第40話 龍族の力をなめんじゃねぇ

ドン、ドン、パチパチ・・・・


花火大会開始の合図の花火があがった。

さっきよりも人々で川べりは人だかりで溢れかえっている。

早く、ビオラを見つけて助け出さなきゃ。

でも、人ばっかりでどこにいるのか見えねー。


「やめてください!」


どこかでビオラの声がする。

声が聞こえた方向へ向かう。

人々の間をうまくすり抜けて進もうとするが、なかなかたどり着けない。


「すみません、すみません」


謝りながら人波をかけ分けて進んで行くと、ヤンキーたちが三、四人で固まっているところが見えた。

見つけた。ヤンキーたちだ。

しかし、俺はヤンキーを見て足がすくんでしまった。

これはヤンキーの中でもヤバい部類に入る兄さんたちじゃないか。


「姉ちゃん、異世界から来たんだって?」


「そうよ」


「おもしれえ、お姫様かよ」


「姫ではありません。侯爵令嬢ですわ」


「ハッハッハ! 姫ではありません、だってよ! 面白い女だ。

姫様、俺と遊びませんか?」


「アニキ、なかなかアニキとお似合いですよ。一緒にドライブ行きましょ」


「俺の車に乗せてやるよ。現代日本の最新車種だぜ」


ヤンキーがビオラの肩に手を回す。


「触らないでくださる?」


その瞬間、グーパンを炸裂させたのはヤンキーではなくビオラのほうだった。

ヤンキーのアニキは無様に藪の中にひっくり返った。


「おっと、乱暴な姫だな。そういうことなら・・・

こっちも乱暴させてもらうよ。こっちこいや!」


ヤンキーとビオラがもみ合って、ビオラは前のめりに転んだ。


「さあさ、子ウサギちゃん、観念してこっちおいで」


キモいヤンキーの言葉に怯えるビオラ。

こいつらビオラに何しやがるんだ。

さっきまでビビっていたが、

ビオラが倒された姿を目にしたとたん、俺の中で何かがプツンと切れた。


「おい、こんなところで何している。どけ、サルども」


振り返ったヤンキーの目に、怒り狂った俺の姿が映る。

「な、なんだ、てめぇ」


「アニキ、あいつの目、ヤバいっすよ。暗いのに目だけが光ってる・・・・」


「んなバカな・・・マジだ」


俺が一歩、また一歩と進むたびに河原の草がざわざわと揺れる。

夏なのに冷たい風がひゅうっと通り過ぎていく。

そして、ヤンキーたちの周りにだけピンポイントで雨雲が発生し、雷がごろごろと轟く。

龍族の力をなめんじゃねーぞ。


「何だ? あいつ人間じゃないぞ」


「目が、目が・・・普通じゃねぇ!!」


ヤンキーたちがビビッて後ずさりはじめたとき、警察官が現れた。


「何かあったんですかぁ? 良かったら事情を聞かせてもらおうか」


「ヤバい、逃げろ」


ヤンキーたちは蜘蛛の子を散らすように逃げて行った。

警察官は俺もヤンキーの仲間だと思ったのか、俺に近づいて事情徴収しようと近づいてくる。


「おまわりさん、この人は何でもありません。

わたくしを助けに来てくれた人です」


「そうですか。

お祭りの夜は変な奴らがうようよしているから、気をつけなさいよ」


「すみません」


ビオラは、転んでしゃがんだままの姿勢で警察官に謝った。

警察官はさっきのヤンキーたちが逃げて行った先を睨みながら、やつらを追いかけて行った。

俺の感情もやっとおさまったところで、やっとビオラに声をかけた。


「大丈夫か?」


「大丈夫じゃないわ。

焼きそばだけ持って、わたくしを忘れて置いていくなんて、ひどいじゃないの」


「悪かったよ、ほら」


俺はビオラに手を差し伸べる。

やわらかい手で俺の手をつかんで彼女は立ち上がった。


「痛っ、あ、鼻緒が切れちゃった」


さっき転んだせいで下駄の鼻緒が切れていた。


「直してやるよ、ほら俺の背中に・・・」


俺はしゃがんで「背中につかまれ」と言おうとしたが、言うより早く彼女は背中に座った。


「お、おい、そうじゃない」


「ふふふふ」


「何がおかしい」


「思い出しちゃった。

はじめてこの世界に召喚されたとき、倒れたあなたの背中に座っていたわ」


「ふっ、そうだったな」


俺は、背中にビビアンを座らせながら、ポケットからハンカチを出して歯で切り裂いた。

日ごろ草履を履いているから、鼻緒を直すのは慣れている。


「気のせいかしら、あの時よりあなたの背中、広くなったような気がするわ」


「気のせいだよ。そんなに急に大きくなるものか」


「いつの間に強くなったの、紫音。成長したわね」


なんだよ、母さんみたいなことを言う。


「出会ったころは、おどおどしていて、

わたくし達と蒼さんから逃げてばかりいたじゃない。

そんなあなたが今日はわたしを助けてくれた」


「何もしてないけどな。ヤンキーに近寄っただけだ。

こんなんじゃ、かっこつかねえな」


「ふふふふ、あんなにかっこよく悪者退治できるなんて、

やっぱり紫音強くなったわ」


「うるせーな。俺はあの時から変わってねぇよ」


花火が上がって夜空に大輪の花を咲かせた。

ドーン


「うわぁ! きれい!」


花火を見上げるビオラの瞳もキラキラ輝いている。


「とてもきれいね!こんなに大きくてきれいな花火、生まれて初めて見たわ」


そうだろ、そうだろ。異世界にはこんなに大きな花火はないだろ。

よかった。ビオラが喜んでくれて。

花火と浴衣姿のビオラがまるで一枚の絵画のようにきれいに収まる。


「浴衣・・・似合ってるんじゃね?」


ドーーーーン


「え? 何か言った」


「別に何も」


また花火が上がる。

気持ちをビオラに伝えなきゃ。


「あのさ、俺・・・・」


「きゃーーー! 見てみて! 連発よ!」


花火は連発になり、さまざまな色の花になって夜空を彩っていく

ドーン、パッパッパッパッ、ドンドンドンドン、パラパラパラパラ・・・・

ダメだ。告ろうとすると花火が邪魔をする。


「そろそろ本部のテントに戻らないと、狩野と美琴さんが待っている」


やっと、花火の合間に口に出した言葉は、俺の想いとは裏腹だ。

本当は、少しでも長く二人きりでいたいのに。


「そうね、戻りましょう。・・・・と、その前に、

紫音、もう一回だけ背中見せてくれない?」


「はぁ? なんでだよ。めんどくせーな」


と言ってかがんだ俺の頬にビオラの顔が近づく。

ん?

彼女のやわらかい唇が頬に触れた。

これは、ほっぺにchuってやつかぁーー!

恥ずかしさに耳まで火照っていくのがわかる。


「さ、急ぎましょ。美琴さんが牛串買って待ってるわ」


ビオラが俺の手を引いて、どんどんと前を行く。


「ちょっ、まっ、待って、」


暑い、いや、熱いんだよ顔が。

俺はビオラに引っ張られ、大会本部のテントまで連行された。

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