらって、急いでキスマークを拭き取る。

俺のハンカチは、ビオラの鼻緒にするために裂いていたから、

ありがたく使わせていただいた。

……いい匂いでした。


横目でチラッと狩野をみると、全然気が付いていない様子でビオラと話している。


「えーー?たこ焼きじゃなかったの?

焼きそばになってるぅ。

しかもなんだかレジ袋も草だらけ……

焼きそばも端に寄ってるし……

何かあったの?」


狩野が珍しく鋭い質問をしている。

まぁ狩野だからある程度、適当言っても大丈夫だろうけど、

ビオラは難しい顔で唸っている。


「クロードが焼きそばを焼いていたのですが……

断り切れず押し売りされましたの

その時に押しに押されて草むらに倒れ込んでしまったのですわ」


押し売りに押しに押されて倒れるってどんな芸当だよ。

適当すぎてこれはさすがの狩野でも……


「えー?なんて野郎だ。ひどいな」


信じるんかい!!

危うく声に出してツッコミそうになったわ


「そうなんですの。

怖かったですわ」


ビオラ……

クロードが悪い奴になってるが……いいのか?


「おー、よしよし。怖かったんだね。

もう大丈夫だよ」


狩野に頭をなでなでしてもらいながら、甘えてみせるビオラの演技力はさすがだ。

だがな?

そもそも押し売りはされてないし

クロードは謎に悪役にされるし

純粋な狩野をたぶらかしてるし

ビオラ…お前って結構な小悪魔なんだな……

あと俺以外とイチャつくんじゃねぇ!!!!


そんなことを考えていると

俺たちを呼ぶ声が聞こえてきた。


「みんないるか?

お疲れさん。こっち来て食べなさい」


総代の岩佐さんとルイが本部テントの中で座りながら、手招きしている。

俺たちはテントへ入り、各々席に座る


「夕べは、みんなに苦労かけたな。

おかげでこうして花火大会ができるのも君たちが頑張ってくれたおかげだよ」


みんなが座るのを確認すると岩佐さんは感謝の言葉を述べる。

岩佐さんとルイはようやく酔いから冷めて、さっき花火大会の会場に着いたらしい。

ルイは汚名を返上するように気を利かせ

クーラーボックスを開けてみんなに飲み物をすすめ始める。


「何か飲みます?

あいにく牛乳はありませんが」


ルイは俺の方に向き直り、申し訳なさそうにする。


「うるせー、こんな席でまで飲まんわ!!」


こんな時にまで牛乳いじりするなよな!


「ビールはないの?」


振り返ると、美琴さんがキラキラした瞳でルイを見つめている。


「姉ちゃん、今日も飲むの?」


狩野が呆れた顔で質問した。


「当然!ひと仕事終わったらビールって相場は決まっているじゃない!!」


胸を張り、ドヤ顔で答える美琴さん。

そんなに強調しなくても……どことは言わないけど。


「美琴さんは、ビールですね。

 ちゃんと用意してますよ」


と答えたルイ。

その返事を聞き


「やった!!」


と喜ぶ美琴さん。

ルイがビールを取ろうとし、美琴さんも同じく手を伸ばす。

二人の手が触れ合った。


「あ、失礼」


ルイは冷静に謝罪するが


「い、いえ……」


美琴さんは顔を赤くしながら、すぐに手を引っ込める。


「どうぞ、ビールです」


ルイが美琴さんを見つめたまま、ビールを手渡す。


なんだ、これ。

何見せられてんの?

こっちが恥ずかしいわ!!


狩野はじとーっと、呆れた表情で美琴さんを見ていて

ビオラは……赤面して下を向いてしまっている。


「ル、ルイは、飲まないの?」


空気を変えるため、俺は問い掛けた。

このままじゃ俺ももたない!


「わたしはさっきまで、飲みすぎて酔いつぶれてましたから。

でも、美しいお嬢さんと一緒なら飲めますよ」


ルイは俺のほうに一瞬視線を向けてから

流し目で美琴さんに視線を送る。


「そんな、美しいだなんて……無理に飲まなくていいのよ」


おい!空気を戻すな!!

俺がせっかく話題を変えたのに!!


「わたし、回復力が高いんです。だって元バンパイヤだから」


まぁそれしか取り柄ないからな!!


「しょうもない冗談ばっかり言って」


そのまま冗談と思ってくれ!


「冗談かどうか試します?」


出た、ルイの必殺ウインク!

出すなそんなもん!

そして試させんな!!

あー……もうだめだ。

ルイのウインクで美琴さんの目がとろんとし始めた。


俺がその光景に肩を落とし呆れると同時に

夜空に大輪の花が開く。


うわぁー!!

おおぉー!

たーまやー!!


周りから歓声があがる。


「蒼、こっちだ、こっち」


岩佐さんが少し離れたところで

キョロキョロと辺りを見回している蒼さんを呼んだ。


「お、みんな集まっているんだね。狩野さんの奥さんに、

これを持って行ってくれって頼まれたんだが……何だろう」


蒼さんが手に持った包みを目線の高さまで上げ

みんなに見えるようにする。

狩野がその包みを見て

ルイにデレデレの美琴さんより早く答える。


「漬物だと思うよ。毎年そうだから」


それを聞いた俺は


「あ、俺、漬物いただきます!」


と即答した。

狩野の母さんの漬物、美味いんだよなぁ。

俺はにっこにこで包みを受け取る。

その時ちょうど視界に入ったビオラへ視線を移すと、


「タコ焼き、食べてみたかった……」


と不満そうな表情で、冷えた焼きそばを前に箸が進まない様子だった。


お前のせいで、焼きそばになったんだろ!

なぁにを言ってるんだこの子は。


と大きなため息まじりに言いたい気持ちをぐっとこらえて


「確か、家にタコ焼き機があったはずだ。

材料さえ買い揃えれば家でもできる。

今度家でタコパでもしようか?」


と提案する。

タコ焼き機なんて、そうそう使うもんじゃないからな。

まぁせっかくだから使おうじゃないか。


「タコパ?」


ビオラがこてん、と首を傾げる。

くっ…可愛いじゃないか。


「タ、タコ焼きパーティのことだ」


俺はビオラの可愛さに圧倒されつつも答える


「それって、わたくしでもできるの?」


今度はキラキラした瞳で

子供のように見つめてくる。

……それは反則じゃないか?


「できるさ、簡単、お茶の子さいさいだ」


まぁビオラのことだ。

すぐにタコ焼きくらいマスターしそうだからな。


「お茶の子?」


ビオラが不思議そうにこちらを見つめてくる。

あー…アカンです。


「ま、超簡単っていう意味だ」


俺が照れて真っ直ぐに見れなくなってきたので

適当にはぐらかす。


「楽しみですわ!タコパ!!」


可愛い笑顔を見せてくれたビオラを見て

俺も嬉しくなる。

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