第12話
そして放課後、俺はリクオを伴って帰宅した。
帰り道にする同世代との他愛もない語らいは楽しかった。話題はストコレだけではなく、クラスメイトの話や年中行事からリクオがしているというアルバイトの話まで及んだ。
本当に他愛もない話だったけど、俺の心は浮き足立つほど充実していた。
「おっじゃましまーす!」
デカい声で挨拶したリクオは脱いだ靴を丁寧に揃えている。
なんて礼儀正しいヤツなんだと思いつつも俺は来客用のスリッパを並べた。初めて訪れる家で緊張しているのか、リクオは落ち着かない様子でキョロキョロと辺りを見回している。
「気にしなくていいよ。誰もいないから」
「え? ニーナちゃんは?」
「夕飯の買出しに行くって言ってたな」
「じゃあ家族の人は?」
「……び、ビバリーヒルズ……」
「はあ?」
「いや、ちょっと旅行中なんだよ……」
「マジで!? じゃあニーナちゃんと二人暮らし!? なにそれスゲー羨ましい!」
「そうか? どちらかと言えば早く出ってほしいけどな……。そんなことより編成と装備見せてくれよ」
「おお、いいぜ!」
リクオを引き連れて二階の自室に移動した俺は勉強机の面積ほとんどを占めるPCの電源を入れた。今日はパソコンが立ち上がる余韻に浸ることはない。今日に限って言えば早く立ち上げて友とゲームについて語りたいという想いが先行している。
リクオがブラウザにIDとパスワードを入力すると見慣れた画面が映し出された。
見慣れているはずだが見知らぬ画面ともいえる。そこにいるスト娘は姿形が同じでも、やはり違っていた。個人によって色が出るといったところだろうか。同じ自転車でも他人と自分のチャリの見分けが付くようなものだ。
そんなことを考えているうちに慣れた手つきでマウスを操作するリクオがスト娘たちの装備一覧を表示させていた。隣から画面を覗き込んだ俺は、あまりに適当な装備と編成にしばし開口してしまった。いくら初心者でもこれは酷すぎる。
「おいおい、なんだよ。削岩機がブレーカーモードなのにクロスビット装備してるじゃねえか……」
「え? ダメなん?」
「こんなの基本中の基本だぞ。この組み合わせだと有効なダメージが与えられなんだ。ブレーカーモードならモイルポイントとかアスファルトカッターなんかを装備しなきゃいけないんだよ」
「へえー、さすがだな!」
感心しているのかしていないのか、リクオは拍子抜けするくらい適当な返事をした。
「……まあ、でも全体的にスト娘たちのレベルが低いから二の三はまだ難しいかな」
「そっか、まあ地道にやるかぁ」
「ふ、ストラトだけにな」
「なんだそれシャレかよ、あほかーっ!」
リクオはカラリと笑う。
ストラトコレクションのストラト、正確にはストラートとはオランダ語で〝道〟の意味らしい。つまりこれはストラトコレクションをやっている人間にしか分からないシャレである。
リクオの表情を見てなんだか嬉しくなり俺も笑っていた。
あれ? いま、なんだかスゲー楽しいぞ……。ああ、これだよ、俺が求めていたものは……、心許せる友とこんなやり取りがしたかったんだ……。
「ところでよ、フヒト……テンプレ展開あったりするのか?」
リクオの声色が変える。それはストコレをやっている時よりも真に迫るものだった。
「テンプレ展開?」
俺は意味が解らず聞き返す。
「ほら、ニーナちゃんが風呂入っているのに間違えて入っちゃったり、着替えを覗いちゃったりってヤツだよ」
「はあ? そんなことある訳ないだろ。これだから童貞ってヤツは……」
やれやれと言った具合に俺は肩を竦めた。
――し……、しまったぁぁぁっぁぁ!
まったく意識してなかった! 昨日は家に帰ってきてから二人でテレビ観たり、談笑したり飯食ったり普通に生活してたんですけど! 風呂とか超スルーだしアイツが使っている姉ちゃんの部屋なんか絶対立ち寄らないし、でもアイツは頭脳はポンコツ見た目は美少女だし、ラッキースケベくらいしとけばよかった!
「えー、なんだよ。つまんねぇなぁ」
「つまんねぇってなんだよ! 大体オレとアイツはなんでもないんだ」
「でもペットだとか言ってたじゃん?」
「あ、あれは別に恋人とか友達とかじゃないって意味で……」
「そうなのか? ふーん」
そのとき、ノックもなしにニーナがドアを開けて入ってきた。
「フヒト様ぁ、早めに夕飯にしますか? 先にお風呂としますか? それともアタシでしますか? きゃーっ! なんちゃってですぅ! あれ? あなたは確か……」
助詞がバラバラなことは置いといて、お風呂とするってなんだよ……、風呂と何をすんだよ……、それにアタシでするってなんだよ、アタシでナニをやらせようってんだ……。
とにかく最悪だ。これじゃあ普段からそんな阿呆くさい会話をしているみたいじゃねぇか……。
「あ……、どうも同じクラスの山根陸夫です。よろしくね、ニーナちゃん」
「はい、よろしくなのです」
ぺこりと頭を下げるニーナ。
「うわぁ、それにしてもやっぱりニーナちゃんは可愛いなぁ」
どうやらリクオは思っていることを口に出していくスタイルらしい。器用なヤツだと思う。俺とは正反対とも言えるだろう。
「もうお世辞は困りますよー」
両手を頬に当てたニーナをわざとらしく首を左右に振った。
困ってない困ってない……、喜んでるじゃねぇかよ、このアマ……。
「リクオさんもよかったら一緒に夕飯どうですか?」
「ええ? いいの? やったぁ! いいのかフヒト?」
「ああ、いいんじゃないの? どうせ大量に作るし」
「あ、お風呂も沸いてますので夕飯の前に入ってくださいね」
「俺はしばらくリクオとゲームやっているからお前先に入っていいぞ」
「そうですか? じゃあお言葉に甘えて一番風呂いただきます!」
右手の指先をビシッとこめかみに添えて敬礼したニーナは上機嫌で階段を降りて行った。
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