第27話 自由になったが、危険はやって来る……

 直樹は、自由を喜んでいた。


 大学を歩けば、やって来ていた女の子達が来なくなった。

 見知らぬ人としゃべるのは、意外とストレスになるのだよ。


 目が合うとそらされ、見かけるとひそひそとされるが、何はともあれ自由だ。


「なんだか落ち着くなあ」

 そう彼は、つかの間の平和を楽しんでいた。


 先日の救済。それが、水面下で広がり、芽吹くまでの一瞬のラグ。

 そう女の子達は、互いに牽制し、あの人借金取りに追われているんだよと噂を流していた。

 まあ、『噂の流布』は、モラルハラスメントなんだけどね。


「うーん、最近。直樹の周りにいるのはガードじゃなく、借金取りだという事になっているみたいよ」

「それはそれで、問題…… ないなあ」

「いいの?」

 十六夜が心配そうに聞いてくる。


「いいんだ。その方が実害が無いから。一緒に遊んだりしても、俺の場合。楽しいよリストレスが多いんだよ」

「えぇー。私たちも?」

「いや、身内は別」

「そう。良かった」


 そう言ったとき、危険察知がお仕事をする。

 銃弾の飛来。


 黒い力を纏った、特殊弾。


 通常張っている、簡易シールドを突き破る。

 すぐに、強化型を張り、弾を止めて浄化する。


 方向を見据えて、犯人を見つける。

 近くのビルの屋上に、雷が落ちる。

 痺れされるタイプではなく、殺すレベル。

 魔に感染している奴は丈夫だ。


「もう一発」

 もう一度、雷が落ちる。


「ふう。流石に大丈夫だろう」

 

「ねえ…… 嬉しいけれど、流石に恥ずかしい」

 十六夜を守るために延ばした左手。

 それは、十六夜の胸にしっかりと添えられ、今この状態で狙撃があり、攻防をしているのを分かっているのは本人だけ。


 つまり、当然向こうのビルを見つめ、その隙に十六夜の胸を触る。

 確かに、雷が派手に二回も落ち、視線は外れただろうが、平日の昼間に大学構内で彼女の胸を揉んでいる、とんでもやろうという事だ。


 その事を、幾人の人が見たかは分からない。

 だが、いくつかの目は、確かにそれを捉えた。


「あれって、彼女かな」

「彼女って、院生にいなかった?」

「あー。見たことがある」


 また怪しい、噂が広がっていく。



「あの男は、何者だ?」

「教会の関係者。あの聖水に関与しているはずだ。本部から命令が来ているからな」

「それは分かっている。問題は五百メートルほど離れた所からの狙撃に気が付き、防ぐと同時に、すぐに雷系の魔法を、キッチリ撃ち込んで来た。どう考えても普通じゃないだろう」


「そう言えば、そうだなぁ。でも僕にも出来るよ」

「魔人と、普通の人間を、同レベルに並べるなよ」


 魔の者達も、こそこそと何かをやっているようだ。


「ねぇ。直樹さん。流石にここでは、少し恥ずかしいです」

 二度目の声をかけられて、状態に気が付いた。


「えっ。少し?」

「もっと人が少ないところなら…… 男の人でそういう趣味があるとか聞きましたから。恥ずかしいですが、慣れますので……」

 うーん? ああっ。露出系とかそういう奴か?


「ああ、違う。その、今狙撃をされて」

 そう言って、落ちていた弾を彼女に見せる。

 二センチくらいの長さの弾。


 それを見た、彼女の目が大きく見開かれる。


 そりゃ驚くよな。

 俺だって初めて見た…… って、触って良かったのか? 犯人の指紋とか……

 まあ、触ったものは仕方が無い。

 犯人は死んだかな?


 悩んだ末、神崎さんに電話をする。


「弾はよくある 、NATO弾ですね」

「良くあるんですか?」

「ええ、西側のものですし」

 A4用紙のペラを見ながら、説明をしてくれる。


「それで犯人は?」

「お見事です。ですが、単なる旅行者となっています。入国をして全然手がかりは無し。ジャゾン=デュゲ三十五歳。仕事は建設業。二年ほど従軍経験あり。以上ですね。銃の入手。その他も不明です。ビルの監視カメラでは、手ぶらで入ってきています」

「じゃあ誰かが、あらかじめ置いていたという事か」

「そうですね。まあこれからも、ありそうですので、気を付けてください」

 不穏な言葉を残して、出て行ってしまった。

 最近、神崎さん。俺の扱いが雑になった気がする。


「まあいい。俺はだがな」

 彼女達へ、手が伸びると面倒だな。


 小雪を相手に、少し試してみる。

 能力の移譲をすると、力が半分になるから、それではなく、祝福を与えてみる。


 そう、繋がっているときに力を流し込む。

 いや、手を繋ぐだけでも良いのだが、なんとなく。


 今、ダイエットのためにエッチをするという、謎のローテーションが組まれているから、こういう時以外は、飯時しか会わないんだよな。


「ふがああ。にゃにこりえぇ」

 そんな声を上げて、引っくり返った。


 後で、瑠璃は良いとして、十六夜ちゃんはどうしよう? ウエルカムなのは分かっているが、気が引けてしまう。

 だが一緒にいれば危険で、大学では一番一緒に居る時間が長い。


 そして、手を繋げば良いというのを失念し、彼女と繋がってしまった。


「あっ。手を繋げば済んだのに……」

 横で、うっとりした目で俺を見る彼女。


 まあ良いか。


 彼女の頭をなでる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る