第3話 クラリス=スカイ第二王女

 殺されてから翌日、と言っていいのか。目が覚めても過去にいた。

 もしかしたら過去に戻った事が全部夢であの時に死んでいる事実は変わらない。とも思ったがきちんと12年と365日前の朝は来るようだ。


 強い酒を飲んだので頭が痛い証拠も現実である事を証明していた。

 水を飲み、気分を変える。

 衣服を着替え、鏡の前へと立ち尽くす。


 多少引き締まった体に若くなった顔。初老となった時とは大違いだ。にもかからわらず記憶は13年分ある。


 少し鍛えるか……? あの時みたいに下半身が麻痺しするとまた魔道具に頼る事になるしな。

 俺は過去……未来に大型の魔物に襲われ下半身が麻痺した事がある、その時に義娘の紹介で魔術を使った回復を行った。


 インチキと思っていたソレは実験だったにもかかわらず俺の体とばっちり合い日常生活なら問題ないまで回復したのだ。

 そこからだ、俺の長年の夢が開始されたのは、それにあの下半身が動けなかった1年間は思い出したくもない。


 体が異状ない事を確認した後、食堂へと入る、いつもどうりに昔の執事が立ち料理番をしていた。

 俺が座るとテーブルに並べられていく。

 肉を切り、一口目を口に入れた所で、扉が大きな音を立て開く。



「寝、寝坊! し…………失礼しました」



 段々と小さくなる声を言うのは義娘で、その後ろからメイドが息を切らせて入ってきた。

 俺の顔を見たとたんに青ざめプルプルと震えている。バツでも与えると思っているのか? これでも俺は絶対的なミスを犯した奴以外にはバツを与えない。その割合だろう……領主たるもの甘い顔をしていれば反乱がおきやすくなる。

 食事の時間に騒がしいからとバツを与えた事はない。



「無理に合わせるな。と言っただろう」



 俺は肉を一口食べ終えてから、もう一度立ち尽くしている二人に向き直る。一度で理解できないのか、仕方がない。



「いや、まだ言ってないな、無理に食事の時間を合わせなくてもいい、好きに食べろ……いや1つ忠告をしておく。この肉も野菜もパンですらこの土地に住む代わりに俺たちが得る当然の権利だ」

「はぁ……いえ。はい。そうですね」



 理解したのか知らないが俺が食事を終える頃に義娘はテーブルの反対側で食事を開始し始めた。

 俺としてもそんなつまらない物を眺める必要はないのでさっさと席を立つことにする。


 何か言いたそうな顔で俺を見てるが、俺からは何も言う事はない。


 さて少し調べるか、歩きながら考えをまとめる。

 この時代は魔法は魔法使いの特権だ。


 特に今いるアールスカイ王国は魔術や魔道具の進展は遅い、7年後に起きる帝国との正式な和解後に一気に流通が始まる。

 流通が良い事だけでもないが。少なからず魔術、魔法、魔道具などに関しては帝国が入ってきたおかけで一気に解明されたのは事実である。


 俺の今いる鉱山区では必要な書物も何もないのが現状だ。であればだ……王城に行くしかない。

 あそこであれば貸し出し不可の本もあるはずだ、城までは馬を使えば10日ほどである…………遠いな。

 早馬で駆ければ4日でいけるか、仕方がない。



「マーケティ!」



 俺が叫ぶと執事は少し遠くから走ってくる。



「は、はい!」

「少し城に行く。午後までに馬車などを手配しろ。それまでは書庫室にいる」

「はっ!」



 命令を伝えると執事が足早に消えていく。

 これでいいだろう、書庫室に戻り当時買わされた一部貴重な魔法書を眺める。

 当時はインチキと思って処分したが数年後に1冊だけ本物があったのを知った。



「これだな」



 タイトルすらない本で中身は文字と呼ぶには不思議な文字が書かれている。エルフ文字だ。

 今では俺も簡単な暗号化されていないエルフ文字なら読める。



「はずだが、ダメだな暗号化されている。やはりエルフを探すしかないな、後は予定通り城の書庫に入り手かかりになるような本を探すしかないか」



 本を閉じ、旅支度を整える。

 窓から見える庭では義娘があちこち走り回って、その後をメイドが一人必死について行ってるのが見えた。

 まぁいい、俺を殺すにしても来たばかりでは何もできるまい。


 しばらくすると執事が呼びに来た。

 外に出ると豪華な馬車が1台と護衛馬車が3台ほど集まっている。

 俺はその中で年長の男へと話しかけた懐かしい顔だ、13年先には生きていない男。護衛や遠出をする時のリーダー的な人物だったはずだ。



「名は確かキーファだったな」

「へえ。どうなされました?」

「なに相変わらず無駄な人数だな」

「何をおっしゃいます。領主であるオージィ伯爵様を護衛するんです、少ないぐらいですよ」

「…………悪役伯爵でもか?」



 俺がそういうと、その年長の男は引きつった顔になり始めた。周りの男達も困惑した顔になり始めた。



「城まで」



 俺は短く言うと懐かしい馬車へと乗り込んだ。

 義娘が言うように、どうやら俺は領民からは慕われてないらしいな。この時代でこれだ、13年後はもっと下なのだろう。


 いっその事領主を辞めてもいい話であるが、研究のために金はいる。全く考える事が多くて嫌になるな。



 ――

 ――――



 順調に進み、10日ぴったりに城へとついた。

 王国アールスカイ。

 魔物が多いこの場所に村を作った一人の男から始まったとされ、その男の名前をもじった名前になっている。

 現在の王は年老いたゼン王。長生きで13年後も同じゼン王だ。


 そんな事を考えていると城下街を過ぎて城の前で止まった、ここからは馬車から降り城の中へと入る決まりとなっている。



「うわ。ロリコン伯爵」



 馬車から降りた背後から不名誉な挨拶をされた。伯爵とえば貴族の中でも上から数えたほうが早いぐらいの格式だ、それを突然馬鹿にするやつはそうそういない。それも女の声でだ。


 俺は声の方へ振り向くと、懐かしい顔を見ては挨拶をする。

 金髪であり王族と言うのに特注品の鎧を身に着けた女性騎士であり戦乱の姫こと第二王女クラリス。

 最後に会ってから随分と若くなっている印象だ。と、いうか若いのか。




「これはこれは、クラリス第二王女様じきじきのお出迎えとは」

「今は騎士隊の隊長よ、気を使わなくて大丈夫でーすーわー」

「では俺に何か用事か?」

「………………前々から年寄りみたいな喋りと思っていたけどいよいよね、見た目よりも20年ぐらい年取った感じ」



 まったく相変わらず感が鋭い、しかし20年ではなく13年後だ。

 剣の腕も顔も悪いほうではない、それゆえに王国内外を問わず人気になるはずだ。



「で、要件は?」

「別に無いわよ。先だってオージィ伯爵が城に来る。という情報が入りこうしてとして様子を見に来ただけ。で……噂の子供はどこ? 連れて来たんでしょ? 可愛い? まさか……いや、前々から思っていたけど変な事してないでしょうね?」

「変な事?」



 何の話だ?



「そ、そのままのいみよ! 前々から女、男に興味がないのに、私との婚姻の話が出たとたんに養子をとるって嫌がらせは凄いわね。お掛けで変人からも断れた女として有名になれたわ!」



 なるほどな。娘じゃなくて娘という名目で愛人でも買ったのかって意味か。



「…………良かったな。義娘は屋敷にいる、では」



 色々言いたい事はあるが必要以上に喋りたくはない。

 俺はそれだけいうと城内に入ろうとして、後ろから肩をつかまれた。振り向くとクラリスが俺の肩をつかんでいる。



「義娘って名前ぐらいあるでしょ――」

「まだ用事が? こんな鉱山しか取り柄の無い領地もちに絡むよりもっと警備をする場所があるのではないのか? 例えば地下下水の南西が壊れているのではないのか? 早く修理しないと大雨が降った場合洪水になるのではないのか?」

「えっ」



 手が離れたので俺はそのまま歩き出す。

 2年か3年か後に酷い雨季がくる。その時にそこから水が流れ城内の地下が水びだしになった。と屋敷で聞いたからだ。


 身軽になった俺はまっすぐに城内にある書庫室へと入った。

 名の通り王国内外の貴重な書物を保管する場所で一応管理する人間はいるがこの時代では人気はなくもっぱら左遷された人間が管理しているはずだ。


 城内に許可なしで入れるような人間は当然、書物庫にも入れる。

 そもそも、そのための兵士だ。

 怪しい奴は馬車を降りた時に捕まるし、ここに来るまでも警備をしている兵を何十人も見ている。


 俺が城内を勝手に歩けるのは先ほどの第二王女、もしくは隊長とよんだ方がいいクラリスのお墨付き。と言う奴だろう。


 書庫の扉を開けて入ると、本特有の香りが鼻につく。



「悪くない」



 広さはさほど広くは無くなんだったら13年後の俺の屋敷にある書庫のほうがまだ広い。しかし、今回は量より質だ。

 椅子に座って寝ていた女が俺を見ては飛び起きた。



「寝、寝てません! 何をお探しでしょうか!」

「…………自分で、いやエルフに関する本はあるか? この時代ならまだ残っている可能性がある」

「珍しいですね。でも残念でした、先日まであったんですけど3日ほど前に貸し出ししました! ひい! あの、怒らないでください!」



 別に怒ってはいない。



「城の書物はいつから貸し出し制になったのだ? 本来王族が許可しない限り貸し出しは禁止になっているはずだ」

「は、はい! ですから王の許可で………………」



 ふざけるな! と叫びだしたい所を我慢し、邪魔したな。と書庫室を後にした。

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