箱の中にある望み

第1箱 今まで仲良かった女友達が急に恋愛対象になるいちゃラブ恋愛が読みたいです


 よく、恋愛相談をされる。


 別に、俺はモテるような存在でもないし、それでいて何か恋愛に通じているわけでもない。それでも、よく「話しやすい」という理由をつけて、何故か恋愛相談に乗ることが多い。特に、女子からの恋愛相談は月一でやってくる。


「なんていうか、話しやすいんだよね」


 今日も相談にやってきた彼女は、僕の疑問に対してこう答えた。


「普通ならさ、男友達とかに話す内容でもないんだけれど、なんか話しやすいんだよ。具体的な言葉とかは出ないけれど、雰囲気的にはそんな感じ?」


「そんなもん?」


「そんなもんだよ」


 彼女は微笑を浮かべながら、そういった。


 彼女を通じて、ほかの女子からも恋愛相談についてはやってくるものの、僕の恋愛相談の大半を占めるのは彼女である。だから、来るたびに毎回こんな質問を繰り返しているのだけれど、だいたいこういった解答しか返ってこない。


 彼女が相談をするときには、毎回違う相手についてどうすればいいか、を聞いてくる。だいたいその相手については僕はよく知らない。同じクラスになったことはあるけれど、雰囲気が異なりすぎて、話したことは事務的な連絡しかない。


 彼女はきっと、そういった、僕とは違う人間が好きなんだろうな、とそう思ってしまう。


 恋愛相談をするたびに思うのは、自分がどれだけ恋愛に不向きなのか、ということ。だいたい僕に相談してくるような連中は、僕とは乖離している人間を選んで相談してくる。だから、僕は恋愛という土俵に立つことはできないのだな、と劣等感を覚えてしまう。


「相談したいなら、近しいやつに聞けばいいだろうに」


「えー? そんなこと言わないでよ」


 彼女はからかうような笑みを浮かべて、そんな言葉を吐く。僕はそんな彼女の様子にため息をつきそうになった。


「それで? 今回はどんな奴……、というか、そろそろ相手を固定しなよ」


「え、だって私、花のJKですよ? 青春、というやつなのですよ。色移ろう乙女というやつなのです、だから、仕方なくない?」


「……移り気なのはどうかと思う」


 正直な感想を返す、彼女は不服そうな顔をしたけれど、僕はそれから視線をそらした。


「それでどうなの、次の相手は」


「あ、ああ! ええとね、ハヤシくん、なんだけど、知ってる?」


 ハヤシ、と聞いて、思い当たる顔がある。


「隣のクラスのハヤシ?」


 そうそう、と彼女は相槌を打った。


「この前話してみて、めっちゃいい雰囲気だったんだよね。友達に聞けば、クラスからは少し浮いているらしいんだけど、孤独の狼? 的な? 格好良くない?」


 彼女はにやけたような表情で、そう言葉を出し続ける。


 だけれど、少しだけ不可解な点がある。それは、俺だからこそわかることなのだけれど、はっきりと告げるのは後ろめたいので、さぐりを入れるようにした。


「……ハヤシって、あのハヤシでいいんだよな?」


「え、うん。この学年、そのハヤシくんしかいなくない?」


「……うん、そうだよな。あのハヤシしか、いないよな」


 この学年にいるハヤシは一人、ほかの学年に入るのかもしれないけれど、こいつはこの学年のハヤシだときっちりと言葉を吐いた。


「それで、話しかけたの? お前が?」


「え? えーと、うん。そうだよ」


 彼女は一瞬視線をそらしたけれど、言葉を裏付けするように俺に視線を当てる。


 ……おかしいな、と思う。


「あのさ」と俺は言葉を紡いだ。彼女はそれに頷いて、耳を貸そうとする。


「ハヤシって、俺、中学の時から親友なんだよね」


「……え?」


 彼女は心の底から戸惑うような声を上げた。


「ハヤシ、顔は格好いいけど、あいつモテないんだよ。だから、そんなことがあったら有頂天で俺に話すと思うんだけどな」


「え、えーと。あの、あれなんじゃない? 親友にも話さないくらい有頂天だった可能性とか……」


「そうかなぁ、ちょっと聞いてみていい?」


 からかうように俺は言葉を吐く。攻守が逆転したように、彼女の顔が青くなるのを感じる。


 なんというか、面白くなってきた。


「というか、今までの相談してきたやつらに、本当にお前関わってきてたのか?」


 え、え、ええと、と彼女はひたすらに視線を泳がしながら、答えを返そうとはしない。


「……もしかして」と俺は言葉を吐く。


 もしかして、こいつ、俺の気を引いていたり……?


 ……いや、それは早計だ。早合点しちゃだめだ。それで期待と違うということがわかったら、なんとも恥ずかしいことになる。


 でも、彼女の相談する度の態度を思い出すと、そう思えて仕方がなくなる。


 ……そう思うと、途端に彼女の存在が愛おしくなるというか、でも期待して裏切られるのはどうもいやだ。


「……うぅ」


 彼女の顔が真っ赤になるのが視界に入る。これ以上、踏み込んでも互いに損しかしない雰囲気を感じる。


「ま、まあ、この話はまた今度にしよっか」


 誤魔化すように俺は苦笑した。


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