第4話 忠誠を捧げる相手

 思わず低俗な言葉が出るほど面倒だ。

 貸出禁止の本を探しに来たのに貸し出しされてるとは何事か、しかもそれが王の命令でだと……。


 まぁいい。

 貸し出した人物を特定し直接交渉するしかないな。

 俺は王達が住むエリアに行くと、兵士の前に立つ。



「オージィ=オッサが来た。王への面会を申し立てる」



 兵士は俺の言葉が聞こえないふりをして視線を合わせようとしない。



「オージィ=オッサが来た。ゼン王への面会を申し立てる。馬鹿か?」



 扉を守る兵士はそれでも目線を合わせようとしない。

 さて、そうなると俺としては命令を出すしかない。



「鉱山地区領主、オージィ=オッサが正式に――」

「ちょっと! ちょっと!!」

「…………ちょうどいい。どこぞの兵士長クラリス、この役立たずを左遷させろ。どうやら耳が付いてないみたいだからな」



 俺の言葉を聞いたクラリスは顔を歪ませる。



「でっきるわけないでしょ! 誰も通すな話を聞くな! と職務に忠実よ。貴方ぐらいだわ……他の大臣や秘書官すっとばして直接住居エリアに来る変人は……」

「俺だって国にかかる要請なら手順は使う、なに個人的な会話だ。例えばだ。クラリス隊長、お前が持っているその剣を作ったのだ誰だ? そんな簡単な質問だ。そんな事に3日も4日もかけて時間調整するほうが馬鹿と思わないか? 頭の悪い隊長にもわかるように説明したつもりだが理解できたか?」

「失礼、現在は職務を終えて第二王女ですわ。口の聞き方を間違わないように」



 俺が無言で兵士長ではなくなったクラリス第二王女を見ると、クラリス第二王女は突然に噴出した。



「まぁでも一理あるわね。貴方みたいな変人に3日も4日も使う方が馬鹿らしいわ。それに貴方の言う通り下水の南西側の損傷が激しかったのも確認したし、私の客人って事で入っていいわよ」

「最初からそう言え」

「何かいいました?」



 黙って首を振る。

 住居スペースに入っても兵士が何人も立っている。そのエリアを抜けると小さい中庭があり、そこから私室になる。


 部屋に入ると椅子に座っている王が俺を見ては驚いた顔をしているのが見えた。



「お主……まさかやはりクラリスと結婚か!?」

「パパ! 私は変人とは結婚し、ま、せ、ん」

「だろうな……13年後でもお前は独身だ」

「は?」



 っと、余計な事をつい口に出してしまった。



「いや。そうなるかもな……という忠告だ。それよりも王よ。書庫にある魔術の本を誰に貸し出した? それを次に俺も借り受けたい、なんだったら取りに行く」

「…………突然すぎるのう。それに魔術ときたか、お主は魔術本などインチキな本は処分すべきじゃ。と会うたびに言っておっただろうに」



 余計な事は覚えてるボケ王め。

 13年前、いや現在の俺であればそうだろう。実際に俺が趣味ぐらい見つけただどうだ魔術など面白いぞ。と言われ買いたくも無い本はどれもこれもゴミのようだ。コインを消す魔法や筒から布を取り出す魔法。どれもこれも魔術ではなく手品だ。



「気が変わった」

「…………あんたねぇ」



 横にいるクラリスが呆れた声を出してくる。



「別に不自然ではあるまい。魔術嫌いが突然魔法に目覚める事もある」

「それはそうじゃが……何。旧友が訪ねてきてのう、それに関する書物は間違いもあるので廃棄したい。と貸し出しではなく廃棄じゃのう」



 ちっ。

 思わず舌打ちがでた。



「お主! 今王に向かって舌打ちした!? クラナスお前も聞いたか!?」

「………………き、聞こえませんでしたわ。それよりも私からもこの変人……じゃないオージィ伯爵の進言で下水道の南西地区。そこの壁を調査しましたが、進言通り崩落がすごかった。あれは少し大きな雨季でも来たら大洪水になる。兵隊長として進言してもいいんだけど、後回しにされるだろうし直接パパに」



 なんだお前だって面倒な手続きをすっ飛ばすじゃないか。



「何かいいました、オージィ伯爵さ、ま」

「何も」



 小声で言ったのに聞こえるとはな。

 クラリスの言葉にゼン王がひげを触りだす。



「ほう、自分の事しか考えないお主から国の事を心配されるとはのう」

「俺だって心配ぐらいはする。魔……いくら鉱山を持っていても売る相手がいなければ困るからな、休戦中の帝国に持っていくのは骨が折れる」



 場がなぜか沈黙になる。



「とにかく紹介しようにももうこの国におらんと思う、異国の出身者でな……もちろん休戦中の帝国ではないぞ、現在は流浪の旅をしてると……それとクラナスよ壊れた下水道は部隊のほうで処置を許可する」



 あくまで誰かを言わないつもりか……俺としては別に誰でもいいが、全くの無駄足と言う所だろう。



「要件は済んだ」

「お主、本当にそれだけの用だったのか!?」

「…………当たり前だ。他に何がある」

「墓参りなど……」



 ゼン王は言葉を途中で切った。



「するつもりはない。いや依然の俺ならしただろう……が、今はしない」



 クラリスが何かを言いたそうに俺を見ているが、何も言って来ない。



「帰るなら護衛つけるわよ? あなたの従者帰らせたんでしょ?」



 キーファ達の事か。



「気遣いだけを貰っておこう、少し城下街に行きたいんでな」

「護衛もつけずに?」

「護衛がいては入りにくい所もある、それに帰り道は一人のほうがなれている」



 俺がそういうと、ゼン王がわざとらしく咳をしだした。

 風邪か? しかし13年後までは病気で倒れたという話は聞いた事がない。


 俺もクラリスもゼン王のわざとらしい咳が落ち着くまで待つ。



「クラリスよ……その、男には触れられたくない店も」

「触れられたくないって何よ」

「ほら、こやつも何だかんだでまだ若い、その身体的にも興奮する場合が――」



 何の話だ。



「あーーーーー! うわーー! え、そういう店!? 信じられない……あーだから娘を連れてこなかったわけね! そういうお店が好きなら自分の領地に作ればいいんじゃないの」



 なるほどそういう事か、こいつらは何が勘違いしてるな。

 クラリスが席を立つとさっさと消えていく、隣にいたゼン王が俺に親指を立ててくるが、全く違う。



「ゼン王よ、悪いが俺はそういう店ではなく」

「わかっておる! 人払いをしただけじゃ」



 ほう、流石は王というわけか。

 王は小さい紙を懐からだすと、俺に手渡してくる。

 四つ折りにされた紙を開くと王家の紋章に、出血大サービス。女文字でかかれた文字が見えた。



「普通のプレイではなく王国屈指のアブノーマルな事もしてくれる店の紹介状で、たのし――」



 俺は黙ってそのメモを破り捨てた。



「何を! 口が堅くトップレベルのだな」

「話聞いていたかゼン王よ……少し書店を見て回りたいだけだ。要らぬお節介は不要」

「……そうか、お主がワシを恨むのは分かるが、クラリスを悪く思わんでくれ……少しでもお主に許されようとな……」



 やはり勘違いしている。

 俺は久々に王にひざまずく。



「俺の王への気持ちは感謝だけだ」



 王が喋らなくなったので俺は立ち上がり王の住居を後にした。

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