第2話 君に捧げる色褪せることのない現代マッチポンプ
「おにいちゃんおはよー」
「おう、おはよう我が妹。
「環はまだ寝てるよ。今日も
妹の言葉を元気よく肯定する。
そのくらい迷宮に行くのを楽しみにしていた。
「おにいちゃんなら大丈夫だと思うけど気をつけてね」
「ああ、じゃあ行ってくる」
僕は胸を踊らせながら道を進んでいく。
その道を歩く頭上には普通の現代ではありえない巨大な魔法陣が存在する。
迷宮が現出した街「遊乃宮市」。その上空には迷宮の他に巨大な魔法陣が浮かび上がっており、魔法陣を中心には黒く輝く「神殿」と、その周りを囲う「六の塔」が聳え立っている。
その後の調査で神殿と塔の中にはモンスターが住み着いていることを発見する。
そして、魔法陣の下にいる全ての人間はこれまでにあり得なかった超常的な力を振るうことができるようになっていた。
僕は神殿迷宮に到着する。
見るからに魔王がいます。といった見た目の神殿。
神殿は厳かな雰囲気に包まれており、その色彩は暗い陰影と深い黒さに満ちている。壁は古びた石造りで、年月の経過を感じさせる。石の質感はざらざらとしており、触れると冷たさが伝わってくる。
僕は迷宮には入らずに右へ進み神殿の壁をコンコンと叩く。
すると先程まで壁だったところから小さな扉が現れ、一体の黄色いスライムがドアの向こうから出てきた。
「どうよ。倒せそうなやつ今日は来た?」
僕はスライムに話しかける。
僕の言葉にスライムはプルプルと震える。
どうやら今日も現れていないらしい。
「そうか、ありがとう。今日もこれやるよ」
僕はスライムにミカン科の果物ライムを与えて、ダンジョンの第五層へマスター権限を使い転移した。
ちなみにさっきのスライムの名前は果実ライム君である。
§§§
俺は『スタートダッシュ』のリーダーをやっているサブローってもんだ。
この目の前の戦いが終わったら、魔王を倒したら、俺は前から愛していた沙也加ちゃんに告白するんだ。
だからこの戦いは負けられない。
どんなに険しい戦いになろうと俺は勝つ!
その空間には一つの黒石の玉座と玉座を照らす明かりだけが存在している。
「フハハハハ、よく来たな勇者達よ」
「魔王、俺は勝つ」
「威勢だけはいいな。ならば、来るがいい!」
「ああ! 行くぞみんな」
チーム『スタートダッシュ』出陣だ!
§
緊張が最高潮に達していた。
俺たちは魔王サナーヴァの前に立ち、決死の覚悟で彼との戦いに挑んでいた。
が、ここで終わりか。
魔王の周りには七つ武器が規則正しく回っていた。
これで冒険も最後か。
だったら俺が死ぬ攻撃をその刹那まで見続けよう。
サナーヴァは不敵な笑みを浮かべ、闇のエネルギーが彼を包み込んでいく。
恐怖が俺の全身を支配し、足元がすくんだ。
「くくく、愚かな勇者ども。お前たちは我に殺される価値などない! 魔物にやられぬよう道中気を付けることだな!」
ホログラムのような見た目の武器が五つ。
剣、斧、槍、弓、杖。
他に……小学校で使ったリコーダーと白く真っ白な便座カバーが回っている。
――――困惑。リコーダー? トイレの便座カバー?
それは一つの剣に集結し、放たれる一撃。
「ぴゅーーーー」と音がなる。これリコーダーか?
鼻につくリフレッシュな匂い、じゃあこれが便座カバーなのか?
意味が分からなかった。
王の攻撃が容赦なく俺の身体に突き刺さり、痛みが全身を貫く。
剣が手から滑り落ち、地面に落下する音が響いた。
起き上がろうとしたが、体が動かない。
痛みと絶望が俺を包み込んでいく。
だが、俺には痛みや絶望以上の困惑が存在した。
その困惑はきっと死んでもなお残り続けるだろう。
告白させ目に入らなくなるほどに意味不明だったのだから。
「愚かな人間だ。夢など叶えさせはしない。お前たちは終わりだ」
魔王の冷たい声が耳に響く。自分の力が尽きるのを感じ、倒れこんだ。
§§§
「いや~、楽しい」
「あの、私はいいんだけど……。本当にこんなことしていいのかな。迷宮なんて作っちゃって……。この世界に住む、たくさんの人たちに迷惑じゃないかな」
「何言ってる、セレティア。みんな嬉しい、僕も嬉しい。セレティアも救われる。いいこと尽くめじゃないか」
セレティア。異世界で会った女性。
彼女は「願いの民」と呼ばれるどんな願いも一人一つ叶えることができる種族。
セレティアはその種族の中でも特別な神に祝福された「巫女」という存在だ。
巫女は「願いの力」を豊富に持ち、その力を使い切るまでは死ぬことはできない。使い切れば、そこから人間と同じように身体の成長を始める。
普通の願いの民は一人の願いを叶えるとその力は消滅する。だが、彼女は違う。祝福された人だ。それで適当に叶えまくっていたら捕まって幽閉されてしまったらしい。
「今は『第一の魔法陣』だよね?」
「そうだよ。魔法陣は第三まで存在する。楽しみだね。君の『願いの力』を使い切るのが」
「うん。でも、こんな平穏な世界でやらなくても……いいんじゃないかな」
世界は変わった。面白く変化した。
そして僕は君を助けたい。
――だから
僕は救うよ。
君も世界も。
自分自身で起こした物語だ。
ステージの幕引きも任せてくれ。
ああ。
もしもこの話に名前をつけるなら、きっとこう名付けるだろう。
『元勇者の現代マッチポンプ』と。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます