第35話 混浴温泉と晩餐


~第34話までのあらすじ~

 自然石の場所へ到着した響一行は、手順1「入れ替わりの大石おおいしを信仰せよ」の意味が分からず、そのまま数時間が経過してしまった。焦る響に伊奈瀬いなせが提案したのは、温泉で休憩することだった。




 響一行は、とある混浴温泉に来ていた。飛行板フライングボードで30分くらいの場所にある...というか、バグ調査組織RGBの施設のすぐ近くである。さっき通った道、というより空を戻ってきたのだった。混浴温泉に行くことになったのは、1秒でも長く響と一緒にいたいという、永久野とわのの提案だった。もちろん響は大賛成だった。


 そしてもう一つ、特記すべき重要なことがある。それは...


「響くん、さっきぶりですね!」

 あいりがいることである。

「りりーちゃん、はじめての飛行板フライングボード楽しかったでしょ~?」

「ま、まあまあね。帰りも乗せてって」

 茶緒とリリーもいる。


 響たちが話し合った結果、温泉でリリーたちと集合し、その流れでバグ調査組織RGBの施設で一泊させてもらうことになったのだ。RGBの施設が位置していたのは、実は有名な温泉スポットだったので、お風呂や寝る場所を確保する最適な結論なのであった。


 さて、ここの温泉には、泥湯で有名な露天風呂がある。更衣室は男女別となっているため、湯につかりながら移動して男女がばったりと会うことにより、混浴となるのである。


 響がさっそく温泉につかっていると、迫りくる2人の影。いつも通り、伊奈瀬と永久野である。響はあっという間に、柔らかい何かに包まれ、その気持ちよさに気を失った。


 目が覚めたら、響は1人、バスチェアに座っていた。にぎやかな声のする方を見ると、伊奈瀬たちとリリーたちの6人で、楽しそうに女子会をしていた。たまには女子だけの時間も欲しいよな、と思いながら、気付けば響は6人の中に飛び込んでいた。

「ちょっとひーくん!?」

 驚く永久野に対して、

「やっと起きたか響」

と冷静なリリー。響を交えた7人で談笑が始まり、気付けば全員のぼせていた。


 どこから湧いて出てきたのか、浴衣に着替え終わった響一行は、飛行板フライングボードでRGBの施設に向かった。歩いても10分かからないくらいの距離であったが、リリーがよほど飛行板フライングボードを気に入ったらしく、来たときのように茶緒に乗せてもらいたかったのだった。


 施設に到着したのは20時を少し過ぎたところだった。

「さあ、響くん。扉を開けてみてください!」

 そうあいりが言ったのは、大広間の扉の前。響が言われたとおりに扉を開けてみると...


 きらびやかに装飾された、パーティー会場と化していた。色とりどりの風船や壁にかけられたガーランド。長いテーブルの中央には大きなケーキがあった。


「皆さん...!こんなに盛大に誕生日をお祝いしてくれて、オレとても嬉しいです!」


 そして長い静寂。それを破ったのはリリーだった。


「...え?響って今日誕生日なの...?」

「一昨日ですけど...あれ?これってオレの誕生日を祝うための...じゃない?」


 言われてみれば。「Happy Birthday」の文字は、この空間に1つもなかった。

「ま、まあまあ!それも含めて始めちゃいましょぉ~!」

「おー!」

「お、おぉ」


 そうして名もなきパーティーが幕を開けた。



 あっという間に楽しい時間は過ぎ、リリーが貸してくれたベッドで響たちが眠りについたのは、23時を回ったところだった。今日の響は、糸葉と同じベッドで寝た。なかなか響と一緒に寝られない伊奈瀬は、とても悔しそうにしていた。今夜が響といられる最後の時間かもしれない、というのは、その場にいる全員が思っていることだったからだ。


 だから伊奈瀬は、糸葉と響が寝たのを確認して、バレないようにその端っこにもぐりこんだ。




小ネタ)

 響たちとリリーたちの連絡手段は、糸葉とあいりの携帯です。糸葉がアパートから連行されたその日に、連絡先を交換しておいたようです。今回はあいりたちと温泉で待ち合わせをしていたので、あいりたちは時間になるまでサプライズでパーティーの準備をしていました。

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