第10話 オージィとクラリス
エリカにとても趣味がいいとはいえないカバンを買い与えてから8日ほどたった。
俺としては出来る事は今はないので黙って時間をつぶす。
窓から外を見ると4階の書庫室から馬に乗った数名が屋敷内に入ってくるのが見えた。
「やっと来たか」
俺が呟きしばらくすると部屋にノックがされる。
「オージィ伯爵様!」
「要件は分かっている。客間へ通せ」
扉越しに命令するとマーケティの足音が遠くなる。軽く上着を羽織り、腰のホポーチにはセーブクリスタルを入れ客間へとゆっくり降りてく。
扉を開けると、想像した顔がそこにはあった。
「こっのロリコン伯爵! 来たわよ!!」
「…………何度も何度も俺はロリコンではない」
「何度もって初めて言ったんですけど?」
ちっ、確かにそうなるのか。
「それよりも、手紙だ。受け取ったようだな」
「当たり前じゃない、貴方が私宛に個人の手紙だなんて何事かと思ったわ…………その…………」
「クラリス隊長! この方が?」
初めて見る男がクラリスに声をかけている。
「ああ。ごめん。ウチの隊のニューエース。フェイス君」
「隊長。君って自分はもう22歳です! どうもフェイスといいます」
「フェイス……フェイス……ああ、双剣のフェイスか」
「「え」」
クラリスとフェイスという男が俺の顔を見て無言になる。
「どうした?」
「いや、だって……彼が双剣使いなのは私しかしらないわよ……フェイス君言った?」
「……いえ……隊長に言われる通り双剣にかえたのは王都を出る前ですが……」
まずったか。
話題を変えなくては、ええっとだな。
「それよりも、いくら辺境とはいえ伯爵だ。部下の口の聞き方を教えて置け」
「ああ、教えたからこの口調なのよ」
この女!!
「それよりも、手紙もそうだけど貴方の娘を見せなさいよ! もう楽しみで楽しみで」
この女は……! まぁいい、ここで無理に合わせないと先ほどのぼろが出る。俺はマーケティに命令しエリカを呼ばせる。
すぐにメイドのメイファに連れられてエリカが入ってきた。
「は、は……はじめましてとございます! え。エリカ=オーサ! 16歳です!」
「可愛い! 赤い髪は地毛? あっメイドさんも可愛いわよ。少し借りるわね、背も小さいー、胸は……うう。負けた。フェイス君も触ってみる? 手なんてぷにぷによ」
「いえ! 自分は」
当たり前だ、初対面の男が突然に触りだすような事をしたら処刑する。
「変人伯爵にイジメられたら直ぐに言うのよ? お姉さんが守ってあげる、なんだったら養子も解消させてあげるから」
「だ、大丈夫です! オージィお義父様は凄く優しいです!」
「言わされてない? ちょっと貴方。脅しはひどいわよ」
「…………違うわ。それよりも俺が呼んだ理由」
本題をいうとクラリスは椅子に座りだす、なぜかエリカを横に座らせた。
「鉱山に現れた魔物の巣」
「そうだ」
「嘘かと思ったけど本当らしいわね」
「当たり前だ、それに南西の下水道の壁壊れていただろ?」
「ええ……貴方が偶然耳にしたらしい情報を教える代わりに助けろって、壊れた部分は合っていたわね」
いくら俺がかっこよく、上手く辺境を守っていてもだ。王都にいる騎士団なぞホイホイと呼びつける事は出来ない。
逆に魔物が出て自らの力で処理できないとなると最悪は無能とみなされ没収という事もないわけはない。
「にしては人数はまさか二人だけであるまい?」
俺は可能な限りの戦力を求めて書いた。
それがこの二人だけであれば、逃げる事も考えないといけないからな。
「なわけないでしょ。っても一部隊全員は無理、私達いれて15名ほどの5分の1程度ね。そもそも貴方が自分でいけば早くない?」
クラリスの言葉で謎の沈黙が訪れる。
空気をよまない義娘が小さく手をあげはじめた。
「クラリス様」
「んもう可愛い、クラリスでいいわよ」
「えっ! で、でも……」
「第二王女命令。はい異議は申し立てませんー」
エリカが俺に助けを求めて顔を見るので、命令に従っておけ。と、小さく助言をする。
「あの。じゃぁええっとクラリスさん、オージィお義父様が行けばいいってあの、強いんですか?」
「強いってものじゃ無かったわよ。性格はともかく剣の腕は確かだった」
「昔の話だ。20年以上前だ剣は握っていない」
「なわけないでしょ! 12年前よ。私覚えているもの」
おっと未来の分を足してしまった。
今の時代で言うと12年前になるのか、7年後には怪我もあり剣を握る選択肢はなかったしな。
「何にせよ、今は保留中だ」
「あら以外ね。もう二度と剣を握らないって言うのかと思っていたわ」
俺としてはそうしたい。そうするべきだ。と思ってはいるが、目的のために縛りをつけるほど馬鹿ではない。
使えるなら何でも使う、過去に戻れたんだ、そのためには捨てた剣を再び使う事もあるだろう。現に全盛期の俺であれば、前回の王都で変なエルフに殺されなかった可能性もある。
「あっそれと、これパ……国王から貴方宛に手紙。もちろん中身は見てないわ」
「………………嫌な予感がするな」
「そうなの? 絶対に渡してくれっていわれたのだけど」
手紙を受け取り中身を確認する。
鉱山区にある王族ご用達の夜のサービス店のチケットが入っていた。黙って破り捨てる。
「え、あっちょっと!」
「気にするな。中身をよんだら消せ。と書いてあった」
「そうなの、まっ何にせよ剣を握るならうれしいわね」
クラリスが嬉しそうに言うとエリカが横にいるクラリスのほうを向いた。
「え。あのーそれじゃなんで辞めたんですか」
「「……………………」」
俺もクラリスも無言になる。
もちろん辞めた理由はある、その理由はクラリスも知っているだろう。まったく馬鹿だな話を長引かせる事でもなかった。
俺の口から伝えてもいいが、自分の失敗を言うつもりはない、それにそれを俺の口からいうと俺がしたい事が露見する場合もある。
禁呪も扱うのだ、出来るだけ秘密にしたほうがやりやすい。
「………………さぁ…………よし! それじゃちょっと鉱山まで案内して頂戴。現場を見ないと動きようがないし」
「…………そうだな。マーケティ、馬車はいらん俺も馬で出る」
「あっそれじゃフェイスの使って」
話がトントン拍子に決まり俺は見送りつきで馬に乗る。
隣には先に乗ったクラリスが俺の周りを一周して急かしてうざいな。
「では、マーケティ。夜までに戻らなかったらこの女に裏切られたと王に伝えろ」
「なわけないでしょ! フェイス夜までに戻らなかったら民の避難と第二部隊への増援を」
お互いに返事を確認し、馬を走らせる。
よく訓練されたいい馬だ、初めて乗せた俺の言うとおりに動く。
「ちょっ早くない?」
「ちっ」
「うわっ舌打ち……そのさっきはごめんなさい。貴方が剣を辞めたのはシャテナ姉さんの事が――」
「ちっ……気にしてない。過ぎた事で結果が変わるわけでもあるまい」
「ごめん。
なってもいない事を言うな。
無視だ無視。
町を少し迂回して分かれ道に入る、先日は右にいき今日は左だ。
堅くなった道に切り替わり何人かの鉱山夫とすれ違う、問題があったのは奥の方だ。
開けた場所で馬を降りると、キーファが小屋から飛び出してきた。
「オージィ伯爵様! と……クラリス第二王女様!?」
「騎士団の隊長であり友人としての身分よ、そこまで気にしないで」
「はっ」
かしこまっているキーファに馬を降りながら質問する。
「埋めた場所は? あんないしろ」
「は。内側からカリカリと音がして依然よりも大きく……こちらです」
キーファの先導の元鉱山へ入る。
しばらくは中止。と聞いていたが掘れる場所で掘っていたのだろう数人の鉱山夫とすれ違っては感謝される。
少し空気が悪くなると、キーファがここです。と岩が崩れた場所に案内した。
耳をすますと確かにコツコツコツと音がする。
「這い出てくるわね……最初の予定は?」
「使えない領民とともに爆弾で埋めるつもりだった」
「…………冗談でしょ?」
冗談ではないし俺が黙っているとキーファが震えた声で話し出す。
「オージィ様の冗談ですよ。現に使える物は全部使っていいと、鉱山夫にすら休み中の保証をだしています」
「やるじゃない」
結果的にそうなっただけだ。
こんな事なら文句だけいう鉱山夫と共に埋めたほうがやはり良かったな。
「あっそうだ私も爆破するなら少し持って来たから、ほら手投げ弾、魔石を使った最新式の――」
俺は信じられない物をみた。
鉱山の奥に空気の悪い場所、ほこりや粉じんがある場所でクラリスは手投げ弾を持ち出す。
「おいっ!」
「えっうわっ」
手投げ弾の紐がとかれ先端が地面に――。
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