第21話 使い魔にしようか
村に帰ってきた。
帰ってきたって表現は変か。僕の住んでる村じゃないし。
とにかく、ノルンちゃんを家に帰すため、村までやって来たのだった。
しかし。
「やっぱりついて来るんだな」
「そりゃそうだよ。ね? オオカミさんは恩返しがしたいんだもんね?」
「アウ!」
オオカミとしてはそういうことらしい。
ここまでの道すがら、ノルンちゃんに聞けば、デカいオオカミの気持ちはわかるということがわかった。
加えて、オオカミの忠誠心というものが、ただの伝承でも演技でもないということもわかった。
道中、僕に尽くすためだろう、僕が感知するより先に魔物を倒し、加えて、僕の指示によって魔物の狩りを行ってくれた。
つまるところ、ノルンちゃんが以前僕に期待していた、使い魔を得たような状態だった。
「僕について来てくれるのは嬉しいけどさ。そういえば、オオカミの親とかは大丈夫なの?」
なんか人間みたいなことを聞いてしまったが、オオカミはその言葉を解したように、少し思案顔をしてから吠えた。
「アウッアウアウアウッ」
「ふむふむ。なんだって? ノルンちゃん」
「親はいない一匹狼だから大丈夫だって」
「なるほど」
一匹狼、か……。
親はいない、天涯孤独。僕と一緒じゃないか。
「本当に仕方ない。これもきっと何かの縁だ。本格的に契約しようか」
「契約?」
「そ。言ってしまえば、ここまではなあなあの口約束。僕もこのオオカミも、お互いに裏切ろうと思えば裏切れるような状態だったわけだよ」
「そんなこと、お姉ちゃんはしないよね?」
「しない。というより、できないようにする。普通の魔法使いがするようなものより、よっぽど強固なものでね」
要するにテイム。
細かいことは割愛するが、僕の持つ精神操作魔法を絡めて、本来の契約魔法以上にお互いの行動を制御するわけだ。
「何をどうするの? もしかして、魔物の生贄が必要なの?」
「生贄? ああ。イメージ的にはそんな感じなのかな。でも、生贄なんてものは必要ないよ。ただ、名前をつければそれでいい」
「名前?」
「オオカミやオオカミさんなんて他人行儀でしょ? それを改めるんだよ。僕だって不便に感じてたところだからね、ちょうどいい」
「そんなことで契約? になるの?」
「なるよ。たとえばそうだな。ノルンちゃんはさ、人間って呼ばれたら嫌じゃない?」
「多分嫌」
「でしょ? そういうこと。ノルンちゃんにはノルンって名前があるんだからさ。せっかくならその名前で呼ばれたい。単にそれだけじゃなくって、名がないよりも名があった方が感情移入がしやすいからね。それを儀式の工程にするのは昔の人たちにとってもわかりやすかったんだろうさ」
「儀式? 感情移入? どういうこと?」
「ちょっと難しかったかな。とにかく、オオカミに名前をつければ、それでオオカミは僕の使い魔になるってこと」
「使い魔!」
使い魔という言葉に反応し、ノルンちゃんは大きく開いた目を輝かせた。
そしてそのまま、オオカミの方へと向き直りバシバシとその足を叩く。
「よかったねオオカミさん。これでお姉ちゃんの立派な眷属だよ」
「アウッ!」
やはり会話が成立しているように見える。
オオカミはノルンちゃんの言葉を受けて嬉しそうに一声吠えた。
眷属なんてそんな大層なものではないが、認識としては大して変わらない。
それにしても、村の真ん前で大きなオオカミが吠えているのに誰も出てこないなんて……。
僕の疑問が伝わったのか、ノルンちゃんは大丈夫だよと僕に言った。
「みんなこの子の声には慣れてるから。寝てても起きないくらいには信頼してるんだ」
「そっか。すごい信頼だな……」
僕としては慣れても起きそうなほどの大音量だが、これもまた生活環境の違いだろうか。
まあいい。
「さて、名前か」
「ガルちゃんとかは?」
「かわいいけど、もう少し考えてみようよ」
「うーん」
ガルちゃん。でいいとも思うけど、正式名称ガルちゃんは、このオオカミに対して個人的に嫌だ。
となると、ガルちゃんと呼べるような名前ってのがいいんだろう。
ふむ。ガルア、ガルー、ガルラ、ガルガル、ガループ。
名付けのセンスないな。でもガルラは悪くないんじゃないか?
「ガルラとかはどう?」
「どんな意味?」
「ガルちゃんって呼べて、あとは語感だけど」
「いいと思う!」
「オオカミはどう?」
「アウアウッ」
文句なし、そんなところだろう。
僕は伏せの姿勢になったオオカミの額に手を当てて、契約魔法を発動した。
特段何かが起こることはない。ただ、これで終わり。
少しばかりの変化として、魔力探知を使わずともお互いの居場所がわかるくらいのことはあるが。
「契約成立だな」
反抗されることはなかった。きっとガルラという名前が気に入ってもらえたのだろう。
「さて、ガルラ早速仕事だ。この村の警護をしてくれ」
「え。でもお姉ちゃんの使い魔なんだよ?」
「いいのさ。今までそうしていたのに、今さら変えたんじゃ不都合が起きるかもしれないからね。いいかな、ガルラ?」
「ガウッ!」
僕の問いに、ガルラは今までで一番威勢のいい声を聴かせてくれた。それから、僕の言いつけを守るようにウロウロと村の周囲を歩き始める。
これで、僕のところにいるよりも食べ物にありつけるだろう。
それに、ノルンちゃんの住むこの村の方が、よほど馴染んでいるようだし、きっと、ガルラとしても暮らしやすいはずだ。
「……お前はもう一人になるなよ」
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