可変界の迷宮マイスター 『元勇者の現代マッチポンプ』に巻き込まれてしまったTS転生者の話

可救京

【第0章】 勇者編 / 願いの現代マッチポンプ

第1話 今日から始める現代マッチポンプ

 僕の名前は望月士和もちずきとわ。なんてことないどこにでもいる一般人だった。


 家のドアノブに手をかけ「ただいま〜」っと言いかけた時、ぐにゃりと手にかけた硬いはずのドアノブが普通では起きない形に変化していた。




 §




 僕はいつの間にか異世界転移して勇者をすることになった。


 幸い、僕が持つ二つのスキル【次元収納】【限界突破】があったおかげで魔王を討伐することができた。


 【次元収納】は言わずと知れたなんでも入れられる不可思議スキルで、【限界突破】はありとあらゆるものの能力を完全に使いこなし、さらに限界以上の力を引き出すことができるというぶっ壊れスキル。このスキルにはいつも助けてもらっていた。



 僕は魔王を倒し終わった後、魔王城で宝探しに勤しんでいた。

 金銀財宝も沢山あった。

 だが、それ以上の財宝を俺は城の地下で発見する。


 それは一人の女の人。


 僕は彼女に一目惚れしてしまった。

 城の牢屋で本を読む彼女のことを。

 彼女はここにある黄金、宝石以上に美しかった。


 彼女と沢山話がしたい。いろんなところへ旅もしてみたい。

 でも、僕にはもう時間がない。

 魔王を倒したら、地球に戻してくれるという契約を聞き入れたから。


「あの! 僕と一緒に行きませんか!」



 §




 それから地球に帰還してから、半年と少しが経過した。

 教室の席で肘を付き、窓の外を見ながら考える。


 今では遠い昔のように感じてしまう異世界のこと。



 ――異世界転移。



 転移から十年間、異世界で旅をしていた。

 魔王を倒す旅は楽しくもあり辛くもあった。辞めたいと思えることもあったけど、今ではいい思い出だ。


 そう、ここで誰もが疑問に持つだろう。

 十年間異世界で過ごしていたのに高校に行っていることに。


 僕は異世界で十年間過ごしていた。

 にも関わらず、こっちでは高学生。つまるところ、こっちでは時間経過していなかったらしい。



 黒板に目を移し再び窓を眺める。

 別に窓の外を眺めていても何も面白くはない。

 外を見ては雨か、と思うだけ。



 面白くはないが眺めつづけた。その後いつものようにキーンコーンカーンコーンと学校のチャイム音が鳴り響く。



 退屈な日々。

 つまらない。

 憂鬱だ。


 変化が欲しい。


 僕はなんで、日本に帰ってきてしまったんだろう。

 ここ最近はそんなことさえ考えてしまう。


 異世界にいた頃はずっと日本に帰りたいと強く望んでいた。

 その理由は、その頃読んでいた漫画やアニメの続きが気になっていたということ。

 あと、こんな地獄と言ってもいい戦闘だけの毎日から抜け出したかった。


 それと家族に会いたかったし、心配かけてると思っていたから帰ってきたんだけど……。


 漫画やアニメは今読んでみると異世界の経験と比べるとワクワク感や迫力がないし、親はまあ、会った最初こそ嬉しかったよ。抱きつきもした。その時、親たちには変な奴と思われてしまったが……。


 でも今はまぁって感じで、十年間親離れしていたからか最近は別に自分で大体のことはできるから煩わしいなとすら感じている。



 ――なんか楽しいことがしたい。



 最近ずっと思っていることだ。

 もし、漫画やアニメのように退屈な日々から抜け出してくれる人やイベントがあればなって。


 僕はこのまま​​​​変わることのない人生を過ごしていけばいいのだろうか。

 そんな人生は本当に意味があると言うのだろうか。そう考えてしまう。


 この平穏な日々が嫌いというわけではない。

 ただ、飽きてきたというだけで。


 異世界生活は確かに辛いことも多くあった。でも苦しかったことよりもあの時の戦いが、命をかけた真剣勝負が癖になっていたのかもしれない。


 今夢中になってすることがない。

 まるでモノクロの世界に一人だけぽつんといるような大切なものがぽっかりとなくなったようなそんな気持ちだ。


 外を見ればグラウンドで野球部が一生懸命に頑張り、ほかのところに目線をやると楽しそうに笑っている人がいる。

 どうすれば灰色の世界は面白くなるだろうか……。


 退屈な世界だ。


 それこそ……世界そのものを作り変えてしまうような楽しい事件があったらいいのに。

 歩いている足を止めて空を見上げる。



 この現代には、魔王がいない。

 ドラゴンといったモンスターがいない。

 魔法がなければ、勇者もいない。

 良くも悪くも平穏な世界。



 この世界では勇者はいらない。

 僕が持つ過剰な力も必要ない。



 だから、あの十年間は無駄だったんじゃないか、救ったのはただの夢で……やってきたことを否定されたみたいなそんな気持ちになる。



 不安だった。

 悔しかった。



 現実に押し潰されそうで、押し流されてしまいそうで……。



 そうか。



 ないなら、力が発揮できる世界に変えればいい。


 くくく……敵と戦えないなら自分が敵になればいい。


 僕の異世界召喚の裏で糸を引いていたのは倒した魔王だった。

 世界壊して現代ファンタジーやってやろうじゃないか。



 魔王になればいいじゃないか。




   §




 三週間程計画を練り、行動を開始する。


 空を見上げると夜空に浮かぶ月。真ん丸の満月。


「今宵の月はどうやら君を祝福しているようだ。退屈な世界を作り変えてやろうじゃないか」


 始めようか、新世界を。新しい世界の開幕と行こうか。


「願いを叶えたまえ。我が願いは現在、過去、未来、全てにおいてただ一つ。世界の変化――新世界だ。さあ!……現出せよ――夢の理想郷」



 幾層星の魔法陣が現れ、魔法が終わると星のように消えていく。



 空は漆黒。

 地は悲鳴を。

 人々は恐怖し、光り輝く天を見た。



 ――世界に迷宮ダンジョンが現界した。


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