第29話

 水雲は少し考えてから話し始めた、もちろん伝声国のことを。

「伝声国は、周辺国からはおかしな国と思われている。君たちも知っての通り、伝声国には伝声師がいて、それに仕える神女や神人がいる。しかも、この二種類の身分の者は、周辺の者の言葉を借りれば、怪しげな儀式を行う。だが、その儀式は、伝声国の者にとっては必要な儀式なんだ。なぜなら、伝声国の国王一族と、その民は我々伝声師一族が神から力を与えられている、と信じきっているからな」

「本当は違うのか?」

 俊野は目を丸くして聞く。それを聞いた瞬間に、水雲も呆れるしかなかった。まさか、伝声国の周辺国の一つである地海国の者まで、同じように思っていたとは。

 水雲は飽きれがちに首を横に数回振ってから続けた。

「神から力が与えられる、なんてことがあるわけないだろう? 我々が使っているのは確かに特殊な力ではあるが、決して神から与えられたものではない。あの力は全て、幻月観でできるものだからな」

「幻月観で? でも、そこはお前たちの住処じゃないのか?」

「そうだ」

「じゃあ、どうしてそこでお前の使う力ができるんだ?」

 水雲は俊野に答えようとしたが、やめた。俊野は訳がわからず、おい、と呼びかける。だが、水雲は少し考え直した後で、再び首を横に振っただけだった。

「それは言えない。伝声国の機密に関わる」

「そうか。わかったよ。じゃあ、続けてくれ。俺は、何も言わない」

「うん。でも、もう大して続ける事はないんだけどな。あと言うとしたら、伝声師、というのはもともと伝声国にはいなかったんだ。もともとは、何の力も持たない国師がいただけだった。だが、ある時、国主の弟に異変が現れたんだ。手からはよくわからない光が放たれ、しかもそれを人に向けると自分の意のままになる。そんな者の存在を当時の国主が放っておくわけがない。実の弟を危険視して、宮殿のはずれに監禁所を設けた。それが、今の幻月観だ。だがいつになっても、その国主は、弟が何も行動を起こさないのを見て、再び彼を信頼し始めた。弟の常人外れの力を使い、共に国を盛り上げようと考えたんだ。それに弟も同意したため、国主は弟に伝声師という称号を与え、代々世襲される、と宣布した。それ以来、伝声国は代々伝声師が一族で受け継ぐようになっている」

「それなら、最初は神女や神人はいなかったわけか」

「うん。だが、最初の伝声師から数えて五代目の伝声師になった時、伝声国に異象が起きたんだ。突然、宮殿に「予言」と称して皇女もしくは皇子を犠牲にして、伝声師の力をつけるべし、と言う文言が現れた。それ以来、現在に至るまで運悪く選ばれてしまった神女や神人は伝声師のために犠牲になる仕組みとなっている」

「それは誰が仕立て上げたことなのかはわかっているのか?」

 水雲はただ首を横に振るだけだった。伝声国には謎が多いと周辺諸国は思っている。だが、それは伝声国の者にとってもまた同様だった。伝声師である、水雲もその例外に漏れることなく。

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