幼馴染に『好き』と言った時の、私にだけ見せる照れた表情がめっちゃ可愛い

依奈


 私――十羽とわにはとっても可愛い幼馴染がいる。

 幼馴染の名前は一菜いちな


 黒髪のショートヘアーが可愛くて、ほっぺたはお餅のように柔らかくて、仕草は小動物みたいで。一言で表すなら、可愛い以外言葉が見つからない。


 学校にいる時はずっと一菜と一緒。そんな日々が楽しくて、一日が一瞬で終わってしまうのはいつものこと。逆に土日は退屈だった。


 そんな彼女は私が『好き』と言うと必ず照れる。今日も例外ではなかった。



 ――夕焼け色に染まる帰路。別れ際。


「またね、一菜。好きだよ」

「ま、また……ね……バタン」


 すると、一菜はいきなり倒れた。どうしたんだろう? 変なこと、言ったかな?


「どうしたの? 大丈夫?」

「こんなの、立ってられないよ」


 立ってられない、と言われたので、手を貸すと……。余計に彼女の身体はガクガクと震えだした。


「さ、触……ひゃあああ」


 手が触れたことに驚く一菜。

 私には気持ちがよく分からない。


「何で立ってられないの?」

「だ、だって……! す、好きって……」

「一菜は私のこと、好きじゃないの?」

「す、好き、だけど……うわああーん」


 何故か一菜は猛ダッシュで遠くへ行ってしまった。


 ?


 友達なはずなのに、一菜のことがまだ分からない。ちょっぴり謎多き子だ。



 とある日の教室でのこと。


「おはよ、一菜」

「おはよう。十羽」


 私は朝、教室に着いてすぐ一菜に話しかける。


 ん? なんか今日の一菜、いつもと違うような……。


 そして私は、彼女のある変化に気づく。ほんの小さな変化だが私は気づいてしまった。


「一菜、前髪ちょっと切った? めっちゃ可愛いんだけど」

「なっ、なんでそんな事に気づくの!? %○€〆〜〜」


 可愛いと言われた事と小さな変化を気づいてくれた嬉しさにより、一菜の思考は掻き乱される。お陰で呂律が回っていない。


 そんな興奮状態な一菜に対し、私は至って冷静。


「好きだからに決まってるじゃん」

「す、好き!?!? ちょっとトイレ!」


 何でそんなに驚くんだろう……。

 待って、って言ったのに猛ダッシュで一菜が去っていくもんだから、追いつけなかった。



 ***

 一菜Side


 授業中。

 今日は朝から色々あったせいで、わたしは授業どころじゃなかった。


笠原かさはらさん。聞こえてますか」


 笠原というのはわたしの苗字。


 ぼーっとしていたが、先生の大きな声により、現実に引き戻される。


 わたしは勢いよく立ち上がり、こう叫んだ。


「はい。好きです!」


 先生は一瞬目を丸くしていたが――


「そうかい、そうかい。そんなに私の授業が好きだったのか。先生嬉しいよ。当然好きな授業なら、この問題解けるよな?」

「分かりません!」


 しーん。


 あっ、わたしったら。

 十羽に好きって言うはずが、みんなの前で『好き』って言っちゃった……。


 それからも授業は終業時間まで続いていく。


 十羽に可愛いって言われて、すごく嬉しかった。


 毎日、可愛いって言われたい。

 十羽に可愛いって言われるなら、毎日髪切ってたい。そのうち、禿げちゃうのかな。でも禿げてもいいや。十羽に可愛いって言われるなら――。



 いや、やっぱ禿げは無しね。


 ***



 放課後。

 私と一菜はドーナツショップに寄っていた。

 いちご味からミント味まで幅広い種類のドーナツが売っていた。


「一菜は何味がいい?」

「……」


 やはり一菜は先ほどからぼーっとしている。


「い、一菜!」

「ふえっ! な、なに……?」

「ドーナツ、何味……」

「私ははちみつ味でいいよ」

「おっけー」


 ドーナツが運ばれてくるまで、テーブル席で待つ。


「一菜、大丈夫? ちょっと様子がおかしいよ」

「だ、だって、十羽が『可愛い』とか『好き』とか言うから……」

「言わないほうがよかった?」

「ううん。

「じゃあ、これからも――」


「――大変お待たせしました。いちごドーナツとハニードーナツ、それからホットコーヒーです」


 店員さんが甘い匂いを連れて、席までやってきた。


「来ちゃったね、食べよっか」

「……うん」


 それから暫く、無言でドーナツを食べる。

 話す話題が無いというか、ただひたすら気まずかった。


 ドーナツを食べ終わり、店員さんに下げてもらう。


「今日は大好きな一菜と美味しいドーナツが食べられて、幸せだった」

「うん、わたしも。……って……、大好きっ!?!?」


 いきなり両手で顔を覆い、足をバタバタさせる一菜。


 顔は林檎のように赤くなり、心拍数は急上昇。


「どうしたの! 一菜」

「……」

「って、顔赤いけど、熱でもあるんじゃないの?」

「熱は無いと思う。全部十羽のせい」

「ごめんね! ドーナツ不味かったよね!」

「ドーナツは不味くないよ」


 錯乱状態の一菜を連れ、店の外へ。

 もう夕陽は沈み、薄暗かった。


 しばらく無言だったが、唐突に一菜は言った。


「十羽と二人きりになりたい」

「二人きり? そうだなー、じゃあトイレにでも行く?」


 多分、ショッピングセンターのトイレになら、もうこんな時間だし、人は少ないはず。ワンチャン二人きりになれるかもしれない。


「トイレは嫌」

「そっか。じゃあ、ちょっと歩くけど橋に行こう」


 コクリ、と一菜は頷き、再び歩き出す。


 ――そして、橋に辿り着く。


 夕暮れ時の川は月に照らされ、光り輝いていた。


「やっと二人きりだね」

「うん……それで話があるんだけど」

「なに?」

「わたし、十羽が好き」

「私も一菜が好きだよ」


 だが、一菜は首を左右に振る。


「そうじゃなくて。わたしのは特別な感情というか……」

「それって……」

「うん。恋愛対象として好き。だから、十羽に好きって言われる度にドキドキしてたの」

「そうだったんだ。それなら、考える時間をちょうだい」

「うん。分かった。そしたら、返事は明日にでも……」


 不安そうに俯きながら、手を振って私から離れていく一菜。


 その後ろ姿を見て思った。


 私は一菜を追いかけたいって。


 もしかしたら、一菜と付き合えたら、今まで以上に幸せになれるかもしれないって。


「考える時間はそんなに要らなかった」

「!」


 気づけば私は一菜のすぐ後ろまで来ていた。無意識のうちに彼女を抱きしめていた。


 小さくて温かな背中に触れる。


 私がこの子を守ってあげたい。そんな気持ちが芽生える。


 だから、私は彼女に告げる。


「――好きだよ」って。











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