第35話 カツジ、それでええんか?
ビジネスメールでネット検索をしてみても下手に出る書き方しかヒットしない。
俺が求めているのは交渉に有利になる様な敏腕経営者がここぞと言うとき使う書き方だ。
「そんなんネット検索で分かったら世の中敏腕経営者だらけに成るだろ」
俺は悩んだ末どういう検索ワードを使えば一流ビジネスマンのテクニックが見つかるのかと高林に尋ねたら足立に横から正論を言われた。
「親父が言ってたけど結局自分と相手の人柄に合った商売の仕方するしか無いから、ビジネスのテクニックなんて参考程度にしとけってよ」
しかも足立が、足立のくせにちゃんとしたことを言う。
何だろう、足立が時折見せる金持ちっぽい部分を見ると胃がクッてなる。
「うっせえなー、俺はどうしたら向こうに優位に立たれずパーティーに入るって言えるか考えてんだよ」
俺は余りにも胃がクッて成る物だから思わずダサい本音を漏らしてしまった。
「なあ明松、こう言う質問は失礼だろうけどそのパーティー大丈夫か? 優位に立つとか立たれるとか」
高林は心配するような目で確認してくる。
「いや、そう言う感じじゃ無くてだな、その、何て言うか俺にも色々考えがあるんだよ」
「でもよー、パーティーって命預けあうんだぜ? 信用できる奴と組んだ方が絶対良いだろー」
足立はどや顔で聞きかじった薄っぺらいセリフをのたまう。
「えーと、パーティーに入りますって送れば良いか、あっ、高林パーティーは信用出来る奴と組んだ方が良いらしいぞ」
「あーマジかーじゃあ不意打ちで握力マウント取ってくる奴とは組まねー方が良いかー」
「いや、ちょっ、ごめんって、もー明松余計な事言うなよ」
足立は一応謝罪は出来るようだが反省は出来ないタイプらしい、こいつの父親はビジネスうんぬんよりもっと息子に教えるべき事があると思う。
「言い出したのはお前だそしてまずお前がバカな事すんな」
高林がそれなりに真剣に足立を征すると足立は今度は頭を下げてもう一度謝罪した。
「手相見せろとか言って人を騙しやがって」
「ふふ、俺の時は握手とかちょっと変えてくるのも腹立つな」
ぶっちゃけ俺のほうがちょっと工夫がない分余計に腹立つが引っかかってない俺が怒るとわけがわからないので適当に笑い飛ばす。
そうこうしている間に担任が教室に入って来てホームルームが始まった。
杵島からチャットの返事が来たのは放課後になって帰りの電車に乗った頃だった。
猫が万歳してるスタンプ1つ。
こちらがあれだけ待たせて、これだけ余裕のある返事をされるとどうも負けた気分になる。
しかし、勝ち負けを意識させた時点で向こうの手のひらにのせられて要る可能性すらあるここは適当なスタンプで応戦するか既読無視で通すのか慎重に吟味すべきだ。
「あ、カナメくん」
俺がつり革に捕まりながらしかめっ面をして考え込んでいると、そこそこ聞き慣れた若い男の声がする。
「ん? カツジ兄ちゃん」
声の方を向くと俺の家の隣に住む幼馴染みのカツジ兄ちゃんが本屋の袋を片手に電車に乗ってきた。
「久しぶりだね、どうしたのそんな怖い顔して」
俺は平均より少しだけ背が高くカツジ兄ちゃんは平均より少し背が低い、なのに幼い頃の刷り込みかカツジ兄ちゃんが時折実際より大きく見える。
「いや、ちょっと返信に迷ってて――」
俺は取り敢えず大まかな流れをカツジ兄ちゃんに説明する。
「でさー、スタンプ返しでこっちも軽い感じ出すか既読無視で寡黙に行こうかって」
「んー、スタンプで返すのはスピードが遅いとこっちの慣れてないのがバレるしチョイスによっては変な空気になるから、ここは既読無視で様子を見た方が良いんじゃ無いかな?」
さすが俺より3年長く地味に生きてきただけの事はある。
危うく俺は自分の持って居るスタンプが普段使いに向かない事を忘れる所だった。
「ところでマーちゃんに、週末に冒険者免許取るようにって言われたんだけど何があったか分かる?」
カツジ兄ちゃんの言うマーちゃんとは俺の姉ちゃんの事だ。
姉ちゃんは浪人生に何を言ってるんだ?
「えーと、日曜に俺が冒険者になって生産系スキルを引いてそれがなんか上手くやったら儲かるらしくって、えーと姉ちゃんはそれの下地作りって言いながら色々連絡してた」
「ああ、そう言う事か、一応よくわかんなかったから冒険者関連の本を見に行ってたんだけど役に立ちそうだね」
カツジ兄ちゃんは真面目すぎて損をするタイプだと、カツジ兄ちゃんに損をさせてきた姉ちゃんが言っていた。
俺は納得した様子で本屋の袋から取り出した冒険者入門と書かれた本をブックカバーなしでパラパラめくるカツジ兄ちゃんの将来が軽く心配になった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます