第11話


 酒吞の狩ってきた獅子を受け取りに一団がやってきた。その中に菰野も混じっていた。彼は迅に気がつくと、ニコニコしながらやって来る。もみ手をしている幻影が見えそうだ。


「いやいや、鈴花さんの後を継いでくださるとか。皆、喜んでいますよ」

「そんな事は言ってない」


どうやら祖父から話をきいたらしいが、迅のセリフは聞いてない。

ぶすっとした表情の迅にお構いなく、

「今度、地区の集会がありますから、是非来て下さい」

と誘ってくる。


「いやー、遠慮したいな」

「いやいやいや。この村の事も興味を持ってくださいよ。妖物の跋扈は確かに変わった事ではありますが、妖物の残すものは村の重要な収入源にもなっているんですから」


菰野が言うには、倒された妖物はその媒体となった物も残すという。この媒体には様々な物があり、レアメタルもしかりとばかりに利用されているという。


農業法人『コリ』は、そういったものを取り扱うためのものでもあるらしい。個人売買では何かと面倒なものを、コリで纏めて行なっているのだそうだ。


「別に裏取引とかしているわけではないです。知っている人に、商品として売買しているだけです。世の中が変わっていくのならば、こちらもそれに合わせないといけないんですよ」


それに、と彼は続ける

「先日のシシ肉、美味しかったでしょう。ああいうのもいるのです」

「あれは、イノシシじゃ無かったんだな」

少し迅の目が据わっている。


「肉質はイノシシみたいなもんですよ。あれは、最近増えまして。夜中に跋扈してたんですよ。

処理さえちゃんとできれば、美味しく頂けるものの一つです。東京の有名所のレストランなどでもお取引していただいています。知る人ぞ知るメニューです」

ニヤリっと音が聞こえてきそうな顔をした。


「鈴花さんの提供して下さるお菓子などが無くなって、力を制御できない者達もいたんですがね。迅さんのお陰で復活できて、喜んでいましたよ」

誰がとは聞きたくなかった。


祖父の話では、かのお菓子たちは魔の物やその系列、混ざり者には特によく効くのだそうだ。


「酒呑様が復帰されるということ、村でそれを喜ばない者はいません」

急に真面目な顔になって、深々と礼をされた。

「ですから、迅さんには本当に感謝しているんです」

だが、どうにも彼の笑顔はうさんくさい。



 結局、村の集会へ祖父と共に行くことになった。


「迅様」

綿貫は、彼の姿を見るなり飛びついてきた。彼が連れてきた青年は、弟だという。

「あのプリンのお陰で。もう手遅れだと言われていたのですが」


弟の頭に手をやって頭を下げさせ、自分もこれでもかっていうぐらいに頭を下げてくる。


「いや、あの、あまり気にしないでくれ。それから、様付けはやめて下さい。治って、良かったですね。うん」


迅は、実際に自分のプリンの効能をあまり実感していないこともあり、何かの間違いで御礼を言われているような気がしてならなかった。だから、綿貫とその弟の二人にそんなに御礼を言われて戸惑ってしまった。


「綿貫、お前の気持ちは迅にちゃんと伝わったさ。家を継ぐことにもなったから、この村の一員として今後も色々と接することもある。新米だからな、よろしく頼む」


祖父は、綿貫にそう言って頭を上げさせた。説得して、なんとか様付けは回避できた。祖父は面白がっていたようだが、迅本人はSAN値が削られていくようだ。


 集会場では、若者を中心に集まっているようにも見える。村は幾つかの地区に分かれていて、祖父の家は山に面した鬼洗地区にある。


「この山の洞窟から、妖物が出てくる。んで、最初に出くわすトコだからな。で、妖物が洗礼を受ける場所だから、鬼洗」

そんな由来があるなんて、ちっとも知らなかった。


 寄合は、村の状況報告や討伐報告等だった。積極的に村を襲うような妖物はいないのだが、周囲の山などには定着しているものや、紛れ込んでいるものが増えているらしい。


「村の結界は問題ないとよ。こないだ酒吞が見回ってくれた。ただ、洞窟の新しい吹き出し口が見つかったと言っていた。見つけたのは、新しかったんで潰せたと言ってたが、他にもあるかもしれん」

「おう、山を回るときは気をつけてみよう」


そんな話をしていく。迅は、隅の方でそうしたやり取りを眺めている。一見、普通のやり取りに見えるんだが、その内容には化け物の話も淡々と混ざっている。


田んぼや水利関係の話、コリの収益と分配の話などといった、迅からすればこれこそが日常的といった話の中に。


コリの収益の幾つかも妖物関係も混在し、についての売上とその分配などもあった。



話し合いが終わり、今日はこれで解散となった。この後に飲み会などはない。


「おう、幾太郎さん、迅君」

近所の小父さんに声を掛けられた。確か山野辺さんだったろうかと考えていると、


「うちの祖母さんは、明後日なら良いそうだ。そっちはどうだ」

「そうかい。うちも大丈夫だ。それじゃ、明後日の昼を食ったら伺うよ。よろしく頼むな」

祖父は、そう返して別れた。


何だったのだろうと思っていると

「迅、物見の婆さんトコに明後日行くことになったぞ。お前も確か、何も用事が無いよな」

祖父に告げられた。

「ああ、前にジイさんが言ってた人か」


「そうだ。この頃はすっかり弱くなってなあ。というより、内のバアさんと仲が良かったんだ。バアさんがいなくなってガックリ来ているんだと思う。

それでも前もってお伺いを立てて体調の良さげな時に見てくれるんだわ。

そうだ、できるならば、身体に良さそうな差し入れを作ってくれないか。この前家に訪ねた時も、少ししんどそうだった。確か、バアさんはよく蒸しパンとかカステラとか持って遊びに行ってた」


「わかった。んじゃ、バアちゃんのレシピを見て作れそうなのを見繕っとく」

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