第三階層・うしむし(2)
牛は、白と茶色のぶちもよう。
そんなに大きくはないから、子牛だろうか。
四本の足を投げ出すように横たわったまま、ぴくりとも動かない。
やたらと大きいハエが、ぶんぶん音をたてて、あたりを飛びまわっていた。
「な、なにあれ」
「……わからないわ。あたくしも、いま見つけたところなの」
そう言いながら、モネちゃんはさくのすきまをくぐり抜けて、牛に近づいていく。
わたしもおっかなびっくり、あとにつづいた。
モネちゃんは近くの柱にひっかけてあったホウキを手に取ると、その
「……なんだか、やけにすかすかしてるわね」
「死んでるの?」
「というか、まるで骨と皮だけみたいな……あ」
ぼすっ、と音をたてて、ホウキの柄が牛のわき腹をつきやぶってしまった。
モネちゃんがあわててホウキをひくと、ぽっかり空いた穴から――白いイモムシみたいな生き物が、うぞぞぞぞっとあふれだしてきた。
一匹一匹がソーセージくらいのサイズで、背中にブツブツしたもようがある。
「ひいいいいいっ!!」
わたしとモネちゃんは手に手をとって、一気に三メートルくらいあとずさった。
「やだやだキモイキモイ虫虫虫虫!」
「あ、あたくしも、虫はちょっと……。ハチの仲間には、獲物に卵を産みつけてその中で幼虫をかえすものがいると聞いたことがあるけれど……これも、そういうものかもしれないわね」
「怖いこと言わないでくれる!?」
あわててその場を離れる。
その先も、曲がりくねる通路にそって似たような部屋がずっと続いていた。
コロッケみたいな形に巻かれた干し草のかたまりや、さびて動かなくなったトラクターなどが置かれているあいまに、ぽつりぽつりと、同じような牛の死骸(?)が転がっている。
さすがにもう、近づいて確かめる気は起きない。
「どうやら、このフロアのモデルは牧場の
言われて、ここにはひとつも窓がないことに気づいた。やっぱり、ここって地下なんだ。
「でも、なんで学校の下が牧場?」
「もしかしたら、柚子さんの学校が立つ前、ここは牧場だったのかもしれないわ。かさなった地層のように、下に行くほど古い時代のものが出てくるのではないかしら」
そう言われて、わたしは昼間、拝田くんに教えてもらった話を思いだした。
「それ、当たってる気がする。わたし、今日、こんな話を聞いたんだ」
わたしはモネちゃんに、「うしむし送り」のことを説明した。
昼休み、拝田くんが話しかけてきたところから、牛の死と儀式の話まで。ついでに、保健室から持ってきたぬいぐるみとライターのことも報告しておく。
モネちゃんは真剣な顔でわたしの話を聞きおえると、花が開くように笑った。
「事前調査から、もしものときの備えまで。すばらしいわ。こんなラビュリントスなんて、もう、柚子さんひとりで攻略できてしまえそう」
「む、無理だよそんなの。モネちゃんがいないと、わたし……きっと失敗しちゃう。このぬいぐるみだって、どうせ、役に立たないと思うし」
「あらあら、そんなに
モネちゃんはそう言って、ちょっと悪い感じの笑顔をすると、床に置いたトランクの中をあさりはじめた。
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