第28話 噂、再燃

 せっかく静かになったが、助けて貰ったという口コミが、また広がったようだ。

 そして金持ち疑惑が広がる。


 やすい居酒屋に行くのは、相手を選別をしているとか、噂が出ているようだ。

 そこで初めて、おごるのに、安い店じゃ駄目だったのかと気が付く。


 直樹は、多少だが人の付き合いに対して、相手がどう考えるということを、考えるようになったようだ。


 十六夜と講義を受けていると、またコソコソとウワサされている。


 直樹はまた俺かと思っていたが、みんなの視線は直樹の後ろに向いていた。


 そう、後ろにいる怪しい青年。

 ニコニコ顔の、怪しい奴。


 かなり抑えてはいるが、魔の者だ。


「キミって、何者?」

「それは、お互い様だろう。これを飲め」

 当然聖水を机の上に置く。


「うーん。それはちょっと遠慮するよ」


 年的には、十八歳くらい?

 この時期に、黒いコート。


 まあ、サマーコートという物もあるし、別に良いけどね。

 目は赤いし、普通じゃない。

 問題は、それを周りが気にしていないこと。

「あの子だれ? かわいい」

 などという声が、聞こえる始末。

 

 思わず、いやほんとに。

 他意はない。

 何も考えず、浄化を発動をする。直樹だし。



 意外と、教室内で叫び声が上がる。

 カハッという感じで、口から黒い何かを噴き出す人たち。


 そして彼は、体中から黒い煙を上げて、燃え始める。

「なっ。この力。光の導師……」

 とか言いながら。


 まだ睨んでくる。


 さらに攻撃を加える。


 おかしな事に、何もない感じで授業が進む。

 教室全体に、特殊な結界が、張られているようだ。


 鬼がよく使う、予定調和の結界。

 この中では、ある特定の決まったことが行われる。


 それは、普通の人間には破れず、決まった所へ収束する理が創られる。


 だが、直樹はそれに囚われず、力を発動が出来た。


 そこで、すべてが壊された。


 彼と共に、やって来ていた力なき鬼達は、早々に消滅をしてしまった。


 そして彼は、その昔、酒呑童子と呼ばれていた、力あるもの。


「ぐううっ。卑怯者め」

 そう言いながら、かれも燃えてしまった。


 直樹が聖水をばら撒く前、こんな出来事が世界中で繰り返されていた。


 古のモンスターが創る特殊な結界。

 一般のエクソシストが、多く犠牲になった。

 それは、逆に吸血鬼などのモンスターに、力を与える結果を残した。


 それを変えてしまった物。それが聖水。

 周囲に振りまき、飲むことで、被害をなくした。


 聖書や十字架が役に立たない中、聖水だけが、その理を破る。


 そう教会の、権威を支えたもの。


 面白い事に、それでも授業は進む。

 彼、かわいいねなどと言っていた者達は、途端に興味を無くしてしまったようだ。


「これって何ですか?」

 十六夜が不思議そうに、周りを見回している。


「妙な力の流れがある。結界かな?」

 力の元は、教室外に施された呪符。


 強引に、力で解放をする。


 何かが割れる音。

 そして燃え上がる、周囲に張られていたポスターや広告。


 教室の周囲で、幾つものボヤが発生をする。


 当然、鳴り始める火災報知器。

『火災です。全員避難を開始してください』

 自動音声が流れ始める。


 やっと周りも、騒ぎ始める。

「とけたかな」

「何かあったの?」

「何だろう? 呪術的な何かのような気がする」


 そうして、皆と一緒に教室を出るが……

「今なら空いているだろう。食堂に行こうか?」

 そんな事を考えたが、当然しまっていた。


 仕方が無いので、グランドへ向かう。


 自動通報なのか、消防や警察がやって来る。


 その結果、俺達がいた教室の周囲で円状にボヤが起こっていた事が発見される。

 むろん、監視カメラには、いきなりはじけるように炎が噴き出していた。

 原因不明。


 ボード自体に、何かが仕掛けられていた形跡はない。

 つまり、張られていた紙が燃えた。


 燃え残っていた紙や灰を、警察が集めていったが、何も発見できなかったようだ。


 こそこそと、魔の者達が動いている。

 その事は、こちら側で共有される。


 ただ俺の周りで、動いていた者達は、あいつが大物だったようで、そこから狙撃をされる事もなくなった。


 だが、直樹の周りに集まる女の子。

 その中に、嫌な感じを見せる者達が増えてくる。

 そう色仕掛け。


 ちょっと意識を集中すれば分かるのに、直樹は鼻の下を伸ばしてホイホイと、乗ってしまう。

 それも、小雪達に黙って。


 反省をして、少し高級なお店。

 周りに、女の子を侍らせて調子に乗る。


 モテなかった男が、モテ始めた。

 そう…… それは、仕方が無い事。


 今までの人生が悪かったんだ。俺は人生を取り戻す。


 そう、自身を言い聞かせハマっていく。

「直樹。えらく調子に乗っているけれど、彼女達はお金だけが目当てなの。自重をしてね」

 えらくご機嫌で帰ってきた直樹に、皆が釘を刺す。


 だが聞く事は無い。

 直樹は、調子に乗っているのだから……


 そして、ひょいひょいと付いて行き、怪しい連中に囲まれる。

「此処でパーティをするの?」

 いまだに、そんな、のんきなことを言う直樹。

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