中間点C(1)

 家に帰ると、学校から電話がかかってきていた。

 保健室のベッドが一台、そこで寝ていた生徒(つまり、わたし)とともに忽然こつぜんと消えてしまったことが、ちょっとしたさわぎになっているらしい。

 わたしが無事に帰っていることを伝えると、くわしく事情を聞きたいと言われた。


 わたしはとっさに作り話をした。


 ──六時間目のあと、具合がよくなったので、ひとりで帰ることにしました。変な人? いえ、特に見てません。……あ、いや、やっぱり見ました。白い服を着て、ごわごわした長い髪の毛の女の人です。昇降口に立って、保険室のほうをじっとのぞいてましたよ。


 こんな感じで。


 それは、うたがいをわたしからそらすためだけの作り話だったんだけど……思った以上に重く受けとめられてしまったらしい。

 学校に不審者が侵入したなら防犯対策を見直さないと、という話になって、急遽きゅうきょ、翌日の学校はお休みということになったのだ。

 おかげでわたしは、思いがけない自由行動の時間を手に入れることになった。


 木曜日。

 早めのお昼を食べたあと、市の図書館で勉強するからと言って、わたしは家を出た。


 図書館に行くというのはうそじゃないけど、本当の目的は、この暮田市の古い歴史や怪談を調べることだ。

 できれば朝から出かけたかったけど、塾の宿題を終わらせるまでは外出しちゃいけないと、お母さんに見張られていたせいで、この時間になってしまった。


 とはいえ、ひとりで調べものをする自信なんてない。

 そこで、ダメもとで拝田くんにアドバイスをお願いしてみることにした。

 バスの中、クラスのSNSグループを使ってメッセージを送る。すると、意外な返事が返ってきた。


『だったら、うち来る? じいさんに頼めば、郷土史の本とか古い資料とか、いろいろ見せてくれると思うけど』

『え、いいの? おじいさん何者?』

『アマチュア郷土史家。つーか、おれが歴史とか興味あるの、そもそもじいさんの影響なんだわ』


 もちろん、ありがたくおじゃまさせてもらうことにした。



 拝田くんのおじいさんは、白いひげのよく似合う紳士だった。

 高校の先生をしていて、少し前に定年退職したばかりだそうだ。まさかと思ってきいてみたら、なんと、宛内学院の高等部で教えていたという。


 拝田くんが、わたしも宛内を受験することを説明すると、おじいさんはうれしそうに目を細めた。

「そうかい、そうかい。まあ、大正時代に設立されたような、古い学校だけどね。いろいろな学びのチャンスをあたえてくれる、よいところだと思うよ」

「は、はい。がんばります」

 C判定だけど、と、心の中でつけくわえるわたし。

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