第21話 有意義な対談

 魔道具店に通い続けて4日目。

 ようやく10人目の奴を探してきた。


 俺に帰ってもらいたいのだろう、ゲイナーはこの4日間。帝国の商人、帝国の武器商人、雑貨屋、王国の魔法組合会長、手品師、または近所の主婦や娼婦までもつれて来た。


 一応は話をするもどれもこれも話のわかるような奴はいなかった。

 俺の経歴を見ては、よいしょし、さらに交渉が上手くいかないと脅してくるような奴らが多い。


 なんだったら今の俺は死んでもいい。

 いや、死にたくはないがこの5日間の事を無かった事までにできる。


 今日はどんな奴を連れてくるのか。と思ったら隠し扉が開いた。耳を隠す大きな帽子をかぶり、どこにでもいるような恰好で身分を隠してるエルフ。



「なーに。ゲイナーが私に合わせたい人がいるって……あれ、何か懐かしい匂い……」

「シルフィーヌ様。こちらが魔術の話を聞きたいと言うオージィ伯爵様です。この国では上位貴族であって……」

「パス、パス。人間の地位なんてトップぐらいしか興味ないわよ。それにしても……もしかして」



 なるほど、お前が来るのか。

 エルフのシルフィーヌ。過去の時間で俺を殺したエルフ2人組の1人だ。俺は腰に付けている袋をシルフィーヌに投げつける。



「っと……うわーなっつかしい。この匂いがたまらないのよね。で? 何者」

「紹介にあずかった大伯爵のオージィだ。それよりも。お前の仲間のは今日はいないのか?」



 シルフィーヌの目が細くなった。

 帽子をとり、その長い耳を見せつける、隣にいたゲイナーが慌てているが、事情は知っているのだろうおろおろしてるだけだ。



「あれ、私の耳を見ても驚かないって事ね。君、本当に何者?」



 俺が片手をあげると、セーブクリスタルを手に飛ばしてきた、俺はそれをキャッチして腰に付けた。



「このアイテムを作った奴と旧知の仲だ」



 嘘は言っていない。

 何て言ったって何度も殺されたからな、利用できる事は利用してやる。それにだ! あれだけ俺の希望を一度は消したんだ、その腹いせもある。



「ふーん。私の部下は今日はいない、君の答えはこれでいい?」

「ああ、それでいい……エルフの技術を教えろ」



 俺が、かなり下手にでて交渉すると、シルフィーヌの眉が中央による。



「却下」

「これほど下手に出てるのに断るのか」

「これだから人間って……そもそも下手に出てないわよね。こっちは馴染の店が一大事だからって任務も切り上げて来たのよ。それがいきなり技術を教えろって君、馬鹿でしょ?」

「馬鹿はお前だ」

「君ねぇ」

「そもそも、俺がお前の正体を知っている、コイツは喋ってはいない。それだけでお前の弱みを握っていると感じないのか?」



 はったりだ。

 弱み何て一つも知らない。だが、俺がお前の顔やエルフを知って驚かない。さらには古代種と旧知の仲とブラフをかけているんだ。

 こいつは鹿だからひっかかるはずである。


 現にシルフィーヌは考え込んでいるからだ、こいつは馬鹿の中でも一応は理性はある。

 前回あった時も決して手は出してこなかった。



「何か聞きたいの?」

「冗談、それこそネクロマンサーにでも捕まえて」



 なるほど。

 この口ぶりからすると出来ない事はないのか。

 まーそりゃそうだろう、ネクロマンサーとして目覚め国を追われた話などよくある話だ。



「俺が求めているのは完全体だ。いや体など手足の1本ぐらいならなくていい。100%に近ければ近いほど」

「まるで狂信者。始祖に何か吹き込まれた?」



 始祖とはクインのことだろう。それでもシルフィーヌは椅子に座りだした。



「あんまり交渉は得意じゃないのよね、でも一応はアールスカイに恩義はあるし席には着くけど、十数年に一度はそういう事言い出す人間いるのよ、話だけは聞いてあげる」

「それはいいが、ゲイナー。お前は邪魔だ」



 こんな話を第三者に聞かれると面倒な事間違いない。



「オージィ伯爵。この自分にも何か褒美を」

「では、お前が開発している、マジックロッド。魔石は大きければ大きいほどいい。という事はない。帝国にいるカールという、死にそうで死なない男を訪ねろ。アレが精霊の魔石を持っているはずだ。上手くだまし込んで買い取れ。確か東方にあるソバという食べ物が好きだったはずだ」

「へっ……えっいやどこでその話を……それは」

「他にも何か助言がいるのか?」



 俺がそういうとゲイナーは直ぐに隠し部屋から出て行った。

 大きな声で、自分は旅に出る! と言っているのが聞こえてくる。



「さて。邪魔者はいなくなったな」

「カールなら私も知っているけど、ほんっとうになんなのあなた」

「伯爵オージィとだけ」

「え、いやまって……あなたオージィ!?」



 何を言っているんだこの女は。



「俺が王子にでも見えるのか?」

「…………見えるわ。シャンティ第一王女の婚約者。オージィ=オーサよね。上手くいけば第二王子ぐらいにはなっていたんじゃない?」



 俺は黙ってシルフィーヌの顔を見る。



「下らん過去の話だ」



 俺が言うとシルフィーヌが腕を組んではため息をつきだした、もう一度俺の顔を見た後にさらにため息を出す。



「何のつもりだ」

「何もないわよ。あれだけ好青年だった天才騎士がね、こんなむっさい眉間にしわのよったオジサンになっているんだもの、悲しくて悲しくて。昔遠くから見かけた事あるのよ、確か剣術試合だったようなきがする」

「ふん」



 俺とて別に好きで歳をとったわけじゃない。

 なんだったら中身は既に60歳近い、俺としてはまだ若いと思っていたのだがな。

 それよりも、過去に俺を見かけた事のほうが大事だ。剣術試合……当然城での事となると、このエルフが城の誰かと繋がっているのが筋だろう。



「エルフは何時までも年を取らないのか。あの古代種だなんて何時までも子供の姿だ」

「あーあのエルフだけは別。あの人は外観が若くなっていくのよ」

「ほう」



 俺の記憶では10歳前後の姿に見えた。



「それでも後数千年以上は生きそうだけど」

「迷惑な話だ。ああいう奴は捕まえて幽閉でもしとけ」

「へぇ……あった事あるのは嘘じゃないみたいね。君、私達にそれが出来ると思う?」



 無理だろうな。

 遊び半分で、いや遊びですらなく都市を崩壊させるような奴だ。

 幽閉した所で勝手に出て行くだろう。



「それぐらいは努力しろ」

「無茶いうわね、で……君何の話だっけ?」



 こいつは。



「ふん。年取った老婆には記憶力が無いと見える」

「は?」



 俺の背後にある脱出用の窓ガラスが割れた。

 部屋の中に強風が吹き荒れテーブルの上にあるワインビンなどが壁にぶつかり砕け散る。



「君ねぇ別に殺しはなるべくしないだけで、禁止されてるわけじゃないよ口の聞き方があるなじゃい? こっちは先輩よ」



 たく、これだから力を持った女は。

 軽い冗談を言っただけだろうに。



「すぐに力に頼る所が馬鹿なんだ。考えても見ろ、このオージィ伯爵が何も切り札が無いと思っているのか? お前の素性……もちろんそこまでは詳しくないが、連れの存在も知ってる。のを忘れてないだろうな」



 部屋の中の風圧がだんだんと弱くなっていく。

 逆立てた髪が自然に戻ると不機嫌であるがシルフィーヌが椅子に座りなおした。



「君、人間にしておくのがもったいないよ。口だけなら魔族にも勝てそう」

「無意味にかってもな」

「ええっと、死者蘇生……もしかしてシャテナ王女の事?」



 ふう。

 暗黙の了解というか、久々にその名前を耳にした。

 だれもかれも、名前は出さないというのが鉄則になっていたのだ。



「…………死んだ女の事なぞ知らん。俺が死者蘇生をしたいのは。今の王の事だ、いよいよ高齢だからな。不用意に死んでは困る。それにだ、俺がシャテナ王女を生き返らせたいとして死体はどうする? 墓から取り出すのか?」

「それもそうね。おかしいな当たったと思ったのに」



 正解と言わなければいいだけだ。



「お前達エルフは長寿の生命を作ろうとしたらしいな。その技術はどうなった」

「そこまで知ってるは凄いわね。全部失敗よ、エルフの血を集めて家畜や人間に入れた事はあるけど、精々伸びて10年」

「ほうでは……」

「それよりも作物ね」



 シルフィーヌは馬鹿であるが技術の話では案外解る女のようだ。

 俺が長年も研究していた話についてきて、なおかつ答えも持っている。



「君人間のくせに面白いね」

「お前こそエルフの癖に面白いな」

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